少子高齢化が進む日本では、大なり小なり介護を必要としている人が多く存在します。デイサービスや介護付有料老人ホーム、訪問介護などのサービスを受けている方も少なくありませんが、必要な支援の度合い、金銭的な理由などさまざまな事情により、家族が自宅で介護をしている、というご家庭があるのも事実です。
今回は、自宅での介護において気を付けたいポイントをまとめました。介護者の負担を軽減するため気を付けることは何か、必要な情報とともに、筆者の体験談もお伝えしていきます。これから介護をしなければいけない方、可能性のある方の参考になれば幸いです。
介護で気を付けることは大きく2つ
介護で気を付けることは「介護を受ける側への気遣い」と「介護者の気持ちの持ち方」の、大きく2点です。どういった内容かを解説していきます。
介護される側への気遣い
高齢でコミュニケーションを取るのが難しい、また認知症などの症状でうまくやり取りができないということもあるかもしれませんが、介護を必要とされる方が「何も分かっていない」のかといえば、それは間違いです。
介護される側にも感情はあり、そのときどきに抱く感情は記憶として残るといわれています。認知症などを発症されている方の介護は、特に大変かもしれません。しかし、相手が病気であることを理解し、そのうえで「1人の人間」を相手しているという意識で、気遣いを忘れないことが大切です。
介護拒否などがある場合にも、声を荒らげるのではなく「なぜ嫌なのか」を考えるなど、相手の気持ちに寄り添う姿勢を忘れないようにしましょう。
介護する側としての気持ちの持ち方
介護する側は、さまざまな負担がかかるためストレスも溜まります。気持ちの持ち方を変えるだけでも、こうした感情を抑えることができるので、できるだけネガティブな感情を持たないことが大切です。
介護拒否をされる、話が通じないなど、必死にやっていても報われないと感じるシーンは少なくありません。しかし、その都度ネガティブな感情を溜めてしまうと、精神的な疲労が溜まり、体調にも影響します。
実際、介護者がうつ病を発症する、介護を受ける方を虐待してしまう、ということも、少なくないのです。思いやりを持って介護を行うことはもちろん大切ですが、相手はもちろん、自分自身を大切にすることも、おろそかにしてはいけません。
自宅での介護で大変なことは・・・
家族に介護が必要な方が現れた場合、度合いによっては自宅で家族が介護をする、という選択肢しかないこともあります。介護を行ううえで大変なのは、どういったことなのでしょうか。
介護される側とのコミュニケーション
最も大変なのは、介護される側とのコミュニケーションです。認知症の方などはうまくコミュニケーションが取れないこともありますし、実の両親を介護するのと義理の両親を介護するのとでは、コミュニケーションの取り方も異なります。年を取って性格が急変してしまう、という方もいるため、非常に難しい問題だといえるでしょう。
介護は長期にわたることもあるため、その場しのぎは通用しません。相手とのあいだに溝ができると、お互いにとってストレスが多くなるため、注意が必要です。
排泄介助
介護未経験の方が不安要素として抱える排泄介助は、実際にやってみても大変なようです。排泄介助、といってもトイレでのお手伝いが必要な方、ポータブルトイレを使用する方、おむつ替えをしなければいけない方など、人によって排泄方法や介助の内容は異なります。
いずれにしても汚物の処理をしなければならず、排泄物のにおいも気になるでしょう。
排泄はデリケートな問題ですので、介護者はもちろん、介護される側の意思もある程度尊重しなければなりません。ケアマネジャーさんなどのアドバイスも取り入れながら、どちらのストレスや負担もできるだけ軽減できるような方法を選択しましょう。
精神的な負担
介護のプロである介護職員の方も、精神的な負担は大きいと語るほど、介護現場において精神面の問題は深刻です。自宅での介護は介護される方とずっと一緒にいなければならないことも多く、社会から切り離されたような気分になり、よりつらいと感じるかもしれません。
認知症の方の介護をしていると気が休まるときがない、という方もいらっしゃいます。精神的な負担は、体調不良を引き起こしたり、うつ病を発症したりする可能性があるため危険です。
時間面の負担
両親の介護を必要とされたときに、介護する側はまだまだお子さまが小さかったり、バリバリ働ける年齢だったりということも少なくありません。介護は多くの時間を取られるため、退職をしなければならない、という人もいます。
