高齢による足腰の弱りや事故による怪我、病気などで、年齢を問わず車椅子生活を送る方は少なくありません。ご自身で車椅子を操作できる方もいらっしゃいますが、なかにはご家族などが介助をしなければいけない場合もあります。
初めての車椅子介助は、わからないことも多いのではないでしょうか。今回は、基本の車椅子介助のポイントや注意点をまとめました。筆者が家族の介護をするなかで心がけていることも体験談として記していますので、これから車椅子介助をされる方の参考になれば幸いです。
車椅子の介助は安全確認から!
車椅子介助を始める場合、まずは車椅子そのものが安全であることを確認する必要があります。要介助者が安心して車椅子に乗るためには、次のポイントをチェックしましょう。
確認するポイントは
車椅子の安全確認をしたい部分は、次の通りです。
・ブレーキ
・ストッパー
・車輪
・フットサポートの作動状況
・タイヤの空気量
・座面のたわみ
・ねじのゆるみ
ただ車椅子を動かしてみて全体的にざっくりと点検をしても、安全面の保障があるとはいえません。細かな部分を1つずつチェックし、大人が乗ってさまざまな場所を移動しても問題ないかどうかをしっかりと確認することが大切です。
ブレーキはどんな種類かチェック
ブレーキは、車椅子が動かないよう固定するものです。多くの車椅子には「タックルブレーキ」というバータイプのブレーキが採用されています。座る部分の左右に取りつけられており、タイヤが動かないよう固定するタックルブレーキは、介助者・要介助者ともに手で簡単に操作でき便利です。
このほか、「フットブレーキ」といって、介助者が足で下に倒しロックをかけるものもあります。要介助者が自身でタックルブレーキをかけられない場合は、フットブレーキが便利でしょう。
折りたたみの練習も忘れずに
車椅子は折り畳みタイプと、そうでないものがあります。折り畳みタイプは比較的軽量で、コンパクトなサイズになるので車などにも積みやすいのが特徴です。折り畳みタイプはたたむ、広げるという練習も事前にしておくとスムーズでしょう。
車椅子をたたむ場合はシートの前後を持ち上げます。座面が狭まったら、左右のグリップを持って内側にたたむと簡単です。広げる場合はまず左右のグリップを持って少し広げ、座面の中央を下に押すようにすると、座れる状態になります。
その他、事前に行っておきたい準備
車椅子の基本のチェックポイントやブレーキの位置・操作方法、折り畳み方以外にも、事前に準備しておきたいことはあります。
たとえば、クッションです。車椅子の座面は丈夫ながらも薄い布でできており、長時間座っていると腰やお尻に負担がかかる方もいます。要介助者の方に合ったクッションを用意しておくと、無理のない姿勢で長時間でも比較的快適に座っていられるでしょう。
また、季節によっては暑さ・寒さの対策ができるよう、帽子やアームカバー、冷感グッズ、ひざ掛けなどを用意しておくのもポイントです。背面にポケットがあるタイプの車椅子も多いので、ちょっとしたものはこのスペースに入れておくと、持ち運び忘れがありません。
車椅子を押す際は動きやすい服装がおすすめです。裾の長い服やアクセサリー類は車椅子に巻き込まれる危険性、要介助者に当たって傷つけてしまう可能性を考慮し、避けた方がよいでしょう。要介助者が不安にならないよう、また体調面での不調が起こらないような声かけをすることも忘れてはいけません。
車椅子の基本の介助とポイント
ここからは車椅子の基本的な操作について解説します。操作時のポイントについてもまとめていますので、特に段差や坂、砂利道などでは要介助者の負担や不安を軽減できるよう、心がけてみてください。
車椅子を押す
当然のことながら、車椅子は基本的に押して動かします。背面にあるハンドグリップをにぎり、前に向かって押しましょう。
スーパーのカートやベビーカーなどを押したことがある方は多いかと思いますが、何かを載せて運ぶものは、早く押すと危険です。座っていると視線が低くなり、よりスピードを感じやすくなりますし、段差がある場所などは振動も大きくなります。
要介助者の不安にもつながりますので、ゆっくり操作することを意識してください。
ブレーキをかける
車椅子は移動するとき以外は、ブレーキをかけておくのが基本です。乗っている人が立ち上がる時にブレーキがかかっていないと転倒の危険がありますし、少しでも傾斜があれば、固定されていないと勝手に動いてしまいます。
