学校や会社、自治体などでは定期的な避難訓練が実施されますが、もちろん保育園も同様です。
小さな子どもが多く生活を送る保育園には、まだ言葉の意味があまり理解できない子どもいます。そうした子どもを対象に訓練をする際には、どういった点を考慮するべきなのでしょうか。
今回は、保育園の避難訓練の内容や実施の目的、訓練をスムーズに勧めるためのポイントをご紹介します。保育士として避難訓練を実施する方はもちろん、これから保育士を目指す方、そして保育園にお子さまを預けている保護者の方もぜひチェックしてみてください。
保育園で避難訓練を実施する目的
保育園で避難訓練を実施する前には、目的を明らかにしましょう。
保育士の目的
保育士は自身の安全を確保しながら、大勢の子どもたちを安全に避難させなければなりません。小さな子どもたちを落ち着かせ、適切な指示を出せるようにするには日頃からの訓練も重要となります。
保育士は避難訓練を通して、
・災害時に冷静、適切な行動が取れる
・子どもたちを安全に避難させられる
・避難時に注意したいポイントを把握する
といった3点を達成することを頭に置いて避難訓練に臨みましょう。
園児の目的
保育園に在籍する園児は、0歳から6歳くらいまでとまだ小さいです。想定外のことが起これば、子どもは大人以上にパニックに陥ってしまうでしょう。
そんなときにも保育士の話や指示をよく聞いて、比較的冷静に対応できるようにするためには、定期的な訓練で「慣れる」ことが大切です。
つまり、園児が避難訓練をする最大の目的は「災害時にも保育士の指示を聞き、安全に避難できるようにすること」だといえます。
保護者が一緒におこなう場合
保育園によっては避難訓練に保護者が参加する場合もあります。保護者は避難訓練を通し、家庭で被災した場合にも冷静な判断、対応ができるようになることや万一のときに園との連絡、連携をしっかり取れるようにしましょう。
保護者参加型の避難訓練の主なスタイルは「園からの引き渡し」です。普段のお迎えと同じ姿勢ではなく、引き渡し時のルールや災害時の連絡方法などを把握し、実際に災害が起きたことを想定し、送迎時のルートなども確認しましょう。
避難訓練、小さな園児にどう説明する?
5歳、6歳くらいになれば、子どもも避難訓練の重要性や避難方法などを言葉で理解できるようになります。しかし、まだ小さい子どもは言葉だけでは理解できないことも多いです。
小さな園児とスムーズに避難訓練を実施し、災害発生に備えるには、説明にどういった工夫をするとよいのでしょうか。
「言葉」だけではなくわかりやすさが大切
保育園では、避難訓練の手順や重要性についてただ口頭で伝えるだけでは理解できない、話に飽きてしまうこともあるため、わかりやすく伝える必要があります。
小さな子どもが興味を持って話を聞き、尚且つ内容を理解してくれるためには、視覚から伝えるのが有効です。災害や避難訓練についての絵本を活用する、紙芝居を作る、人形劇や先生たちの劇を披露する、災害に関するアニメ、DVDを見せるなど、伝える方法はいくつかあります。
その際、難しい言葉はわかりやすく置き換え、ゆっくりとした口調で伝えることも忘れてはいけません。
災害というテーマは子どもにとっては怖く感じることもありますので、キャラクターを使った劇にしたり、緊張感がありながらも子どもが見ていて楽しめる内容にしたりといった工夫も取り入れましょう。
園児に伝えたい「おかしもち」とは
災害の深刻さ、避難訓練の重要性を伝えると同時に、園児に伝えたい避難訓練の約束があります。約束は5つあり、頭文字を取って「お・か・し・も・ち」と覚えさせると子どもも覚えやすいです。
「おかしもち」の約束は次の5つです。
・お:押さない(慌てて前にいる人を押さない)
・か:駆けない(二次災害を避けるために走らない)
・し:しゃべらない(指示が聞こえなくなるので私語をしない)
・も:戻らない(逃げ遅れる可能性があるため忘れ物をしても戻らない)
