近年では、南海トラフ巨大地震の発生がクローズアップされていますが、実は「首都直下型地震」が起きることも想定されています。
2006年(平成18年)に地震発生の予測が発表されて、既に17年が経過しました。「今後30年間で約70%の確立で発生」と、いわれていたので、期間は約12~13年間と短くなってきています。
日本経済の中心である東京都を中心に、大地震が起きるとどうなるのでしょう。
そこで今回は東京都(区部)の被害想定を調査して「もしも、首都直下地震が起きるとどうなるのか?」最悪のシナリオを考えてみます。
2022年(令和4年)東京都が公表した被害想定をもとに想定
ここでは、2022年(令和4年)5月25日に、東京都が公表した「首都直下地震等による東京の被害想定 報告書」と、首都直下地震対策検討ワーキンググループの検討結果をもとに、最悪のシナリオを考えてみましょう。
都心南部直下地震に絞ってシナリオを想定
東京都が発表した被害想定には、次の8つの地震による被害があります。
- 都心南部直下地震⇒マグネチュード7.3
- 多摩東部直下地震⇒マグネチュード7.3
- 都心東部直下地震⇒マグネチュード7.3
- 都心西部直下地震⇒マグネチュード7.3
- 多摩西部直下地震⇒マグネチュード7.3
- 立川断層帯地震⇒マグネチュード7.4
- 大正関東地震⇒マグネチュード8クラス
- 南海トラフ巨大地震⇒マグネチュード9クラス
このうち、1:都心南部直下地震の被害想定に絞って、シナリオを考えてみます。
シナリオ1 揺れによる被害は死者最大約11,000人
首都直下地震では震度4~7までの揺れが、各地域に発生します。
都心の一部で震度7が予想されていますが、多くが震度6強および震度6弱となっています。
したがって、耐震補強が実施されている建物は倒壊を免れますが、そうでない建物は倒壊する確率が非常に高くなります。
揺れによる被害は、次のとおりです。
高層ビルでは揺れによって部屋で圧死する人数も増える
先の被害想定の死亡数には、高層ビルのなかで圧死する数は含まれていません。
都心の高層ビルは耐震・免振構造が施されているため、倒壊することはないでしょう。
しかし、高層階にいくにつれ揺れが激しくなり、最上階では震度以上の横揺れを体験することとなります。
大型家具やテレビなどが飛び交い、部屋のなかで圧死する事故が多く発生することが予想されます。
シナリオ2 火災は都心を取り囲むように発生!都外に逃げるのは困難に陥る
首都直下型地震が冬場の夕方に起きた場合、風速8m/sでは上図のように都心を囲むように火災が広がっていきます。
倒壊した建物も多く、都心から外へ逃げることが困難な状況となってしまうのです。
火災による焼失棟数は最大約610,000棟
都心南部直下地震による冬・夕方(風速8m/S)の条件下では、焼失棟数は次のようになっています。
想定では、建物倒壊による火災が19,800棟あるとされていることから、この数の建物が耐震補強が施されていないと推測されます。
車で逃げるのは無理!幹線道路は既に渋滞で動きがとれない
震度6弱から震度7の激しい揺れによって、JR・地下鉄・私鉄の電車は全て停止し、バスでの避難はもちろん論外となります。
頼れるのは車だけですが、幹線道路は既に渋滞し動きが取れない状況となっているはずです。
道幅の狭い道路はもちろんほとんどの道路で、倒れた電柱や建物によって通行不能な状況なので、脱出する方法がありません。
東京湾から船で脱出するしか方法がなくなる
ただし幸いなことに、火の手が都心方面へと急激に広がることはありません。
その理由は、木造家屋地帯から高層ビル地帯への広がりになるため、ビル群が延焼スピードを抑える働きをしてくれます。
とはいっても、ビル風による熱風が襲ってくるので、とにかく火の手からは逃れないといけません。
火事によって地上の温度が高温になると、大規模な上昇気流が発生します。この上昇気流は、竜巻が炎をまとう、火災旋風に変化していきます。
都心のビル群ではビル風によって、あちらこちらで火災旋風が次々に発生して、大きな被害をもたらせます。
そして東京湾へと追い詰められていき、海から脱出するしか方法がなくなってしまうのです。
シナリオ3 停電は約5割・断水は約1ヶ月続く地域も!避難者は最大約200万人
ライフラインへの被害想定は、停電は約5割の地域で発生し、約1週間は不安定な状況が続くと予想されています。
また、水道も都区部の約5割で断水が発生し、下水道は約1割が使用できない状況が続きます。
そして、全ての復旧は約1ヶ月と見込まれているため、この1ヶ月での避難者は最大で約200万人と想定されていますが、実際にはもっと多くの避難者となり、都心は悲惨な状況となってしまうでしょう。
約2週間は都心に物資が届かない状況になる
先の火災被害の状況を見て分かるように、都心周辺では多くの輸送路が遮断されてしまいます。
水道・電気が止まることによって、下水が機能していてもトイレを使うこともできません。さらに、都外からの給水車は都心に入ることができず、待機状態になってしまいます。
都心でも火災対応に消防車が出動して、使える水はほとんど使い切っている状況なので、飲料水不足は深刻な問題を引き起こしてしまうのです。
避難者が暴徒化!?無人のコンビニやスーパーを荒らす
命がかっかってくると、人は理性を失ってしまいます。先のトルコ地震でも起きているとおり、地震の影響で無人化したコンビニやスーパー、デパ地下などへ、飲料水や食料を求めて盗難被害が続出するでしょう。
ドアや窓を叩き割って店内に侵入し、飲み水や食べ物を奪っていきます。暴徒化した集団を止める術はないので、都内は荒廃してしまうかも知れません。
海からの支援も液状化によって阻まれる
それならば「海から支援すればいいのでは!」そう思っても、地震の揺れによって沿岸部は液状化し、車などは通行することができません。
もはや、飲料水や食料はヘリコプターなど、空からの投下に頼るしか無くなってしまうのです。
経済的損失は約95兆円と推定される
首都直下地震対策検討ワーキンググループでは、首都直下地震による経済的損失を次のように推定しています。
政府による対策の方向性について
この首都直下地震にたいする対策について、政府は次のような方向性を示しています。
1:首都中枢機能の継続性の確保
政府全体としての業務継続体制の構築、情報収集・集約、発信体制の強化、金融決済機能等の継続性の確保、企業の事業継続のための備え等
2:建築物、施設の耐震化等の推進
マグネチュード7クラスの地震は、どこが震源となるかはわからないため、首都圏全般での耐震化を推進する
3:火災対策
出火防止対策として、感震ブレーカー等の普及を促進する
まとめ
今回は「もしも、首都直下地震が起きるとどうなるのか?」として、最悪のシナリオを考えてみました。
南海トラフ巨大地震と並び、首都直下地震も近い将来起きる地震として予測されています。
日本経済を支える首都圏が壊滅状態になると、どのような状態になるのか想像すると恐ろしくなります。
国も多くの対策を講じていますが、自然災害に勝利した試しはありません。
やはり、各個人、各企業の防災意識の向上が被害を最小限に留めるための、ベストな方法なのかも知れませんね。
最後に、今回の考察に至る原因となった動画をご紹介しておきましょう。