ライターの永野です!
東京で過ごした10年は公共交通機関も充実しており、どこに行くにも電車やバスを活用していました。夫は仕事柄、当時から自家用車を所有していましたが、「便利だな」と思う反面、月極の駐車場、出先での駐車料金の高さ、また道路の混雑に嫌気がさすことも…。
Uターンしてからは、2年半近く車なしの生活を送っていましたが、習い事の送迎を機にマイカーを購入してからは、すっかり車なしでは生きられない体になってしまいました(笑)。
田舎は特に、交通の便が悪いことから高齢になっても車の運転をする人は多く、90歳近いご近所さんも、用事があると運転をしているのを見かけます。しかし、全国的に高齢者の運転による事故も多発していることから、さまざまな対策が行われていることをご存じでしょうか。
今回は、高齢者の運転が危険な理由と、事故軽減のためにできる対策をご紹介します。高齢者の運転状況や、国が行っている安全のための活動についても触れていますので、高齢ドライバーご本人はもちろん、ご家族の方もぜひご一読いただき、今後の免許保有について話し合うきっかけになれば幸いです。
高齢者の免許保有状況と運転状況
まずは、高齢者の免許保有と運転状況についてのデータを見てみましょう。国では65~74歳を「前期高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」と定義づけていますが、運転シーンにおいては70歳以上を「高齢者」としているそうです。
高齢者の運転状況
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターの調査によると、65歳以上の高齢者の運転割合は、年齢が上がると共に下がっています。
しかし、高齢者全体で運転をしている人は63%存在し、特に男性は免許保有者の86%が運転をしていることがわかります。続いて、同団体が調査した1週間の運転状況です。
70歳以上の高齢ドライバーの運転頻度は、毎日という回答が最も多くなっています。日々運転をしていれば「慣れ」によって想定外の事故が起こる確率は下がるかもしれません。しかし、運転頻度が高ければ高いほど、事故が起こるリスクが高まるのも事実だといえます。
75歳以上の免許保有状況
続いて、内閣府が発表した「令和2年版交通安全白書」に記載されている、高齢者の免許保有状況について調べました。
平成21年からの75歳以上、80歳以上の免許保有者数を見てみると、年々増加していることがわかります。平成21年と令和元年を比較すると、保有者は75歳以上はおよそ1.8倍、80歳以上は1.9倍。いまは令和5年なので、緩やかな右肩上がりが続いていると仮定すると、75歳以上の免許保有者は900万人前後いると予想されます。
さすが高齢化社会…
参考:内閣府|令和2年版交通安全白書
国立長寿医療研究センター|高齢ドライバーを取り巻く現状
高齢者の運転に見られる特徴と危険性
70歳以上の運転者でほぼ毎日運転する人は多く、また75歳以上の免許保有者も年々増加していることがわかりました。警視庁の調査によると、2022年に高齢者(65歳以上)が起こした事故は全体の15.2%、交通事故発生件数、高齢者が占める事故割合はここ数年と比較すると減少傾向にあります。
事故は減少傾向にあるものの、高齢ドライバーが増加しているのも事実ですので、事故を起こす、巻き込まれるリスクは低いとはいえません。ここからは、高齢者の運転にみられる4つの特徴と、危険な理由を解説します。
距離感覚がわかりづらい
私たちの体は年齢と共に老いていきます。目も同様で、視力低下や視野角狭窄により、運転中の距離感覚がわかりづらくなることも。距離感覚がうまくつかめないと、前方の車に衝突する、横断中の人をひいてしまう、駐車時に隣の車や後方の建物や壁にぶつかるなど、さまざまなトラブルを引き起こす恐れがあります。
とっさの判断・動きができない
加齢により低下するものの1つに、認知機能があります。認知機能は判断力や記憶力、反射機能に影響するため、低下するととっさの判断や対応が難しくなるかもしれません。運転中は常に周囲に気を配り、緊急時には素早くブレーキを踏むなどしなければいけないので、認知機能が低下すると危険です。また、記憶力が低下すると、操作ミスや道を間違えるといったトラブルも起こりやすくなります。
集中力が途切れる
日頃から運転をしている人はわかると思いますが、運転は想像以上に神経や体力を削るものです。筆者も運転をしない頃はわかりませんでしたが、初めて教習所で運転をした日にはどっと疲れ、帰宅後すぐに寝てしまいました。年齢と共に体力は衰えていくので、疲れやすくなったりアクセルを踏み続けるのがつらくなったりします。
また、運転に必要な集中力が持続しにくくなるのも、高齢者の運転が危険視される理由の1つです。
思い込み・過信
高齢者に限らず、運転は「慣れた頃がいちばん危険」だともいわれています。またもや私事ですが、マイカー購入から1年間はトラブルゼロで過ごした私も、その後の1年間で2回車体を擦り、バックで駐車中に後ろを壁に「メシャッ」としたことがあります(どれも運転席のある右側だったので、周囲の人には「なんでそうなるのか」と呆れられました)。
運転に慣れている、事故を起こしたことがないという「過信」によって、思わぬトラブルを引き起こす可能性はゼロではありません。特に高齢者で運転をする人は、長年の運転に慣れており、大きな事故を起こしたことがないことも多いでしょう。前述のような老化によるリスクを自覚しないまま油断して運転していると、実は危険な運転をしていたということもあるため注意が必要です。
過信は高齢者じゃなくても危険ですよ!
