ストーブなどを原因とする火災が多く発生する冬が過ぎて、やっと暖房器具が必要でなくなる暖かい季節がやってきました。
消防庁の令和2年版の消防白書では、1日当たりの火災による死者数は4.1人であるとされていて、火災による死因は火傷が最も多く、次いで一酸化炭素中毒による窒息死となっています。
火傷による死亡と聞いても、自分自身が体験していないので「ふう~ん」と何となく流してしまっています。では実際に、生きたまま炎に包まれるとどうなるのでしょう?
今回はセンシティブな内容が含まれますが、火災での死亡原因と、生きたまま炎に包まれた際に起きる状況を考えてみます。
火災による死因は火傷と一酸化炭素中毒!約半数が逃げ遅れによる
住宅などの火災時に一酸化炭素が発生する原因は、壁や柱などに使用している木材、生活用品で使っているプラスチック製品など、炭素を含む素材が酸素不足によって不完全燃焼することで発生します。
そしてこの一酸化炭素は煙に含まれるため、煙を吸い込むことで一酸化炭素中毒を引き起こしてしまうのです。
死因が火傷とは焼死すること!一酸化炭素中毒でも焼かれれば焼死とされる
火災での死因のトップは火傷となっていますが、これは炎に焼かれることを意味しており、つまり焼死です。
では、煙を吸うことで一酸化炭素中毒に陥り、迫りくる炎を目の前にして意識を失うとどうなるでしょう。
もちろん、逃げることができないため炎に焼かれて焼死となります!
この場合の死因は、一酸化炭素中毒ではなく焼死となり「火傷による死亡」に分類されます。
ビル火災で助かるにはケガを承知でビル外に飛び降りるしかない!
火傷が死因のトップである理由は先にお伝えしたとおり「炎に焼かれる前に、一酸化炭素中毒で意識を失うこと」が、大きな要因となっています。
それを証明する事件が日本では多く起きており、代表的な事件が2019年(令和元年)7月18起きた「京都アニメーション放火殺人事件」です。
この時の死者数をまとめると、次のようになります。
焼死 | CO中毒 | 窒息 | 火傷 | 敗血症 | 不明 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
3階 | 12 | 5 | 3 | 0 | 0 | 0 | 20 |
2階 | 8 | 0 | 2 | 0 | 0 | 1 | 11 |
1階 | 2 | 0 | 0 | 2 | 1 | 0 | 5 |
合計 | 22 | 5 | 5 | 2 | 1 | 1 | 36 |
この火災でビル内の炎から逃れて命を守ることができたのは、ベランダから外へ飛び降りることができた2階の人々です。
3階から屋上へ上る十数段の階段で、14人が折り重なるように焼死
この事件では1階に男が侵入して、ガソリンをまき放火。それによって一気に強い炎が広がり、数分でビル全体が炎に包まれました。
1階が火元となったため、人々は上の階に逃げるしかできず、2階のベランダから早々に飛び降りた人は助かっています。
しかしながら、階段を使って屋上まで逃げようとした人達は、屋上に達する前に一酸化炭素中毒で倒れ、炎に包まれてしまっているのです。
その証拠に、3階から屋上へ上る十数段の階段で、14人が折り重なるように焼死・窒息死しているのです。
戦後最大のビル火災と呼ばれる「千日デパート火災」でも飛び降りて助かっている
京都アニメーション放火殺人事件だけでなく、戦後最大のビル火災と呼ばれている「千日デパート火災」は、1972年(昭和47年)5月13日に起きた火災で、死者118人・負傷者81人にのぼる人的被害を出しています。
この時も、多くの人々がビルから飛び降りており、死亡した人も多いですが助かった人がいたのも事実です。
【結論】ビル火災では一刻も早く外に逃げることが優先される
これらのことから、ビル火災が起きた際には上階に逃げるのではなく、とにかくビルの外に逃げることを考える必要があるといえるでしょう。
炎よりも煙がまん延するスピードが早いため、煙を吸うことなくビル外に脱出することが命を救う唯一の方法といえます。
商業ビルなどでは、上階にいくほど避難口の確認は必須であり、ハンカチや衣服で口を塞ぎ煙を吸うことなく避難しなければなりません。
もしも、2階程度の高さであれば、最悪のケースでは飛び降りることも視野に入れることが必要でしょう。
一酸化炭素中毒になることなく全身が炎に包まれると・・
では、一酸化炭素中毒になることなく、意識を保ったまま炎に包まれることはあるのでしょうか。
答えは「YES」です!火元が近く煙を吸うことなく衣服に炎が燃え移ることで、意識を保ったまま全身を炎が包み込みます!
