「妊娠中でもシートベルトはしなければいけないの?」と疑問に感じることはないでしょうか?
妊娠後期ともなるとお腹が大きくなり「シートベルトで圧迫されるのが不安」になるかもしれません。
しかし、シートベルトの着用は、たとえ妊娠中であっても一部の例外をのぞき原則義務になっています。
そこで今回は「法律ではどのように規定されているのか」そして、妊娠中でもシートベルトを「正しく着用する方法」と「苦痛を軽減する補助具」についてお伝えします。
妊娠中の方はもちろん、ご自分が運転する車に妊婦さんを乗せる機会がある方も、ぜひ参考にご覧ください。
妊娠中であってもシートベルトの着用は原則義務
はじめに、妊娠中のシートベルト着用について、法律ではどのように規定されているのか確認しましょう。
道交法で義務づけられている
法律(道路交通法)では、車に乗っているすべての人にシートベルトの着用を義務づけています。
そして「妊娠中」だけを理由に、シートベルトの着用が免除されることはありません。
その根拠となる法律を、ひとつずつ確認します。
まず、運転者がシートベルトする義務を「道路交通法第71条の3」で規定しています。
◆運転者のシートベルト着用義務
道路交通法第71条の3
第1項 運転者
引用:警察庁「全ての座席でシートベルトを着用しましょう」 ※太字は筆者加筆
自動車(大型自動二輪車及び普通自動二輪車を除く。以下この条において同じ。)の運転者は、道路運送車両法第三章及びこれに基づく命令の規定により当該自動車に備えなければならないこととされている座席ベルト(以下「座席ベルト」という。)を装着しないで自動車を運転してはならない。(後略)
次に、おなじく「道路交通法第71条の3」において、ドライバーは「シートベルト未着用の人を乗せて運転してはいけない」ことになっています。
◆同乗者のシートベルト着用義務
道路交通法第71条の3
第2項 同乗者
引用:警察庁「全ての座席でシートベルトを着用しましょう」 ※太字は筆者加筆
自動車の運転者は、座席ベルトを装着しない者を運転者席以外の乗車装置(当該乗車装置につき座席ベルトを備えなければならないこととされているものに限る。以下この項において同じ。)に乗車させて自動車を運転してはならない。(後略)
このように、ドライバーも同乗者も「シートベルトは必ずしなければいけない」のが原則です。
それは、たとえ後部座席であっても適用されます。
シートベルトは後部座席でも義務
妊娠中のシートベルト着用をさけるため、後部座席に未着用の状態で乗っていないでしょうか?
なかには、親御さんなどから後部座席への乗車をすすめられた、という方もいらっしゃるかもしれませんね。
かつて、後部座席での着用は義務ではありませんでした。そのため「後部座席はシートベルトをする必要はない」というあやまった認識をもっている可能性があります。
しかし、2008年(平成20年)6月に道路交通法(第71条の3)が改正され、上記のように座席の位置にかぎらず義務化されています。
警察庁のデータによると、後部座席におけるシートベルト未着用の致死率は、着用時とくらべて、高速道路で約19.4倍、一般道で約3.5倍になるといいます。
里帰り出産や旅行などで高速道路を利用する方もいらっしゃるでしょう。その場合には、たとえ後部座席であっても忘れずにシートベルトを着用しましょう。
日本婦人科学会の見解
日本産婦人科学会が発行している『産婦人科 診療ガイドライン ―産科編 2020』」では、正しいシートベルトの着用によって胎児が事故で亡くなるリスクを減らすことが期待できる、とする内容が記されています。
妊娠中だから着用できないではなく、妊娠中でも正しくシートベルトを着用し、母親と胎児の命を守ることが大切だということですね。
妊娠中のシートベルト着用が免除されることもある
単なる「妊娠中」は理由になりませんが、一定の条件下ではシートベルトの着用が免除されます。
それを規定しているのが、道路交通法施行令です。
◇シートベルトの着用義務が免除される場合(一部抜粋)
(座席ベルト及び幼児用補助装置に係る義務の免除)
