前回および前々回の記事では、食中毒をひきおこす細菌「サルモネラ菌」と「セレウス菌」についてお伝えしました。これらは、家畜や農水産物、河川や土壌といった自然界に存在しています。
しかし、今回お伝えする「黄色ブドウ球菌」は、“人の体”にいるという特徴があります。
本記事では、黄色ブドウ球菌の特徴、食中毒の症状や予防策、自宅療養するときの注意点を解説します。ぜひ参考にご覧ください。
黄色ブドウ球菌の特徴
黄色ブドウ球菌はどこにすみついているのか、なぜ食中毒をひきおこすのか、その特徴を解説します。
黄色ブドウ球菌は皮膚・鼻・髪の毛などに常在
黄色ブドウ球菌は、人の皮膚、鼻やのど、髪の毛に常にいる細菌です。果物のブドウのように、丸く房になっていることから、この名前がつけられたと言います。
「ケガの傷口がある人は調理しないで」と聞いたことはないでしょうか? この言葉は、黄色ブドウ球がが、皮膚に傷があるとそこからの食品汚染の確率が高まる、という特徴によるものです。
また、食品を取り扱う職場などでは帽子をかぶりますが、髪の毛が落ちるのを防ぐだけでなく、このような細菌による被害の予防もあると言えそうですね。
このほかにも、黄色ブドウ球菌は、動物の皮膚、ほこりの中などにも常在しているのです。
食中毒の原因は菌がつくりだす毒素
黄色ブドウ球菌の食中毒は、細菌そのものが原因になるのではなく、食品中で増えた黄色ブドウ球菌がつくり出す“毒素(エンテロトキシン)”が原因です。しかも、この毒素は加熱しても死滅しません。
黄色ブドウ球菌がついた手で調理し、適切な環境下で保存されずに菌が増殖。その結果、毒素がつくり出されてしまうのです。
原因食品は、おにぎりやお弁当・お寿司などが多いものの、加工食品やお菓子類など、さまざまなものがあげられます。
黄色ブドウ球菌による食中毒:潜伏期間と症状
潜伏期間は短い
黄色ブドウ球菌にともなう食中毒は『潜伏期間が1~5時間(平均3時間)』と短いことも、特徴のひとつです。
これは、黄色ブドウ球菌による食中毒は、食品内でつくりだされた毒素を直接、体内にとりこむことに関連しています。
たとえば、おなじように毒素が原因となるセレウス菌による食中毒では、嘔吐型と下痢型に症状が分かれます。嘔吐型の潜伏期間は「30分~5時間」とされており、一方の下痢型は「6時間~15時間」です。
この大きな差は、毒素を直接とりこむのか、それとも体内(腸内)で毒素がつくられのか、といった違いによるのです。
なお、潜伏期間とは「感染してから発症する(病気の症状がでる)まで」のことで、感染しても発症しないこともあります。
症状は吐き気や嘔吐。個人差もあるので注意
黄色ブドウ球菌がつくり出す毒素で食中毒がおきると、吐き気や嘔吐、腹痛といった症状がでます。下痢がおこることもあります。
一般的には、24時間以内に回復傾向がみられるとされるものの、個人差やとりこんだ毒素の量などによっては重症化し、入院を要することもあります。
農林水産省のサイトでは「食中毒の症状が重くなりやすい人は?」と題して、次の方があげられています。
◆食中毒の症状が重くなりやすい人
※農林水産省「食中毒かな?と思ったら」より引用
・乳幼児や高齢者の方
・妊娠中の方
・肝臓疾患、ガン、糖尿病の治療を受けている方
・鉄剤を飲む必要のある貧血の方
・胃腸の手術を受けた、胃酸が少ない等、胃腸に問題がある方
・ステロイドが入っている薬を飲んでいる、HIVに感染している等、免疫力が落ちている方
寝不足や過労などで、自分では気づかないうちに免疫力が落ちていることもあります。
重症化してから後悔することがないよう、気になる症状があったり不安なときは、病院を受診するのがよいでしょう。
黄色ブドウ球菌による食中毒:自宅療養するときの注意点
吐き気や嘔吐といった症状のなか、自宅で療養する際の注意点をお伝えします。
仰向けではなく横向きに寝る
嘔吐の症状があって体をやすめるときは、天井をみる仰向けの姿勢ではなく、横向けに寝るようにしましょう。