着替えをさせる、トイレに連れて行く、ごはんを食べさせるなど、1つひとつを見てみるとたいして時間がかかることではないように感じますが、介護となると通常の倍以上の時間がかかることもあるでしょう。
忙しい時間の合間に介護をしなければならない方も、常に付き添っていなければならない方も、自分の時間がないというのは大きな負担でありストレスだといえます。
食事や入浴の介助
食事の介助といっても、食材を小さくするだけでよい方から、ペースト状にして食べさせてあげなければいけない方までさまざまです。介護度が上がればお手伝いの負担も増えるので大変になります。
また、入浴も服を脱がせたり体や頭を洗ったり、また着替えさせたりと介助の内容は幅広いため大変です。食事や入浴、また排泄は生活の上で欠かせないため、毎日の負担になるのも、大変な理由の1つでしょう。
その他
このほかにも、経済的な負担や身だしなみのケア、徘徊の対応など、介護では大変なことが多くあります。介護の度合いが上がるほど、手伝わなければならないことが増え、時間の拘束も長くなり、精神的な負担も大きくなるでしょう。
なかには、介護に大変さを感じない方もいますが、感じ方は人それぞれです。介護者がストレスを溜めないようにするためにも、自分自身で時間や精神面に余裕を持てるような工夫をすることが求められます。
介護者の心身の健康を守るために心がけたいこと
大切な家族が介護を求めていれば、それに応えたいと思うのは当然です。しかし、介護者が心身に不調を来しては意味がありません。介護者の負担を少しでも軽減させ、心身共に健康に過ごすには、どういったことを心がければよいのでしょうか。
完璧を目指すのは×
介護をすると決めたら、しっかりとしないといけない、きちんとしたことをしてあげたい、と思うかもしれませんが、完璧を目指すのはよいことではありません。
介護される側も人間なので、全てが思うように、うまくいかない場合もあります。高齢者介護の場合、介護者が必死に頑張ることで相手の状態や状況がよくなるということは、ほとんどありません。むしろ、頑張れば頑張るほど介護される側とのあいだにミスマッチが生じ、関係や自身の心身に悪影響になることもあるでしょう。
いろいろな意味で距離をとることが大切
ずっと在宅で介護をしなければならないとなると、介護される側とべったりになってしまいます。介護者は自分の時間も持てなくなり、ストレスから相手の存在を疎ましく思うようになることも少なくありません。
介護を円滑に行うには、相手との距離を取ることも大切です。他の家族にお願いして自分の時間を作るなどして、物理的にも時間的にも相手と距離を置く機会があると、穏やかに介護にあたれるのではないでしょうか。
1人で介護を抱え込まない
なかには頼れる方がおらず、1人で介護を担わなければならないという方もいます。また、他に家族がいても非協力的だったり、話を聞いてくれなかったりと、1人ではないはずなのに孤独を感じながら介護をする方もいるでしょう。
こうした状況は介護者の精神面に大きな負担を与えます。身近に相談できる方、話を聞いてくれる方がいるのがベストですが、いない場合には相談窓口などを利用して話を聞いてもらうのがおすすめです。「具体的に相談することがなければ連絡をしてはいけない」と思われるかもしれませんが、介護における孤独感や、漠然とした不安などの悩みを聞いてくれる場所もありますので、ぜひ活用してみてください。
困ったらプロによるサービスも検討しよう
自宅での介護の負担が大きすぎる場合には、プロによるサービスも検討してください。一昔前は「親の介護をするのは当たり前」と思われていましたが、時代が変われば価値観や常識が変わるのも当然です。
自宅で慣れない人にイライラと介護されるよりも、プロによるサービスを受けられるほうが、介護される側も安心な場合もあるでしょう。「家族を他人に預けるのは申し訳ない」と思う方もいますが、デイサービスやショートステイ、訪問介護などを利用すれば、介護者も少しでも自身の時間を持つことができます。
筆者が介護で気を付けていること
筆者は夫と2人の息子と暮らしていますが、近距離に実家があり、介護が必要な家族を2名抱えています。最後に、体験談として自身が介護で気を付けていることなどをお話させてください。
我が家の現状