参考:朝日新聞|高齢者の運転は危ない? 現状やリスク、事故防止に必要な対策を解説
高齢者の運転による事故を軽減するためにはどうする?
高齢者の運転がなぜ危険か、特徴とともに解説しました。しかし、地域や生活状況によっては、高齢になっても運転を余儀なくされるケースは少なくありません。高齢者が安全に運転し、事故をできるだけ起こさないようにするには、どのような対策をすればよいのでしょうか。
安全運転サポート車を利用する
安全運転サポート車とは、安全運転支援装置が備わった車です。備わっている機能には、次のようなものがあります。
・衝突被害軽減ブレーキ(衝突の危険性を知らせたり、自動ブレーキが作用したりする)
・加速抑制装置(発進時や低速走行時にブレーキとアクセルを間違えた場合、急加速を防止する)
衝突被害軽減ブレーキ搭載のものを「サポカー」、加えて加速抑制装置も備わった車を「サポカーS」と呼び、高齢ドライバーには「サポカーS」の利用が推奨されています。
運転時は高齢運転者標識をつける
高齢運転者標識とは、70歳以上の人が自動車の前面と後面につける、下図のようなマークです。
道路交通法改正前は、70歳以上が高齢者運転者標識をつけるのは「努力義務」でしたが、改正後は70~74歳までが「努力義務」、75歳以上は「表示義務」に変更となりました。表示しなかった場合は、違反点数1点となり、反則金額4,000円や2万円以下の罰金などがあるので、75歳以上のドライバーは必ず表示しましょう。
高齢者運転者標識は、周囲に高齢者が運転していることを示し、運転に配慮してもらえる効果があり、このマークを表示した車に幅寄せや割り込みをした車の運転者には、違反点数1点、反則金額や罰金などの支払いが命じられます。義務だからという理由だけでなく、自分の身を守るためにも、高齢者運転者標識は必要です。
ちなみに平成23年1月以前に使用されていた、オレンジと黄色の雫のような形のマークも、引き続き高齢者運転者標識として使用できます。
眼科検診や運転トレーニングを活用する
高齢者運転での事故には、視野障害が起因していることも少なくありません。運転には視力だけでなく視野も必要ですので、高齢ドライバーは定期的な眼科検診を受けましょう。
また、JAFでは無料の「高齢運転者向けウェブトレーニング」を提供しています。認知機能や目・耳の機能チェックから、運転にかかわる機能の継続的なトレーニングに活用できるコンテンツを用意していますので、こちらもぜひ活用してください。トレーニングは、パソコンやタブレットでの利用が推奨されています
不調時は運転をしない
高齢者でなくても、不調時には判断力が低下したりして事故のリスクが高くなります。体調が悪いとき、普段とは感覚が違う気がするときなどは、無理をせず運転を控えましょう。また、不調がなくても運転中にこれまでにはない小さなミスが増えている場合は、今後の運転について考えるよい機会だと思い、免許返納も視野にいれることをおすすめします。
家族で話し合う
自分では「大丈夫」だと思っていても、実は危険な運転をしてしまっているというケースも少なくありません。年齢を重ねてきたら、自身の運転について第三者の意見を聞くことも大切です。運転ができないと不便な場合は、家族が今後をサポートしてくれるかどうかも含め、話し合いましょう。
高齢者本人からではなく、家族が話を持ちかける場合は、自尊心を傷つけないよう注意が必要です。免許返納となると、抵抗のある高齢者も少なくありませんが、以下のポイントを押さえて話を進めてみてください。
・昨今の高齢者運転による事故発生率、どのような事故が多発しているかという実際のデータを示す
・車の維持費が年間どれくらいかかるかを計算し、浮いた費用でできることを提案する
・免許返納により得られるメリットを説明する
・返納後の移動手段について、家族がサポートできる場合はその旨を伝える
家族の説得では難しい場合は、かかりつけ医に相談し、自主返納を促してくれるようお願いするのも1つの方法です。
参考:高齢者運転標識の義務化
警視庁|高齢者運転者標識を活用しましょう!