全身の何パーセントが焼けると死に至るか明確な答えはない
熱傷指数(火傷)が30未満であれば死亡率は約40%以下であり、熱傷指数が40を超えると死亡率は62.2%にアップします。そして70以上になれば、死亡率は95~97%になるとされています。
しかしながら、焼死する条件はさまざまあるので、熱傷指数(火傷)だけで判断できません。
身体が火傷を負った場合、焼けた面積、深さ、火傷の原因、被災者の年齢、健康状態などが、死亡に至る重要事項となるため、明確な答えがないのが正解です。
意識を保ったまま炎に包まれるとほとんどがショック死する
意識を保ったまま全身が炎に包まれた状態を具体的に表現すると、表皮や真皮、皮下脂肪層、筋肉、骨などの組織が焼損します。
この過程で、身体の組織が炭化し、タンパク質や脂肪が分解されます。さらに、高温によって酸素供給が制限され、身体の組織が酸欠状態になることも多いです。
また、煙や有毒ガスの吸入によって呼吸器系が損傷し、呼吸不全に陥ることにもなり得ます。
つまり、全身の外側からの攻撃と、呼吸器官から侵入してくる内部からの攻撃によって、想像することができない痛みに襲われるのです。
この痛みによって焼死する前にショック死することがほとんどで、ショック死した後に炎によって全身を焼かれることとなります。
ビル火災でなければ「ストップ、ドロップ&ロール!」で火を消せる
ビル火災などの場合は周囲が炎に包まれているので、どうすることもできません。
しかし、意識を保ったまま炎に包まれるケースは、ビル火災に留まりません。たとえば、ストーブやガスコンロの火が、衣服に燃え移ったケースです。
このケースでは「ストップ、ドロップ&ロール!」にて、衣服に燃え移った火を消すことが可能です。
そこで、東映が公開している「ストップ、ドロップ&ロール!」の動画を紹介しておきましょう。
火災に巻き込まれた際に、少しでも生存率を高める対処法を解説!
では最後に「火災に巻き込まれた際に、少しでも生存率を高める対処法」を解説しておきましょう。
火災訓練に参加したことがある方はご存じかも知れませんが、改めて把握しておいてくださいね。
逃げ遅れない!急いで避難する
冒頭にお伝えした消防白書のグラフでも、火災で死亡した方の約半数が逃げ遅れによるものです。
逃げ遅れることで、煙に巻き込まれ一酸化炭素中毒を起こす確率が高くなります。
したがって、早急に火元から逃げることが、少しでも生存率をアップさせます。
煙を吸わない!鼻と口をハンカチで抑えて低い体勢で逃げる
次に、煙を吸わないことが重要です!ここまででお伝えしたように、煙を吸うことで一酸化炭素中毒を引き起こし、意識を失うこととなります。
したがって、煙を吸わない工夫は最も重要であることは間違いありません。
この2つは、火災から逃げる際の鉄則と覚えておいてくださいね!
商業施設などでは避難口を確認しておく
商業施設などで、火災に遭遇することもあり得るでしょう。そのため、商業施設などでは非常口の位置を把握しておくことも重要です。
非常口の位置を把握しておくことで、一早くそして火元から最も遠くなる非常階段から、逃げることが可能となります。
消防庁が公開する「火災からの避難動画」をご紹介
まとめ
今回は「火災時の死亡原因は?もしも生きたまま炎に包まれるとどうなるのか?」について考えてみました。
火災に遭った際には、きれいごとでは済まされません。実際にどのような状況で人は死に至るのか、そしてもしも生きたまま炎に包まれるとどうなるのかを、自分なりに紹介してみました。
今回の考察に至った原因の動画を、最後に紹介しておきます。紹介する動画のなかでは、もっと詳しくそして科学的根拠に基づいて解説されています。
火災に遭う前に普段から、ビルなどでは避難口の確認、煙を吸わない方法、逃げ方など「火災に巻き込まれた際に、少しでも生存率を高める対処法」を参考にして、シュミレーションしておくことをおすすめします。