引用:e-GOV「道路交通法施行令」 ※太字は筆者加筆
第26条の3の2
法第七十一条の三第一項ただし書の政令で定めるやむを得ない理由があるときは、次に掲げるとおりとする。
一 負傷若しくは障害のため又は妊娠中であることにより座席ベルトを装着することが療養上又は健康保持上適当でない者が自動車を運転するとき。
法律の文言なのでむずかしい表現ですね。
ポイントは「療養上又はまたは健康保持上適当でない」という部分、妊娠中は療養というより「健康保持」に関係するのかもしれません。
どのような場合がそれにあたるのか、それは法律の解釈となるため明言できませんが、「未着用の状態は事故のときの致死率を高めてしまう」のは、先ほどのデータからも明らかです。
そのため、シートベルトの着用に不安があるときは、あらかじめ医師や市町村の保健師などに相談し、安心して着用できる環境をととのえることも大切です。
では、妊娠中はどのようにシートベルトを着用すればよいのでしょう。
妊娠中の正しいシートベルト着用方法と補助具を知る
シートベルトの着用が義務とはいえ、お腹を圧迫するようなつけ方は危険です。
ここでは「シートベルトの正しい着用方法」と、圧迫感を軽減する補助具「マタニティ用シートベルト」についてお伝えします。
【参考文献】神奈川県警察「妊娠中の女性へのシートベルト着用の推奨について」
シートはたおさず深く腰かける
お腹が大きい妊婦さんは、車に乗るとき次の2点を意識して座りましょう。
妊娠中に意識したいシートの「座り方」
お腹が張っていると、ついシートをたおしたくなるかもしれませんが注意しましょう。
また、深く腰掛けたら(運転に支障がない範囲で)シートを後ろに下げると、窮屈感も軽減されるでしょう。
肩(腰)ベルトは腹部のふくらみをさける
上記2点に注意して座ったら、次にシートベルトを着けましょう。
シートベルトは、肩ベルト・腰ベルトどちらもつかいますが、それぞれベルトにねじれがないか確認しつつ、次の点に気をつけて着用しましょう。
大事なのは「お腹のふくらみをさけて着用すること」です。
妊娠中に意識したい「シートベルトの着け方」
警察庁のホームページには、いまお伝えした着用方法がイラストをもちいて掲載されています。
このように、妊娠中のシートベルトは正しい着用方法でつけ、それに慣れていきましょう。
くり返しますが、単に「なんとなく不安だから・・」という理由では、シートベルトの着用が免除されることはありません。
しかし、そうは言ってもストレスを感じたままの運転や乗車は、とくに長い時間となると体への影響も心配になりますね。
そこで次に、妊娠中の方が感じるシートベルトの圧迫感を軽減するアイテムをご紹介します。
マタニティ用シートベルトで圧迫感を軽減
シートベルトの圧迫感を軽減する補助具として「マタニティ用シートベルト」があります。
マタニティーシートベルトは、シートの座面に装着するもので腹部より低い位置でベルトをとおすことができるようになります。
さきほどの正しい着用方法でも「お腹のふくらみをさける」ことが大事でしたね。
マタニティ用シートベルトであれば、お腹の圧迫感が軽減されるので、お腹への影響を不安に感じることもなくなり、安心して車を運転・乗れるのではないでしょうか。
まとめ
車の運転には細心の注意がもとめられますが、それはたとえドライバーが妊娠中であっても変わりません。
そのうえ、妊娠中は自分で体調をコントロールすることはむずかしく、思いがけず具合が悪くなることもあります。
できれば妊娠中の運転は控えたほうがよいですが、そうはできないこともあるでしょう。
車を運転をすることは、自分だけでなく周りの人の命にもかかわってくる行動です。決して無理はせず、正しくシートベルトを着用し、元気な赤ちゃんをむかえてあげてくださいね。
【参考文献】
*神奈川県警察「妊娠中の女性へのシートベルト着用の推奨について」
*警察庁「全ての座席でシートベルトを着用しましょう」
*おとなの自動車保険「妊婦の方もシートベルトの着用義務がある!正しいシートベルトの着用方法について」
(以上)