災害時の車中泊は、レジャーでするのとは異なります。本当は狭い車の中で避難したくないけれど、何らかの事情でせざるを得なくなった人もいるでしょう。
車中泊での避難には危険もあります。どのようなことに気をつけて過ごすとよいのでしょうか。
災害時の車中泊に潜む危険
災害時の車中泊は、レジャーでするのとは異なります。本当は狭い車の中で避難したくないけれど、何らかの事情でせざるを得なくなった人もいるでしょう。車中泊での避難には危険もあります。どのようなことに気をつけて過ごすとよいのでしょうか。
車中泊の課題、危険性
1.どこで誰が車中泊をしているのか把握できない
支援する人にとって避難所の人数は把握しやすく、支援物資の支給や体調確認といった支援も届けやすくなります。しかし、車中泊をしている場合は、この限りではありません。
国は、車中泊している避難者の状況を把握するようガイドラインで示しましたが、仕組みができているところは、まだまだ少ないのが現状です。
車中泊の避難者は「どこで何歳の人が何人で車中泊をしているのか」を、自分たちで役場や周囲の人に伝えておく必要があります。
受けられるはずの支援が受けられなかった、ということがないように、みずから行動していきましょう。
2.エコノミー症候群
エコノミー症候群とは、長時間座り続けるなどして足の血流が悪くなり、血の固まりができることで、さまざまな症状をもたらすことです。残念なことに災害時、このエコノミー症候群が原因で命を落とした人もいます。
予防策としては、着圧ソックスの着用や運動があります。厚生労働省は「エコノミー症候群の予防のために」として、心がけるとよいことや足の運動を紹介しています。
慣れない車中泊では命を落とす危険もあることを認識し、予防することが大切です。
【参考文献】 厚生労働省「エコノミークラス症候群の予防のために」 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10600000-Daijinkanboukouseikagakuka/0000170800.pdf
3.駐車している場所は安全か?
あくまでも「避難先」としての「車中」なので、駐車する場所は洪水や崖崩れの危険性がない、安全な場所でなければいけません。
内閣府(防災担当)と消防庁が作成した、新たな避難情報を知らせるチラシには、こう記されています。「豪雨時の屋外の移動は車も含め危険です。やむをえず車中泊する場合は、浸水しないよう周囲の状況等を十分に確認して下さい」と。
とくに、外出先で災害にあい車中泊することになった場合は、そこの土地勘がないため注意が必要です。
わたしの住んでいる地域では、車が水没しそうなほどの大雨になると、高台にある公共施設の駐車場や学校の校庭が車の避難場所として開放されます。避難所が開設されるほど大きな災害ではないときもです。
豪雨のときはあっという間に水かさが上がることもあります。災害がおきてから慌てることがないように、自分の住んでいる地域では「どこが高台なのか?」を調べておきましょう。
【参考文献】内閣府(防災担当)・消防庁「令和3年5月20日から避難指示で必ず避難 避難勧告は廃止です」http://www.bousai.go.jp/oukyu/hinanjouhou/r3_hinanjouhou_guideline/pdf/poster.pdf
車中泊している人が支援からもれないために
避難している場所をメールで申請する仕組み
2016年熊本地震で莫大な被害をうけた、熊本県益城町は震度7の地震に2度おそわれ、町内ほとんどの家屋が被害をうけました。多くの人が車中泊をしていたのです。
この益城町で2021年 年3月から、避難場所を各自にメールで申請してもらう仕組みがスタートしました。災害発生時、車中泊している人に申請してもらうことで、役場が避難者の状況を把握、適切な対応につながることが期待されます。
車中泊避難者への対応が盛り込まれたガイドライン
2016年4月内閣府(防災担当)が提示した、「避難所運営ガイドライン」では、「車避難者へエコノミークラス症候群の周知を実施する」と明記されています。車中泊による危険性を認知しているのです。
【参考文献】 内閣府「避難所運営ガイドライン」 http://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/1604hinanjo_guideline.pdf
車中泊しなくてもよい避難所を目指す
登山家、野口健さん
野口さんは、2016年熊本地震のときに報道で車中泊を余儀なくされている人たちがいることを知ります。日本の避難所の状況をしっていた野口さんは、熊本県益城町の陸上グラウンドに、最大600人が利用したテント避難所を開設したのです。
車中泊している人に利用してもらおうと思っていた野口さんでしたが、車中泊している人の人数もはっきりとはわからず、大変だったといいます。そこで、テントを設置したグラウンドの近くに車を停めていた人たちに声をかけたのです。
野口さんも、車で避難している人の状況を把握することが難しい、という体験をされたのでした。
【参考文献】 ウェザーニュース「アルピニスト・野口健さんが被災者にテントを送った理由」 https://weathernews.jp/s/topics/201804/110205/
スフィア基準
スフィア基準とは「紛争や災害の被害者が尊厳のある生活を送ることを目的に定められた基準」です。1997年にNGOグループなどによって策定されました。衛生、食料など人間が生きていくうえで必要不可欠な4つの要素をあげ、それぞれに基準をもうけています。たとえば、避難所における一人分のスペースは約2畳分、トイレの男女比は1:3などというものです。
これに照らすと「日本の避難所は難民テント以下だ」と言う人がいます。先ほどの登山家、野口さんは、この言葉を海外の支援者から聞き、衝撃をうけたといいます。
数値という基準があることは、対策を進めるうえでわかりやすいものです。ですが、スフィア基準は、紛争や災害といいいた緊急時においても、人間としての尊厳をもって生活していくことをうたっているものになります。
【参考文献】
NHK NEWS WEB:避難所の女性トイレは男性の3倍必要~命を守る「スフィア基準」 https://www3.nhk.or.jp/news/special/saigai/select-news/20180501_01.html
内閣府国際平和協力本部事務局(PKO) 第55回 人道憲章と人道対応に関する最低基準(スフィア基準) http://www.pko.go.jp/pko_j/organization/researcher/atpkonow/article055.html
まとめ
いつ災害がおきてもおかしくないと言われる日本。しかし、それに「備える」という点では、まだまだ足りない現状や、改善していく必要がある面もあります。
雑魚寝状態の避難所の様子に見慣れている私たちは、「災害時だから仕方ない」と思ってはいないでしょうか?もし避難している所が、プライバシーはしっかり守られ、暑さ寒さのストレスもなく過ごせる場所だったら、車中泊をえらぶでしょうか?
自分たちの力ではどうにもならない事もあるでしょう。ですが、声をあげていくこと、その声に耳を傾けることがなければ、ますます状況は変わりません。
「災害という命の危険から逃げた人たちが、避難先である車内の環境が原因で命を落とす」。これは、もう繰り返してはいけないことなのです。
【参考文献】
内閣府:避難所運営ガイドライン(平成28年4月) http://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/1604hinanjo_guideline.pdf
避難所における新型コロナウイルス感染症対策等の取組事例集 http://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/coronajirei.pdf
川崎市「大規模地震における車中泊による避難者への対応について」 http://www.9tokenshi-syunoukaigi.jp/pdf/05_07_kawasakicity_71.pdf
トヨタ自動車のクルマ情報サイト‐GAZOO|【第三回 車中泊避難に潜む危険】 https://gazoo.com/ilovecars/useful/bousai/21/01/30/