実家にいるのは両親と祖母、兄ですが、そのうち介護を必要としているのは父と祖母です。祖母は17年前に脳梗塞で倒れ、その後半身不随となりました。リハビリによりトイレや着替え、食事など最低限の身の回りのことはできるようになりましたが、つい最近転倒により圧迫骨折で入院。既に退院はしたものの、以前よりもできることが少なくなり、介護がより大変になっています。
以前は月水金曜にデイサービスにお世話になり、その他の日は自宅にいました。火曜・木曜は母も仕事でいないため、ヘルパーさんに1日30分来ていただいていましたが、退院してからは自宅に1人でいることもできなくなり、現在は月曜から土曜までデイサービスでお世話になっています。
父は数年前にパーキンソン病を発症し、昨年介護認定を受けました。現在は月曜から金曜までデイサービスにお世話になっています。着替えや食事、トイレなど最低限のことはまだ自身でできますが、病気の影響でふらついて転倒してしまう、エプロンをしないと食事をこぼして汚してしまう、といった大変さはある、といった状態です。
筆者の役割
近距離別居の実家に暮らす2人の要介護者に対し、筆者が行っていることは大きく2つです。1つは朝の見送り。母や兄は7時に家を出なければならないため、デイサービスのお迎えが来るまでは父と祖母の2人きりです。何かあると危ないので、次男を保育園に送る前後に、実家へ行って様子を見て、お迎えが来るまで一緒にいます。
もう1つは夜の着替えの手伝いです。筆者宅では週に5~6日は母が夕飯の支度をしてくれ、実家で皆で食卓を囲んでいます。これは恥ずかしながら私が仕事が忙しいので甘えているのと、子どもたちを連れていくと両親や祖母が喜ぶという、2つの理由からです。
食事後にはお皿を洗ったり、祖母のトイレや着替えの介助をしたりします。17時半頃に実家に行き、食事と諸々の手伝いを済ませ、帰宅するのは19時半頃です。
母はこれに加え、デイサービスの準備や夜中のトイレの対応、朝の支度などを行っています。負担が大きく、精神的にも身体的にも「疲れているな」と感じますが、そんなときに話し相手になったり、子どもたちの顔を見せて元気を出してもらうのも、私の役割かなと感じています。
介護で気を付けることとして大事にしているのは・・・
短時間とはいえ介護に関わるうえで、筆者が実践的に大切にしているのは「きちんと話しかけること」です。相手も人間ですが、介護が必要ということは、健常者と同じ対応ではうまくいかない場合もあります。たとえば「明日8時半に行くから」と伝えたつもりでも、相手が聞いていないということは多々あるのです。
「おばあちゃん、明日ね、8時半に来るよ。ちょっといつもより遅いけど、絶対に来るから、待っててね」「お父さん、まだみんな座ってないから。ごはん食べないで、みんなでいただきますをしようね」など、大げさなほど大きな声で、明らかに相手に向かって話しかけているとわかれば、相手も理解してくれます。聞こえていなければ相手もリアクションをせず「言ったのに無視をされた」「聞いていない」というすれ違いが起こりストレスになりますが、きちんと伝えればこうしたミスマッチは起こりにくいです。
簡単なようですが、こちらもあちらも感情を持った人間なので、なかなかうまくいかないこともありますが、できるだけコミュニケーションを取りながら、お互いにイライラしたり不安になったりしないようにするために大切なこととして、気を付けています。
介護者の負担を軽減し、温かい時間を過ごそう
介護を自宅で行う場合には、介護する側とされる側、どちらも大切にしながら行動することが求められます。
「介護は1人で抱え込んではいけない」「時間的にも物理的にも距離を置くことが大切」「プロのサービスを活用する」など、今回ご紹介した介護者の負担が大きくなりすぎないための工夫は、本当に重要なことだと、自身の体験を通して実感する日々です。
大変ですが、大切な家族と過ごせる時間は限られていますし、「介護が大変だからいなくなって欲しい」とも思いません。とはいえ、こうした日々がいつまで続くのか、というまさに「おわりのない介護」に対して、不安を抱かないといえば嘘になります。しかし、いずれ終わりの来る「今」だからこそ、温かく大切な時間にしたい、という思いもまた、事実です。
これから介護をされる方も、自身が無理をしないこと、そして相手を思う気持ちを大切に、よりよい時間を過ごせるよう工夫をしてみてください。現在介護をされている方は、大変なことも多いかと思いますが、一緒に乗り越えていきましょう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。