仰向けでは嘔吐した物がのどに詰まってしまう危険があります。
横向きに寝て、ビニールシートの上に新聞紙を敷き、その上に嘔吐袋などを準備しておくとよいでしょう。
嘔吐物の処理方法
突然、嘔吐すると驚くとともに、その処理方法にとまどってしまうのではないでしょうか。
ノロウイルスのようなウイルスが原因の食中毒では、嘔吐物からの2次感染もおこり得ます。
黄色ブドウ球菌は細菌ですが、嘔吐物の処理方法としては参考になる部分もあると思われるので、ご紹介します。
ライオンハイジーン株式会社の「汚物・嘔吐物処理」では、動画やイラストで汚物処理のポイントがわかりやすく解説されています。
嘔吐物の解説文には、黄色ブドウ球菌にはあてはまらない点もありますが、嘔吐物の処理方法を知るための参考になるでしょう。
ノロウイルスによる食中毒は、年間をとおして多く発生しているので、知識としても知っておくと良いですね。
脱水状態にならないようにする
食中毒の治療で大切なことが「脱水にならないよう気をつけること」です。
重症の場合でなければ、病院における食中毒の治療は、症状をやわらげる対症療法が中心となります。
したがって、自宅で療養する際には、嘔吐にともなって失われた水分をおぎなうことが必要です。脱水状態になってしまうと、立ちくらみや意識障害など、食中毒とは異なる命の危険が生じてしまいます。「こまめに水分をとる」ことを意識するようにしましょう。
人の体にいる黄色ブドウ球菌:食中毒はどう予防する?
最後に、食中毒をおこさないための予防策をお伝えします。
黄色ブドウ球菌は、先述のとおり、人の皮膚、鼻やのど、髪の毛に常にいる細菌です。
しかし、食中毒を防ぐために大切なことは、食中毒をもたらすほかの細菌やウイルスとおなじであり、それは「つけない」「ふやさない」「やっつける」ということです。
黄色ブドウ球菌がつくりだす毒素は、熱で「やっつける」ことができません。
したがって、黄色ブドウ球菌による食中毒を予防するには、細菌を「つけない」「ふやさない」ことが重要となります。
◆黄色ブドウ球菌による食中毒を予防するポイント
・調理前には手洗いを徹底する
・手に傷があるときは調理を控える。もしくは手袋の着用などで傷口が食品にあたらないようにする
・調理中、髪の毛やつばが食品につかないよう気をつける
・食品は10℃以下で保存する(細菌が増えるのをふせぐ)
黄色ブドウ球菌は「人の皮膚や鼻・のどなどに常にいる」ということを念頭に、しっかりと予防策をとって、食中毒を防いでいきましょう。
【参考文献】
農林水産省「黄色ブドウ球菌(細菌)」https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/f_encyclopedia/staphylococcus.aureus.html
東京都福祉保健局 食品衛生の窓「黄色ブドウ球菌」https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/micro/oushoku.html
公益社団法人 全日本病院協会「食中毒について」https://www.ajha.or.jp/guide/24.html
yomiDr(ヨミドクター)「黄色ブドウ球菌食中毒」https://yomidr.yomiuri.co.jp/iryo-taizen/archive-taizen/OYTED62/
一般社団法人 東京都食品衛生協会:食品衛生あれこれ「黄色ブドウ球菌 毒素型」https://www.toshoku.or.jp/eiseijigyo/arekore-shokutyudoku_budokyukin.html
一般財団法人 東京顕微鏡院「食中毒菌」https://www.kenko-kenbi.or.jp/science-center/foods/microbecheck/16.html
(以上)