思わぬ事故が起こるリスクを軽減させるためにも、止まったらブレーキをかけるという習慣をつけましょう。
段差をのぼる
平坦な場所での移動が多いものの、ときには段差を登らなければいけないこともあるでしょう。1段だけの場合はグリップを下げながら足元にある「ティッピングレバー」を踏むと車椅子の前側が浮き上がるので、そのまま前側の小さなタイヤを段差に乗せ、その後後ろのタイヤで乗り上げるようにのぼります。
このとき、後輪を段差にくっつけるようにするのがポイントです。後輪が段差から離れると、前輪が動いてしまい危ないので注意してください。
2段以上の段差がある場合には、複数人で車椅子を持ち上げてのぼりますが、場合によってはエレベーターやスロープを使用したほうが安全です。乗降数の少ない駅などはまだバリアフリーが整っていないこともありますので、電車での移動が必要な場合は事前に鉄道会社に連絡をすると、必要な人員を確保してもらえます。
段差を降りる
段差を降りるときは後ろ向きにして、介助者が先に段差の下へ行きます。ゆっくりと後輪をおろしたら、前輪を浮かせたまま車椅子を後ろに引き、フラットな場所に前輪をおろしましょう。前向きで下に向かうのは、ずり落ちそうになり要介助者が「こわい」と感じるので、必ず後ろ向きで降りるようにしてください。
段差の数が多い場合は、のぼるときと同様です。基本はエレベーターやスロープを使い、難しい場合は人員を確保して複数人で持ち上げて段差を降ります。
坂をのぼる・下る
坂道ののぼり下りの際は、段差ののぼり降りと同じ向きを意識し、のぼりのときは前向きに、下りは後ろ向きに進みます。グリップ部分にブレーキがついている場合は、少しにぎってブレーキを軽くかけながら進むと、重みに負けたり傾斜でスピードが急速に上がったりしません。
砂利道を進む
砂利道、でこぼこした道、下水のふたの網目部分などは、前側の小さなタイヤが埋まったり巻き込まれたりしてしまい、うまく進行方向に進めないということがあります。後ろ向きに進むと大きいタイヤが先導してくれるので、うまく進むことができるでしょう。
車椅子を介助する際の注意点は
車椅子を介助する際には、要介助者の不安・負担となる要素を取り除き、安全に操作をすることが求められます。そのなかで、特に注意したいポイントは次の5点です。
手足を巻き込まない
手足にマヒがある方は、手足が正しい位置にないと巻き込んでしまう可能性があります。手がタイヤ部分に当たっていると、すりむいたり巻き込んで手首をひねったりするため危険です。手が膝の上やひじ掛け部分にきちんと置かれているか、走行前に確認しましょう。
足は、フットサポートと呼ばれる足置き部分に乗せます。地面についていると足が変な方向に曲がって怪我をしてしまったり、そのまま転倒したりすることもあるので注意が必要です。フットサポートに足がうまく乗らない場合は、足の位置を安定させる福祉用具などを使うなどの工夫をしてください。
長時間座りっぱなしにしない
健康な方も、長時間椅子に座っていると疲れてしまいますよね。車椅子も同様で、ずっと座っていると腰に負担がかかる、床ずれを起こすなどの可能性があります。要介助者の様子を見ながら、横になってもらう、普通の椅子に座ってもらうなどして、負担を軽減させましょう。
やむを得ず長い時間座っていなければならないときには、耐圧分散タイプのクッションがおすすめです。
正しい座り方かチェックする
座り方がおかしいと、体の一部が体重で圧迫されて血流が悪くなることがあります。長時間血流が悪い状態が続くと、赤みを帯びる、ただれる、傷になることもあるため注意が必要です。
また、誤った座り方のまま食べたり飲んだりすると、うまく噛めない、飲み込めないといったトラブルも起こる可能性があります。
移動前には要介助者が正しい位置に座れているか、姿勢は問題ないかもチェックしましょう。
危険な道は慎重に
平坦な道も、安全面に配慮しながらゆっくりと進む必要がありますが、坂道や砂利道、段差などの危険な場所ではより慎重に操作することを意識します。段差の衝撃で怪我やパニックを起こす可能性、坂道で勢いをつけると止まれなくなり、介助者・要介助者ともに大けがをする可能性もありますので、慣れたからといって気を緩めてはいけません。
