『仮設住宅は本当にせまかった』これは自宅が全壊、仮設住宅に入居した筆者の感想です。
2011年(平成23年)3月11日東日本大震災の発生後、同年6月から2016年(平成28年)4月までの5年間、仮設住宅ではさまざまな「困ったこと」がありました。
今回はそのなかから「台所では・・・お風呂では・・・」といった居住関係の困りごとを、入居中に改善された点とあわせてご紹介します。
また、当時もらった実際の資料(一部)をお見せしながら、入居までの流れや災害公営住宅に転居しての感想もおつたえします。
今後も大災害の発生が予想されるなか、住環境への対策をすすめるなかで、なにかのお役にたてれば幸いです。
仮設住宅で困ると感じたこと
ここでは具体的にイメージできるよう、室内・台所が「どれほどせまくてどのように対処したのか」、そして「洗濯を干すとき」や「カビ対策」といった毎日の生活において困った点をご紹介します。
室内のせまさ:途中から1室が畳に
筆者が入居したのは2DK。といっても、面積は9坪(29.81平方メートル・軽量鉄骨)でした。
仮設住宅がせまいことはたびたび取りあげられますが、それは災害公営住宅に移り住んだとき「室内の移動だけでも運動になる!」と思うほどでした。
各棟のよこに物置があったので季節用品は保管しながら、日常的には必要最低限の物だけをもって対応しました。
また、入居時は2部屋ともにカーペットだったのですが、途中から1部屋を畳にすることになり、どちらの部屋を畳にするか希望をきかれた記憶があります。
筆者は畳があるとおちつくのですが、そのほか衛生面からも、当時0歳だった我が子を安心して遊ばせることができる部屋ができうれしかったですね。
室内のせまさは、我が子の行動が容易に把握できるという面ではよかったかもしれません。ときどき集会所のキッズスペースにつれていき、思う存分うごけるスペースで親子ともどもリフレッシュしていました。
台所のせまさ:ワークトップも省スペース
仮設住宅では台所のせまさに慣れるまで大変でした。
それは、洗い場となるシンクだけでなく調理スペースとなるシンク横のカウンター(ワークトップ)もおなじ。
入居前まで筆者は水切りカゴをつかっていたのですが、ワークトップに水切りカゴをおくスペースはありませんでした。もちろんシンク上に渡すタイプの水切りトレーを、つねにおいておけるほどの広さもありません。
そのため、調理器具は使い終わったらすぐ洗って調理スペースを確保、食事後に食器を洗ったらすぐ拭いて片付けることが習慣になりました。
手間に感じることもありましたが習慣化されたことで台所が整理整頓でき、今でも役立っています。
ちなみに、小さい食器用ラックをおくスペースは確保できていました(冷蔵庫のよこに洗濯機がありましたが・・・)
ベランダがない:踏み台で対応
仮設住宅にはベランダがなく、室内から物干し竿に洗濯物を干そうとすると、外に落ちそうになったことがありました。
筆者は身長が低いのもあるかもしれませんが、洗濯は毎日のことで大変なため、外に横長の踏み台をおいて対処したのです。
また、洗濯物を干すところは通路に面しているため、なんとなく筆者も通路をあるく人もお互いに違和感があり、微妙な感じだったのです。
しかし「こんにちは~」と双方ともに挨拶をかわすうちに、だんだんと見て見ぬふりのほどよい距離間をもてるようになり、「良い天気だね~」などと会話をかわす“顔見知りさん”もできました。
なお、雨の日は室内に干すしかないので、ただでさえせまい室内に洗濯物を干し、それらをかき分けて歩いていました。
カビの発生:対策には限界も
仮設住宅に入居中、ほかの市町村の仮設住宅で「カビが広範囲に発生してヒドイ」ということが、テレビで何度か放送されていました。
我が子の健康面への影響も心配だったため、筆者も換気扇をまわしたり結露をふきとるなど、カビ対策にはとくに気をつかっていたのですが、それでも入居の後半期には天井にすこしカビが発生。「発生をふせぐには限界があるのかな・・」と感じたのです。
退去時に室内のチェックにきたスタッフから「高齢の方の家ではもっとカビが発生している所もある」と聞き、こまめな掃除などがむずかしい方にとっては「カビ対策をとること自体が容易ではないのかもしれない」と想像しました。
仮設住宅で「困ること」だったけど改善されたもの
ここでは「入居当初は困っていたものの、その後に改善された2点」をご紹介します。
お風呂:追い焚き機能の追加
