先日、姫路市が主催している「かしの木学級」の、第3回講座に防災士として講師を依頼され、講演してきました。
かしの木学級とは、聴覚や言語に障害のある社会人のための講座で、社会人として必要な教養を高めるとともに、健聴者との交流をとおしてお互いの理解を深め、生きる喜びを共有する場として開設されています。
今回は、防災士のひとりごと#02として、講座のための調査や、実際に講演をし終わっての感想など、お話させて頂きます。
障がい者の方に向けての防災メッセージで注意した点
今回は聴覚障がい者の方に向けての防災メッセージとなるので、どの点に注意すればよいか、その点を重点に、先ずは講座の構成を考えて行きました。
障がい者のみなさんには、手話通訳者の方が私の言葉を、手話として通訳してくれます。
また、私の話を素早くパソコンに入力して、スクリーンに映し出す役割の方もいました。
専門用語はできるだけ使わない!分かりやすい常用語で構成
先ず注意して組み立てた点は、「防災特有の専門用語を極力使わない!」という点です。
例えば、一時避難場所(いっときひなんばしょ)や、一次避難所など、手話通訳しにくい単語、変換しにくい単語は避けました。
「一時的に集まる場所」や「最初に避難するところ」と言った具合に、私なりに噛み砕いた表現に変更して資料を作っていきました。
資料は2週間前には提出!ボランティアの方が把握するため
講座はパワーポイントで作成した資料を、プロジェクターでスクリーンに映し出して進行していきます。
基本的にどの講座も同様ですが、パワポの内容に沿って進むので、手話通訳の方や、パソコンへの入力者の方がパワポの資料にて、予習する期間が必要となります。
ですから、最低でも2週間前には資料を提出する必要がありました。
当日に分かったこと!大勢のボランティアの方に支えられている
いざ、当日になり会場に向かうと、既に大勢の方が集まっています。
ですが、マスクをしていることもあり、誰がスタッフで誰が受講生なのか全く分かりません。
目立ったのが、同じTシャツを着ている数十人の方でした。
手話通訳のボランティアは、「姫路手話サークル 虹の会」のメンバーの方々です。
事前打ち合わせで、ボランティアの方と面談
開始30分前に、事前打ち合わせを行います。
その時に、手話通訳の代表の方、パソコン入力の方など、ボランティアの方達と面談を行い、進行の手順や内容などを打合せします。
最も重要なのは、話すスピード。
早すぎると、手話通訳者の方が困りますし、遅すぎても内容を把握しきれないので、適度なスピードが求められます。
手話通訳の方無しでは、半分も情報は伝わらない
いつもテレビでは手話通訳をなんとなく見ていますが、今回は講義を行いながら手話通訳の方の背中を見ていました。
約90分の講義ですが、数名のメンバーの方が入れ替わりながら通訳してくれます。
後ろから見ていても、腕の動きの切れの良さがよく分かります。
そして、みなさん直ぐに汗をにじませていました。
それだけ、体力的にも手話通訳は大変なことだと、初めて実感しています。
そして、手話通訳の方がいなければ、スクリーンに映るパワポの資料のみなので、恐らく半分も情報は伝わらないでしょう。
講座一つとっても、障がい者の方を支えるには、多くのボランティアの方が必要であることも、体験することができました。
健常者と障がい者との見分けがつかない怖さがある
今回、障がい者の方へ伝えたいこととして、福祉避難所への直接避難を取り上げました。
令和3年5月20日施行の、改正災害対策法によって「福祉避難所への直接避難」が、できるよう法改正されています。
各種メディアでも取り上げられて、あたかも直ぐに避難が可能なように報じられていますが、現実にはそうなっていません。
兵庫県内および姫路市もガイドラインを制定中と回答
別記事でも取り上げていますが、今回の講演を気に姫路市を含めて複数の自治体に、福祉避難所への直接避難が可能であるか、取材を行いました。
姫路市を含めた兵庫県内の複数の自治体全てが、「ガイドラインを制定中で、まだ直接避難はできない!」との回答となっています。
なので、メディア発表とは乖離があるために、正しい現状を知って頂くために話をさせて頂きました。
「聴覚障がい者の方に必要な防災グッズとは!?筆談できるアイテムが必須」記事はこちらからご覧いただけます。 |
https://bousai.nishinippon.co.jp/1532/ |
手順の中で困惑していたのは、行政による見極め
障がい者の方が福祉避難所へ行くためには、一般の指定避難所にて行政の職員による見極めで、要支援者に入らないとなりません。
例えば、身体的な障がいのある方は一目で支援が必要であると分かります。
ところが、聴覚障がい者の方々は見た目では健常者となんら変わりありません。
自己主張しない限り、障がい者であるとは分かりません。
なので、自分たちが福祉避難所に行けるのか、とても不安を感じていらっしゃいました。
福祉避難所へ行く交通手段にも難色を示す方も
さらに、福祉避難所へ行くための交通手段についても、難色を示す方が多数いらっしゃいました。
手順によれば、指定避難所にて職員によって要支援者と認定されても、福祉避難所までの交通手段は、家族や知人に送ってもらうか、自身でタクシーなどを使って行かなくてはなりません。
必要があれば、行政に頼めばタクシーなどを呼ぶ代行はしてもらえることとなっています。
つまり、「福祉避難所へは自力でいけ!」と言われているのと、同じことと捉えられます。
このことを伝えた途端に、天井を見上げる方、ずっこける方、両手で×を作る方など、多くの方の動作で「不満」を感じ取ることができました。
それだけ、行政への支援を求めている証拠と言えるのでしょう。
かしの木学級へ通っている方は社交的!そうでない方は・・
かしの木学級へ通っている方は、比較的社交的な方で参加することにより、ボランティアの方ともつながりを持つことができています。
何かあった時に相談する、独自のネットワークもあるようです。ですが、社交的でない障がい者の方はどうなるのでしょう。
地域との交流もなく、災害時には取り残される可能性もある
障がい者であるマイナスイメージを持っていて、仲間の集う場所への参加もしないで、地域とのコミュニケーションを、拒んでいる障がい者の方も少なくありません。
民生委員の方は知っていても、数軒離れれば分からない方ばかりでしょう。
もしも災害が起きたら、1人で、もしくは家族の方と逃げなければなりません。
その時に、災害への知識があれば良いのですが、そうでなければ取り残される可能性は高くなってしまいます。
健常者、障がい者全ての方にとって有益な情報を発信したい
色々と考えることはたくさんありますが、健常者であっても障がい者であっても、先ずは「自分の命は自分で守る!」が、基本となります。
助かるためのサポート役を、予め作っておくのも自分なのです。
・どうすれば、災害から命を守ることができるのか?
・普段から何を準備しておけばいいのか?
・他の人はどうしているのか?
・必要な情報はどこから入手すれば良いのか?
自分の命を守るための情報は、「防災新聞」を読んでおけば分かる!
と言ってもらえる、全ての方に有益な情報を発信していきたい。
今回の講座を通して、そう強く感じています。