坂道では固定をしても車椅子が動く危険性もあります。坂の途中で車いすを止めて離れることは、絶対にしないようにしてください。
声かけを忘れない
前述しましたが、車椅子に乗っていると視線が下がるので、こわい、危ないと思うシーンも増えます。また、後ろから押してもらっていると前側は無防備なので、不安に感じる方も少なくありません。
危険な場所では「これから段差をのぼります」など、必ず一言声をかけるようにしましょう。また、こうした場面以外でも定期的に声かけをし、要介助者が安心して車椅子での移動ができるよう気を使うことも大切です。
車椅子の介助で筆者が心がけていること
他記事でも少し書かせていただきましたが、筆者の実家には介護を必要とする家族が2人います。最後に、筆者が車椅子介助で心がけていることについて、少しお話をさせてください。
介助が必要なのは祖母
車椅子に乗っているのは、祖母です。父親はパーキンソン病ですが、まだまだ自身の足で歩くことができます。祖母は左半身の麻痺があり、デイサービスでは歩行のリハビリをしていただいていますが、日常生活のなかではほとんど歩くことができません。
そんな祖母を車椅子に乗せて移動させるときには、次のようなことを心がけています。
自宅内での介助で心がけていること
夏に骨折・入院するまでは、祖母は自宅内では歩いて移動をしていました。実家は祖母が病気で倒れた際にリフォームし、段差をなくしているので、自室からトイレ、リビング、デイサービスのお迎えが来るスロープなど、近距離なら歩いて移動ができたのです。
しかし、骨折をしてからは自宅内でも1人で歩くのが大変危険な状態になったため、すべての移動を車椅子で行っています。自宅内では平坦なところを進むため、特に危険はありません。しかし、大きな車椅子が通るにはやや狭いスペースもあるので、車椅子が壁などにぶつかって衝撃を与えることのないよう、ゆっくりと進むことを心がけています。
また、短時間ではあるものの「今日は何があったの?」など、コミュニケーションを取れるような声かけをすることも、意識しているポイントです。
屋外での介助で心がけていること
屋外ではまず、車椅子から車、車から車椅子への移動の介助が必要です。危険のないよう体を支えながら、立たせる、乗せるなどの介助をしています。都度声をかけたり「せーの」と掛け声をかけてあげることなどが、工夫している点です。
車椅子を押す際は、段差やでこぼこ道などもあるので、今回の記事でご紹介したようなポイントに注意しながら操作をしています。以前に伊勢神宮に行った際は砂利道を進まなければならず、とても大変なことがありました。「砂利道は後ろ向き」という知識がなかったため、前輪を軽く浮かして走行していましたが、今思うと祖母と私との信頼関係があったから安心できていただけで、知らない人にされたら不安だっただろうなと反省しています。
介助の技術的なことではありませんが、飲食店や祖母が好きそうなお店に行った際は「車椅子が入れるか」ということを常にチェックするようになりました。段差がない、あってもなんとか乗り越えられそうなど、車椅子の人が利用できる施設かどうかを見極める力はかなりついたのではないでしょうか。
また、祖母が倒れてから17年のあいだにバリアフリー化は大きく進んだと感じています。「ちょっとトイレに寄りたい」という場合にも、サービスエリアや道の駅、大型の商業施設などを気軽に利用できるのは、車椅子を使用する立場としては非常にありがたいことです。また、駅などで大勢の方に車椅子を持ち上げていただくのはなんとなく申し訳ない気持ちになりますが、エレベーターやスロープなどがあると、いろいろな方への直接的な負担がなく、介助者としても外出時のストレスをあまり感じずに済みます。
今後もバリアフリー化が進み、多くの車椅子利用者や障害を持った方、またご高齢の方々がより快適に外出できる環境が整っていくことを願っています。
安全な走行のために正しい車椅子介助を
車椅子の介助は「ただ前に向かって押すだけ」だと思われがちですが、要介助者が安心して移動するためには、事前の点検や走行中の安全を意識した操作を心がけることが求められます。
介助を必要としている方とのコミュニケーションを大切にしながら、快適に車椅子を利用できるような動かし方、超えのかけ方などの工夫をしてみてくださいね。