入居中、他県から応援でこられた警察官の訪問があった際「困っていることはないですか?」ときかれ、唯一おつたえしたのが「追い炊き機能があったら・・・」でした。
浴室もせまいため、我が子を先に入浴させていた筆者が入る頃には冷めていたのです。お湯を足せば温かくなるものの、子どもの様子も気になり早くすませたい気持ちもありました。
その後、追い炊き機能が追加されることとなり、入居前までお風呂がストレス解消法だった筆者にとっては、とてもありがたい気持ちでいっぱいになったのです。
玄関:風徐室の設置
室内の寒さは想像していたほどではなく、困ると感じるほどではありませんでした。
しかし、玄関をあけるとすぐせまい台所のため、冷たい風がふいているとあっという間に冷気が入りこんだのです。
しかし、のちに玄関には風除室ができたため、とても快適になりました。
風除室(カギ付)には灯油や傘など物置に入れるほどではない、近くに置いておきたいものを保管するスペースとしても重宝しました。
仮設住宅に入居するまでを当時の資料でふりかえる
ここからは、筆者が被災後、仮設住宅に入居するまでのながれを、当時の資料をふりかえりながらご紹介します。
なお、資料(一部)はあくまでも筆者のすむ自治体のものであり、また記載された条件等はのちに変更されている可能性もあります。当時のひとつの参考資料としてご覧いただけると幸いです。
入居できる人
仮設住宅に入居できるのは、災害対策基本法によってさだめられています。
筆者が自治体からうけとった資料には、次のようにまとめられていました。
自宅等の被害状況を証明するものは「罹災(りさい)証明書」です。災害発生後、市町村から発行手続きを開始するというアナウンスがされたあとに申請してうけとります。
なお、筆者は3月11日の被災後、4月上旬・4月中旬・5月上旬と市役所にでむいて現状と今後について相談、必要な手続きなどを教えてもらっています。
いま当時の資料を見直すと、5月上旬の担当者は「愛知県:○○ 群馬県:□□」と書かれており、あらためて全国各地から助けていただいことを実感します。
入居順位
民間賃貸住宅をさがすものの空き物件がなかなかみつかりませんでした。
仮設住宅の入居には「入居順位」がもうけられており、妊娠中だった筆者は第2順位に該当していました。
一時的に避難生活をすごせる家があったこともあり、仮設住宅への入居準備をすすめたのです。
その後、いくつかの仮設住宅が建てられ、災害発生からおよそ3か月後の2011年(平成23年)6月から2016年(平成28年)4月までの約5年間を仮設住宅で生活することになりました。
仮設住宅から災害公営住宅にうつって感じたこと
仮設住宅はせまいゆえに、家族との距離がちかくなるとともに、近所の人との物理的距離もちかくなります。
その環境に慣れるまでには違和感をおぼえ、今回ご紹介したほかにも困ることがあり、退去までのあいだストレスを感じなかったわけではありません。
ところが、入居から5年後(2016年/平成28年)に災害公営住宅への転居が決定したとき、建ちならぶ各棟をみて「生活感が感じられない・・」と、ひとつひとつの玄関がとてもおおきな壁に感じたのです。
もちろん、仮設住宅から退去できるのはうれしいのですが、あまりのちがいに戸惑いつつ、住環境のちがいがもたらす影響の大きさを痛感しました。
仮設住宅の困りごとには「ハード+ソフト面」セットでとりくもう
1995年(平成7年)1月17日に発生した阪神淡路大震災では、仮設住宅による孤独死が問題となり、その教訓をもとに東日本大震災では、入居に関してコミュニティ形成に配慮したといわれています。
かつての仮設住宅にはなかった設備が加わるなど、仮設住宅の環境は被災者への負担をへらすべく改善されているのでしょう。
しかし、仮設住宅はあくまでも仮住まいであり、それによるストレスや不安などは今後も被災者にふりかかるのかもしれません。
何に困っているのか、どのくらい不便に感じているのか、それはひとりひとりちがいます。
災害も仮設住宅での生活も経験しないにこしたことはありません。しかし、そこで住まざるを得なくなった筆者の負担を軽減してくれたのは、ハード面だけでなく被災者同士やスタッフとの会話といった、ソフト面でのサポートも大きかったと感じています。
いつまた日本で仮設住宅が建設されるほどの災害がおこるかもしれません。そのときに備え、ハード+ソフト面の両方からできうるかぎりの対策がとられることを願っています。
(以上)