・ち:近づかない(危険な場所に近づかない)
一昔前は「おかし」「おはし」などが主流でしたが、最近は「戻らない」「近づかない」も追加されています。大切な園児の命を守る合言葉ですので、こちらもわかりやすく伝えられるようにしましょう。
保育園の避難訓練をスムーズに進めるポイント
避難訓練、といっても地震や火災、不審者が侵入した場合などそのバリエーションはさまざまです。それぞれの訓練をスムーズに進め、いざというときのために役立てるには、どういったポイントに注意すればよいのでしょうか。
マニュアルや年間計画をしっかり作る
年度初めには、避難訓練の種類別マニュアル、何月にどういった訓練をするかという年間計画をしっかりと作成しましょう。
マニュアルは園の規模や立地などによって異なりますので、オリジナルのものを作成する必要があります。訓練内容や必要なもの、避難経路などをわかりやすく記載しておくことで、避難訓練をスムーズに進められることはもちろん、いざというときに持ちだして活用できます。
また、マニュアル作成作業を進めながら、防災に関するさまざまな知識を頭に入れることもできるでしょう。
年間計画には訓練内容だけでなく、訓練の目的や内容、注意点、役割分担、特別に必要なものなども明記しておくとスムーズです。
避難訓練に必要な道具を準備する
マニュアルや年間計画だけでなく、避難訓練で使用する道具、また本当に災害が起こったときのための備蓄や防災グッズの準備も、予めしておきましょう。道具は取り出しやすい場所にまとめ、保育士全員がその場所を把握しておくようにしてください。
一般的な防災グッズに加え、保育園で用意しておくことをおすすめしたいのは、保育に必要なおむつやおしりふき、着替え、哺乳瓶、タオル類などです。また、避難訓練の際には発災を想定し、園児の名前と緊急連絡先がわかる名簿、筆記用具、救急道具、ホイッスルなどを用意しましょう。
地震訓練の場合
昨今は地震による被害も多いため、地震訓練は頻繁に実施したいところです。地震訓練で注意したいポイントには、以下のようなものがあります。
- 窓際から離れる
- エレベーターがある場合は使用しない
- テーブルの下に隠れる
- 地震が起こった際にすぐに外に逃げないで指示を待つ
- 防災頭巾、ヘルメットなどがあればかぶせる
- 長袖の上着、靴を着用し安全に避難する
- 保育士は避難後の人数確認を必ずする
火災訓練の場合
火災訓練は「調理室で火災が起こった」「近隣の家が火事になった」「地震の二次災害として火災が起こった」といったシチュエーションで実施されます。
火災訓練での注意点は以下の通りです。
- 火元の確認や共有をする
- 火災を最小限におさえるため窓、ドアは閉める
- 安全な経路を通り園外へ出る
- 火事の通報をする
- ハンカチ、タオルなどで鼻と口を覆う
- 低い姿勢で移動する
- 可能な場合は消火訓練も実施する
不審者訓練の場合
自然災害のみならず、保育園に不審者が侵入したことを想定した訓練を実施する保育園も少なくありません。不審者による被害を最小限に抑えるためには、どういったことに注意すればよいのでしょうか。
- 子どもの安全を確保できる場所に避難する
- 不審者の行動範囲を狭めるためにドアを閉める
- 警察に通報する
- 保護者と迅速に情報を共有する
- 安全に引き渡しをする
まとめ
保育園での避難訓練では、小さな子どもが興味を持って災害の深刻さ、避難訓練の大切さを理解してくれるような工夫が必要です。
保育士の皆さんは訓練の目的をしっかりと理解し、保護者から預かっている大切な命を守るためにも、定期的な訓練に真剣に取り組みましょう。
保護者の方も訓練のねらいや内容を把握し、自宅でも防災について話す、避難訓練に際し保育園から出された要望には協力的に応えていくといったことを忘れないことが大切です。
家庭と園で連携を取りながら、お子さまの命を守っていきましょう。