食中毒のなかでも深刻な症状を引き起こすものの1つに、腸管出血性大腸菌(O157)があります。現在も感染には注意が必要ですが、1990年、埼玉県浦和市の幼稚園で2人の園児が亡くなったことで注目され、その後1996年に多くの患者数の増加があったことで、有名になりました。
今回は、そんな腸管出血性大腸菌O157の原因や症状、感染を防ぐための対策をご紹介します。
腸管出血性大腸菌O157とは消化器症状を起こす病原大腸菌
私たち人間、そしてさまざまな動物の腸内には、大腸菌が存在します。ほとんどの大腸菌は無害ですが、なかには下痢などの症状を引き起こす「病原大腸菌」と呼ばれるものもあり、腸管出血性大腸菌もその1つです。
「O157」という通称で知られる腸管出血性大腸菌感染症ですが、「O157」とはどういう意味なのでしょうか。
「O157」はどういう意味?
「O157」の「O(アルファベットのオー)」は、大腸菌の表面にある抗原を指します。細胞壁由来のものがO、ほかに、べん毛由来のものがあり、こちらは「H」抗原です。「157」は発見された順番を指し、つまり「O157」は細胞壁由来で、157番目に発見されたという意味になります。
令和3年時点ではおよそ180に分類されており、O157以降も発見された大腸菌があることがわかりますね。
見つかったのは1982年
O157が発見されたのは、1982年です。当時、アメリカでハンバーガーを原因とする出血性大腸炎が集団発生し、その原因がO157であるとされました。その後は北米や欧州、オーストラリアなどでも集団による発生が相次いでいます。
日本では、冒頭でも記述した1990年の埼玉県浦和市での集団発生が、初めて注目されたタイミングでしょう。当時、井戸水を原因とした集団発生事件で、2名の園児が死亡しました。
その後、1996年には岡山県にはじまり、大阪府堺市での5,000名を超える集団発生などが発生しています。1997年以降、日本ではこうした爆発的な感染者の報告は減少。年間200人に満たない年もありますが、死亡者が出る、1,000名近くの感染者が発生するという年も決して少なくはありません。
腸管出血性大腸菌O157の原因
集団での感染や死亡事例があるなど、深刻な状況や症状が危険視されるO157ですが、その原因はどういったものなのでしょうか。感染経路や原因となる食品を、確認しましょう。
どのように感染する?
O157は、感染源となる食べ物や飲み物を口にすることで感染するケースが最も多いです。しかし、なかには人から人へ感染したと推定される事例もあり、実際、感染者の便などには菌が含まれていることもあります。
トイレで菌のついた取っ手などを他の人が触れ、口などを通して感染するケースもあるため、一概に「飲食物を介した感染のみ」と言い切ることはできません。
原因となる食品
O157に感染する大元の原因は、腸管出血性大腸菌に汚染された家畜です。汚染されている家畜の肉を加熱不十分な状態で食べることはもちろん、汚染された家畜の糞便を肥料などに使用した野菜なども、汚染されている可能性があります。
浄化されていない井戸水も、こうした菌が潜んでいることがあるため危険です。食べ物全般に原因が隠されていることがあるため、給食やお弁当のお惣菜などで集団食中毒を引き起こす事例があることは納得でしょう。
腸管出血性大腸菌O157の症状と治療
「O157は危険」だといわれており、実際に死亡事例もありますが、感染すると具体的にどういった症状を引き起こすのでしょうか。症状や感染時の治療について、まとめました。
感染するとみられる症状
O157に感染すると、下痢や腹痛、血便、水様便、発熱などの症状が見られます。潜伏期間は平均で3~5日程度で、その後こうした症状が現れるようです。
重症化から、死亡へつながる危険性もありますが、感染したすべての人が深刻な症状になやまされるわけではなく、なかには無症状の方、軽い下痢や微熱程度で済む方もいます。
こんな人は特に注意!
O157に限らず、抵抗力の弱い子どもや高齢者は、重症化の危険があります。重症化すると溶結性尿毒症症候群や脳症などの合併症を起こすこともあるため、注意が必要です。こうした症状が起こるのは、全体の6~7%ともいわれているので、小さな子どもや高齢者の感染、抵抗力のあまりない方などが感染した際は、特に経過観察をしっかりとする必要があります。
感染したらどういった治療を受ける?
どんなに気を付けていても、O157に感染してしまう可能性はあります。特に8月は感染者が多い傾向ですので、食べ物の扱いには注意しましょう。
感染した場合は独断で市販薬などを使用することは避け、医療機関を早めに受診し、適切な治療を受けます。整腸剤や水分・栄養補給の点滴など、一般的な下痢の際と同じ処置を受けるのが一般的です。
長年、O157に特化した治療薬の研究・開発も進んでいます。腸管出血性大腸の毒素を中和する薬の登場も、遠くはないようです。
腸管出血性大腸菌O157を防ぐためにできる対策は
O157は症状が軽い方も少なくありませんが、最悪の場合死に至るケースもあるため、できるだけかからないよう、日ごろから注意する必要があります。O157に感染しないために日ごろからできる対策には、どういったものがあるのでしょうか。
適温での食材管理
温度の高い場所では菌が増殖するので、防止のために適温で食材を管理しましょう。ベストなのは冷蔵庫や冷凍庫での保存ですが、腸管出血性大腸菌は低温で死滅することはありません。
低温で管理をしていても、調理の際には加熱などをじゅうぶんに行い、滅菌する必要があります。
調理時の加熱、消毒
腸管出血性大腸菌は熱に弱いという性質があるので、しっかりと加熱をすれば感染をすることはまずないといってよいでしょう。具体的には75度なら1分間の加熱で、菌が死滅します。
サラダなど、生で食べる野菜の場合は加熱ができないので、次亜塩素酸ナトリウム水溶液で消毒をすると、安心です。特に、加熱・発酵の工程がなく、殺菌が不十分な浅漬けなどには注意しましょう。
二次汚染防止
汚染された食べ物を口に入れるだけでなく、生肉や生野菜など、汚染された食品を触った手から感染することもあります。二次汚染を防止するためにも、こまめな手洗い、調理の節目ごとの器具の取り換えなども忘れてはいけません。
衛生手袋の仕様は非常に有効ですので、飲食店など多くの方に食事を提供する場所のスタッフさんはもちろん、一般のご家庭においても、こうしたアイテムを導入すると安心でしょう。
口に入れる水にも注意!
水道管直結の水は、検査をクリアしたもので比較的安心して飲むことが可能です。しかし、井戸水や水槽などの水は検査が長期間されておらず、水質に問題がある場合も。1年に1度は水質検査を受け、衛生状態を保つことも忘れないようにしましょう。
食中毒は夏場が特に危険!正しい対策を
7,8月に感染者が多くあらわれる腸管出血性大腸菌O157ですが、手洗いや調理器具の管理などをしっかりと行っているだけでも、感染リスクを低減させられます。暑い夏の時期は食べもが傷みやすいので、注意しながら調理などを行いましょう。
正しい対策で、食中毒の危険から自身や家族の身を守り、楽しい食生活を送りたいですね。