介護、といってもさまざまな役割がありますが、排泄介助はデリケートな問題であり、非常に大変なものだといえます。排泄介助の方法やポイントを知っておくと、介護される側の排泄に関する悩みを軽減させることも可能です。
そこで今回は、排泄介助に関するさまざまな情報をお届けします。
排泄介助の方法は大きく4種類
排泄介助、と一言でいっても方法は大きく4つあります。それぞれどのようなものなのかを見ていきましょう。
トイレでの介助
健常者の方と同じトイレで排泄をする方は、トイレへ連れて行く、ズボンの上げ下ろしをする、また元の場所へ連れて帰るといった介助が必要です。和式トイレは減っていますが、和式トイレは介助が必要な方には使用が難しいので、座ってゆっくりと用を足せる洋式トイレだと安心でしょう。
また、トイレ内や行き帰りでの転倒リスクを減らすため、段差を取り除く、手すりを設置するなどの工夫も求められます。
ポータブルトイレでの介助
トイレまで行くのが難しいものの座って用を足せるという方は、ポータブルトイレを使用するケースが多い傾向です。持ち運び可能でベッドの横など、好きな場所に簡単に設置できるので、移動の手間を省けます。転倒リスクを軽減するため、日中はトイレ、夜間はポータブルトイレを使用する方も少なくありません。ただし、ポータブルトイレは汚物の処理を行う必要があるため、介護者にとって負担になる場合もあります。
便器と尿器を使った介助
寝たきりの状態で尿や便を受ける便器や尿器は、便意や尿意がわかっても、ベッドから起き上がれないという方が使用するものです。女性用・男性用があり、しっかりと便や尿をキャッチできるので、おむつ替えなどの手間が省けます。また、便意や尿意がはっきりとある方も、おむつに垂れ流す状態が続くとだんだんとその感覚が麻痺してしまうことがありますが、便器・尿器を使うことで排泄のリズムを崩さずに済む、というメリットもあるといえるでしょう。
おむつの介助
寝たきりの場合もそうでない場合も、便意や尿意がはっきりとわからず失敗が多いときには、おむつを使用します。おむつは赤ちゃんのものと同様にパンツタイプとテープタイプがあり、立ち座りができる方はパンツタイプを使用することが多いです。内側に尿取りパッド(生理用ナプキンのような形状のもの)を着ければ、パッドの交換だけで済み、おむつ交換が簡単にできることはもちろん、ごみを減らす、おむつ代を安く済ませることにも貢献します。
ただし、おむつは自尊心を傷つける可能性があること、尿意や便意を感じにくくさせることもあるため、最終手段として考えるとよいでしょう。
排泄方法の選び方は
4つの排泄方法からどれを選ぶかは、介護される側がどういった常態化によって判断しましょう。
トイレまで歩ける人
トイレまで歩くことができ、便意や尿意がしっかりとある方は、トイレでの排泄を続けましょう。「トイレでできる」というのは本人の自信にもなりますし、トイレまでの近距離移動でも筋力維持につながります。
起き上がれる人
ベッドから起き上がれるものの、トイレまで歩くのが難しい場合は、ポータブルトイレがおすすめです。ベッドのすぐ横に設置すれば移動の負担もなく、本人も「座ってできる」という安心感が得られます。
姿勢が変えられる人
起き上がる、立ち上がることが自身でするのが難しいものの、姿勢を変えることはできる、という場合にもポータブルトイレは役に立ちます。介護者が体を支えてトイレまで移動できれば、ぜひポータブルトイレを使用してみてください。
体格などの問題からこれが難しい場合には、便器や尿器を使用します。便器や尿器はトイレ・ポータブルトイレと比較すると自尊心を大きく傷つける可能性がありますので、自身でもってしてもらうなど、できることはやってもらうようにするなどの工夫が必要です。
寝たきりの人
寝たきりでも便意や尿意がある場合は、便器・尿器を使用します。おむつを都度交換しないでよいのは、経済的にも身体的にも負担を軽減してくれるでしょう。
便意や尿意を感じない方や、意思疎通が難しい方はおむつの使用を検討します。本人が拒否することもあるかもしれませんが、お互いのためになることを伝え、納得してもらった上で使用してください。
排泄介助をする際に介助者が心がけたいこと
排泄はデリケートな問題ですので、介助される側もしてもらっていて「いやだなぁ」と感じることがあるかもしれません。介助にあたるうえで介護者が心がけたい点は、大きく5つあります。
自尊心を傷つけないこと
排泄を手伝ってもらう、ということに抵抗がない人はほとんどいないでしょう。介助される方は、申し訳ない、恥ずかしいと強く感じています。それを察し、自尊心を傷つけないような言動をとることが大切です。排泄物の量やにおい、失敗について話題にすることは避け、介助の際にはいやな顔をしないようにしましょう。
手伝いすぎないこと
介助する側は早く済ませたい、安全に済ませたいという気持ちから、どうしても手が出すぎてしまうことがあります。しかし、あまり手伝いすぎるのは本人のためになりません。自分でできることは見守ること、介助側の都合でおむつを無理矢理履かせるなどしないことも大切だといえます。
水分を控えさせないこと
トイレに行く回数、おむつを交換する頻度を下げたいことから、水分摂取量を控えさせる介助者もいます。介助される方自身が申し訳なさから水分を控えるケースもあるでしょう。しかし、水分不足は脱水や便秘、脳梗塞などを引き起こすため危険です。水分摂取が大切なことをお互いに理解し、こまめな水分補給は怠らないようにしてください。
プライバシーを守ること