おとなの自動車保険|高齢者が運転で気をつけるべきことは?
道路交通法改正で義務づけられた内容もチェック!
高齢者運転者標識以外にも、道路交通法では高齢ドライバーの事故軽減のために義務づけられている事項があります。70歳以上、75歳以上の運転者に向けて行われている講習や検査は、次の通りです。
【70歳以上】高齢者講習
70歳から74歳の高齢者が免許を更新する際には、手続き前に高齢者講習の受講が行われます。講習時間は2時間で、受講可能期間は、免許更新期間満了日の6ヵ月前から期間満了日まで。講習内容は、座学、運転適性検査、運転講習などです。
高齢者講習はあくまでも「講習」ですので、合否はありません。講習を受ければ必ず修了証明書が交付され、運転免許更新の手続きが行えます。
【75歳以上】認知機能検査
75歳以上になると、免許更新手続き前に、高齢者講習受講前に認知機能検査が必要になります。認知機能検査とは、記憶力・判断力などを測定するものです。36点未満は「認知症のおそれがある」、36点以上は「認知症のおそれがない」と、点数による判定があります。
36点以上の場合は高齢者講習に進み、免許更新が可能です。しかし、36点未満の場合は運転免許の停止、取り消しとなります。さらに、一定以上の交通違反歴がある場合には、実写による運転技能検査に合格しなければなりません。
運転免許の自主返納方法と運転経歴証明書
現在は、75歳以上の運転者は一定の条件をクリアしないと免許更新ができない仕組みです。しかし、免許の有効期間は70歳が4年、71歳以上が3年となっています(優良運転者・一般運転者の場合)。
運転に自信がなくなってきた、運転はもうしたくないと思った場合は、免許更新のタイミングを待たずに運転免許を返納する「自主返納」も可能です。最後に、自主返納の方法と、返納時に受け取れる運転経歴証明書について、解説します。
自主返納の方法
運転免許を自主返納しようと思ったら、最寄りの警察署や運転免許センターで申請しましょう。その後は指示に従って、書類の記入などをすれば返納できます。返納場所や方法などの詳しい情報は、事前に電話などで問い合わせると、手続きがスムーズです。
運転経歴証明書とは
運転はしないけど、本人確認書類として免許証を持ち歩いていたい思う方もいるでしょう。本人確認書類が欲しい場合は、自主返納時に「運転経歴証明書」を交付してもらうと、その後の身分証として使用できます。
運転経歴証明書は、免許返納日からさかのぼって、5年間の運転に関する経歴を証明するものです。公的な本人確認書類に使用できるだけでなく、提示すれば公共交通機関での割引も適用されます。また、自治体によっては買い物や食事の際に受けられる特典も用意されているので、詳しくは自治体に問い合わせてみてください。
特典があるのはうれしい!
高齢者で運転する人は多い!できる対策で事故軽減に努めて
高齢者の運転、免許保有者は年々増加しています。ここ数年は交通事故件数そのものも、高齢者の事故率も減少傾向にありますが、若い頃のようなつもりで運転を続けるのは危険です。高齢者の運転については、本人だけでなく家族や周囲の人も気にかけ、必要に応じて免許の返納を勧めるなどして、安全を確保しましょう。
編集後記
実母は現在64歳。毎日車で通勤していますが、「75歳になったら私は免許を返納する」と宣言しています。実際その年齢になっても元気なら、「まだ大丈夫」などと言いかねませんが、できるだけ返納する方向に持っていこうといまから思っています。
私自身も、年を取ったら運転は極力控えたいところ。何もない田舎ですが、駅とスーパーと病院は徒歩5分圏内。駅からはイオンやアウトレットに行けるバスが出ているので、40年後もこの環境がなくならないで欲しいと切実に思うのでした。