「しょくりょうきき」という言葉を耳にする機会は少なくありませんが、「食糧」と「食料」の具体的な違いについてはご存じでしょうか。世界のさまざまな地域で食糧危機(食料危機)が深刻視されており、1人でも多くの方が食べ物に困らないようになる未来は、大きな課題として掲げられています。
今回は、世界、そして日本の食糧危機(食料危機)の原因や現状、解決に向けて何ができるのかを見ていきましょう。
「食糧危機」と「食料危機」、どう違う?
「しょくりょうきき」というと一般的に「食糧」の文字があてられるケースが多いイメージですが、「食料危機」と書く場合もあります。2つの漢字はどう使い分けられているのでしょうか。
「食糧」と書く場合は主食のことを指し、米や小麦、トウモロコシ、ジャガイモなどのことをいいます。これらの穀物は、世界で年間約26億トン以上生産されており、世界の人々が食べていくのにじゅうぶんな量です。しかし、穀物の行き渡り方が平等でないことから、世界のさまざまな地域で食糧危機が起こり、飢餓で苦しむ人々が多く存在します。
一方の「食料」は、食べ物全般を指します。世界の食糧危機・食料危機が深刻な地域、そして日本の食料に関する現状はどうなっているのでしょうか。
食糧危機・食料危機が深刻な地域
国際統計格付センターの「世界・1人あたりの食料不足深刻度ランキング」によると、世界174カ国のなかで1人あたりの食料不足が深刻視されている国は、コモロです。コモロは人口84万人ほどの国で、インド洋にあります。後発開発途上国、小島嶼開発途上国に指定されており、持続可能な開発が困難な貧困国としてさまざまな深刻な問題を抱えている国です。
コモロに続き、10位までにはブルンジ、エリトリア、ハイチ、ザンビア、エチオピア、スーダン、モザンビーク、北朝鮮、タジキスタンがランキングの10位までに入っています。このランキングによると、食料不足深刻度最下位はイタリアです。このほかオーストリアやアメリカ、ベルギー、ギリシャ、アイルランド、イスラエルなども、イタリアに並び食料不足の深刻度が低いとされています。
日本の現状
上述のランキングによると、日本の食料不足深刻度は93位、1人あたり1日40キロカロリーが不足しているといわれています。深刻な食糧不足ではないものの、先進国のなかでは食料自給率が最低水準となっており、食料輸入量は世界最大です。
一方で、飲食店などはもちろん、家庭内でも食べ残しや賞味期限切れなどによる廃棄が増加傾向にあります。また、栄養バランスの悪さも深刻視されており、生活習慣病を引き起こすような食生活を送っている方が多いのも特徴だといえるでしょう。
食糧危機・食料危機の原因
世界、そして国内でも食糧・食料に関する問題が多くあることがわかりますが、その原因は何なのでしょうか。さまざまな原因が折り重なり起こる食糧危機・食料危機ですが、大きく3つの原因があるといわれています。
原因①自然災害
1つは自然災害です。酷暑や干ばつ、洪水、暴風雨などの異常気象は、農業に大きな影響を与えます。中規模・大規模な自然災害は年間200件ほど発生しており、小麦や米、トウモロコシなど「食糧」の生産を脅かすのです。
原因②貧困
食糧問題と深く結びついているのが、貧困です。収入がない、じゅうぶんな収入がない場合、食糧の生産や確保ができません。貧困は教育にも影響を及ぼすため、栄養に関する知識を得ることができず、飢餓に陥ります。
日本でも収入格差が食生活に影響し、低所得の方は安くて満腹感が得られる食品を購入する傾向です。生活習慣病になる方が多いのも、低所得者層だといわれています。
原因③バランスの崩壊
食糧危機・食料危機が深刻視される国が多くある一方で、世界で生産されている食品のおよそ3分の1が廃棄されているという事実があります。その量は年間13億トンに達するといわれており、先進国ではこうした廃棄が多くあり、途上国では飢餓人口が増えるというバランスの崩壊も、食糧危機・食料危機を引き起こす原因です。
人口増加や急激な成長を遂げる国があることなどで、食料の需要は年々増えています。対して、供給はこれになかなかおいついていません。面積当たりの収穫量は、農業技術の向上で増加していますが、異常気象や砂漠化、水資源の制約などさまざまな理由から、供給は未だ不安定なのです。
世界の食糧危機・食料危機を解決するために行われていること
世界には飢餓に苦しむ方が多くいます。食糧危機・食料危機を解決するために、先進国をはじめとした食糧問題に比較的苦しんでいない国は、どういったサポートを行っているのでしょうか。
寄付やボランティア
開発途上国など、食糧問題を抱える国に対しては、国際機関やNPO、NGOなどさまざまな組織が支援を行っています。私たちも、こうした団体への寄付により、食糧難に苦しむ方々を間接的に支援することが可能です。
食糧問題解決に向けた活動を広めるためのボランティアに参加するのも、1つの選択肢だといえるでしょう。各団体では、食糧危機・食料危機解決のための活動を説明したり、出展の設営準備を手伝ったりしてくれるイベントスタッフをはじめ、事務所での作業をサポートしてくれるボランティアなどを幅広く募集しています。
しかし、日本や世界ではこうした食糧危機・食料危機に関する活動が多く行われているものの、資金や人材は不足している状態です。誰しも自身の生活が最優先ではありますが、世界に目を向け、「食」に関する問題について考えることで、自分にできることは何かを明確にし、行動に移せるのではないでしょうか。
栄養補助食などの提供で、子どもたちの命を救える!