いくら介助が必要だといっても、排泄中にずっと近くにいられては出るものもうまく出ません。介助を必要とする場合も、プライバシーを守ることは大切にしましょう。たとえばトイレでする場合にはトイレの外で待つ、ポータブルトイレならカーテンをつけたり下腹部にタオルをかけたりするだけでも、介護される側も落ち着いて排泄ができます。
失敗を責めないこと
状況によっては、排泄を失敗してしまうこともあるかもしれません。しかし、トイレの失敗は介護が必要な方に限らず、健康な方でもあり得ます。失敗を責めると自尊心を深く傷つけられてしまうこともあるため、言葉選びには慎重になりましょう。
また、排泄を急かすような発言もNGです。本人のペースに合わせることで、相手も安心して介助を任せられます。
トイレでの排泄介助の基本的な方法
排泄方法は大きく4つですが、トイレで排泄をする場合の基本的な介助方法を解説します。
①トイレへの誘導
トイレに連れて行く。通路に障害物がないことを確認し、歩行が不安定な場合は手すりや車椅子などを利用する
②脱衣
手すりにつかまる、壁に寄りかかるなどさせ、ズボンと下着をおろす(本人ができない場合は手伝う)
③座る
聞き手で手すりをつかむ、もしくは両腕を介護者の首の後ろに回してもらうなどして古紙を支え、ゆっくりと座らせる
④排泄
足が床についていることを確認し、一旦トイレから出て排泄をしてもらう。ドアは少しだけ開けておき、排泄が終わったら知らせてもらうよう伝える
⑤確認
合図があったらトイレに戻り、排泄が終わったか再度確認する。合図がなかなかない場合には、トイレの外から声をかける(めまいなど体調不良を起こしている場合もあるため)
⑥清拭・着衣
自力で拭けない場合は介護者が清拭を行う。お尻を拭くときには少し腰を浮かせ、前から後ろに向けて拭く。終わったら脱衣のトキと同様、手すりなどを使って安定させ、着衣を行う
⑦声かけ
排泄が上手くできたことを一緒に喜ぶ声かけを忘れない
トイレでの排泄介助のポイント
トイレで排泄介助をする際には、次のポイントに注意しながら行いましょう。
トイレへの定期的な誘導
排泄のサイクルを把握し、定期的にトイレに誘導しましょう。そうすることで失敗の頻度も少なく、本人や介護者の負担やストレスも軽減されます。自身で尿意や便意を伝えられる方はある程度本人の意思に任せて問題ありませんが、難しい方は時間を決めておくと、ルーティン化しやすいです。
できないところをサポートする
脱がせる、履かせる、拭くなど全ての動作において手伝いが必要なように思われますが、自分でできる部分がある方も少なくありません。できることはできるだけ自分でやってもおらい、サポートが必要な部分だけを手伝うようにすると、本人にとっても自信になりますし、介護者もわずかながら負担を減らせます。
ドアの鍵はかけず外で待機
ドアの鍵をかけてしまうと、万一血圧が上がって倒れてしまったなどの場合にすぐに助けられません。トイレのドアは閉め、プライバシーを守ることも大切ですが、少しだけ開けておきすぐになかの様子が分かるようにしておきましょう。
声かけも忘れずに
「ズボンを脱ぎましょう」「出たら教えてください」「拭きますね」など、何かをする際には都度声をかけることが大切です。急にズボンを下ろされたりお尻を拭かれたりしたら、誰でも驚いてしまいます。介護される側も意思があることをきちんと理解し、相手に寄り添った介護を心がけるようにしてください。また、無事にトイレを終えられた際には相手が喜ぶ言葉をかけるなどして、自信をつけてあげることも大切です。
排泄介助の負担を軽減するために
排泄介助で気を付けたいポイントなどがわかっても、日々のこととなると大変さやストレスを感じてしまうのは当然です。介護者が負担をできるだけ感じないようにするためには、どのような工夫ができるのでしょうか。
夜間排泄への対応
尿意や便意は、昼夜問わず訪れます。特に高齢者は、夜間に頻繁にトイレに行くこともあるでしょう。しかし、夜中に何度も起こされていては、介護者も大変です。夜間排泄については、就寝前にトイレに連れて行く、夜の水分補給は最低限に控えるなどして頻度を減らす工夫をします。
また、夜間のみポータブルトイレやおむつを使用する、というのも1つの方法です。
便の拭き方のポイント
トイレやポータブルトイレなどで便をした場合には前から後ろに拭けばたいていの汚れは取れますが、おむつに排便した場合は広範囲にわたって汚れてしまいます。この場合、最初に使用済みのおむつで汚れを拭き取り、その後タオルで拭くと汚れが取れやすくなります。
タオルやおむつだけでは汚れが取れない場合には、お湯で洗い流すと便が残らず清潔です。
介護保険サービスを利用したリフォーム
トイレはもちろん、さまざまな介助を自宅で行う場合には段差をなくす、手すりを着けるなどリフォームをすると快適に過ごしやすくなります。しかし、リフォームは高額な費用がかかるので、なかなか踏み切れないという方も少なくありません。
そんなときは、介護保険サービスの利用がおすすめです。介護保険サービスを利用すれば、介護に伴う自宅リフォーム費用のうち、最大20万円を負担してもらえます。また、住宅によっては税金の控除を受けられる制度もありますので、リフォームを検討する際には独断で実施せず、リフォーム箇所や費用に関して専門の方に相談してみるとよいでしょう。
1人ひとりに合った方法で、排泄介助をしよう
介護が必要な方の排泄方法は大きく4つあり、それぞれ必要な介助は異なります。どのような方法でも、相手の自尊心を傷つけない言動をすること、安全かつ安心して排泄できる環境を作ることは大切です。
介護者の都合でおむつをはかせるといったことはせず、できるだけ相手を尊重し、排泄方法を検討してください。