各団体に寄付されたお金は、食料以外のものにも姿を変えます。きれいな水の入手が困難な地域では、浄水剤の購入などにも、資金が使われているのです。また、食料問題で深刻案栄養不足に陥っている方々には、栄養補助食を購入・提供することもあります。
たとえば、ユニセフが提供する栄養補助食は、100円の支援で2袋、毎月1000円の寄付を半年継続すると、147袋分の資金となり、重度の栄養不良に陥った子どもが1人回復するまでに必要な分を提供可能です。毎月1000円、半年で6000円という金額を高いと思うか安いと思うかは、その方の収入や生活状況にもよりますが、比較的少額で、飢餓に苦しむ子どもを救えるのは事実でしょう。
日本でも食料問題は深刻?
世界の人口の9人に1人が飢餓状態、さらに3人に1人は何かしらの栄養不良に苦しんでいるといわれていますが、日本に住んでいるとその現状をなかなか理解できない方も多いのではないでしょうか。
日々好きなものを口にし、食べきれなければ残す、捨てることがある、という方は少なくありません。こうして「食」が満たされているように見える日本ですが、食料自給率が低いことや、現代の家族の形などから、栄養に関する問題はゼロではないといわれています。
日本の食料自給率
前述の通り、日本の食料自給率は先進国中最低水準です。多くの食料を輸入に頼っているため、世界各国の食料生産に影響が出れば、当然日本でも食糧危機・食料危機が起こるでしょう。
ロシアとウクライナの争いでウクライナの穀物の輸出ができなくなり、アフリカなどでは飢餓の恐れが高まっていますが、輸出国でこうした問題が起これば、日本でも同様の事態に陥る可能性があるのです。
栄養バランスにも不安が
輸出頼りな部分が大きな日本ですが、食料の廃棄量は年間およそ2000万トンともいわれており、食べられず捨てられていく食料の多さがわかります。食べ物に困る、という方は比較的少ないといえるものの、栄養バランスの面においては、多くの不安が懸念されています。
個々の栄養バランスはあまりよいとはいえず、不要な栄養を多く摂取することによる生活習慣病の発生も深刻です。所得があまり高くないことから、満腹感を得られる安い食品を購入する方をはじめ、核家族で1人での食事が多い子どもにも、こうした問題は起こり得ます。
日本国内での課題を解決するためにできること
日本がさまざまな課題をクリアし、食糧危機・食料危機をはじめとしたさまざまな食に関する問題を解決するために努力するべきことは、大きく2点です。
1つは、食料自給率を上げること。輸入が滞っても十分な食料を供給できる環境がなければ、いざというときに危機に陥ります。もう1つは、「孤食」を減らすことです。1人での食事は栄養バランスを考慮しないものになりがちですので、家族や友人とバランスのよい食事を摂ることで、個々の栄養面に関する問題をクリアできるでしょう。
多くの食品の価格高騰により、所得にある程度余裕のある家庭でも、低価格な食品を選択する機会が増えています。さまざまな食料の生産量を上げ、誰もが手頃な価格で購入できる食品が増やすこと、その上で廃棄量を減らし、国内でも貧困による食料問題に苦しむ方々に食料が行き渡るようなシステムを確立することも、「食」に関する問題の解決につながるのではないでしょうか。
「食」や世界の問題と向き合い、解決に向けて行動しよう
食料に関する問題は、単体で起こるものではありません。温暖化による異常気象が引き起こす自然災害、貧困、劣悪な環境などが、食を脅かすこともあります。「食」をきっかけに世界のさまざまな問題に目を向け、解決に向けて1人ひとりが何をすべきか、何ができるのかを考えることも、大切だといえるでしょう。
食糧問題をはじめとした世界のさまざまな問題は、持続可能な開発目標(SDGs)として掲げられています。2030年までに達成すべきとされている17の目標についても、今一度考えていきましょう。