ライターの永野です!
以前にエアコンの節電に関する記事を書かせていただいてから、我が家では冬も夏もエアコンの設定温度を超意識しています。冬は「外寄りは暖かい」という感じもありましたが、夏は設定温度27度で快適。本当は28度にしたいところですが、夜は子どもが寝汗をかいてしまいますし、昼間も快適に仕事ができないので、「1度だけごめんなさい」という気持ちで27度の恩恵を受けています。
暑い8月ももう半ば。夏休みは後半に突入し、9月1日の「防災の日」も近づいています。
東日本大震災や阪神淡路大震災などの大きな災害の際には、直接的な影響だけでなく、発災後の何かしらの要因で亡くなってしまう方は少なくありません。今回は「災害関連死」と呼ばれるこうした「死」について、詳しく解説します。
災害関連死とは「間接的な要因による死」
災害関連死は、避難所での持病の悪化、病気、心身のストレスが引き起こす事故などにより亡くなることをいいます。さまざまな災害において、その後の影響によって亡くなることはあり、「災害関連死」として記録されますが、特に大震災では災害関連死が多い傾向です。
災害死と災害関連死の違い
災害で建物が倒壊して下敷きになる、出火などの二次災害で命を落とすといったように、災害の直接的な被害で亡くなるのが、「災害死」です。一方の災害関連死は前述の通り、災害による直接的な影響では命を落とさなかったものの、その後、何らかの災害の影響を受けて亡くなってしまうことを指します。
災害が起こってから長い年月を経て亡くなった場合にも、原因によっては「災害関連死」と判断されるケースも。東日本大震災でも、発災から10年が経過した2022年に6名の方が災害関連死したという報告があります。
災害関連死の原因
災害関連死の具体的な原因については後述しますが、地震や火災、津波などの被害を免れた方が、時間をおいてなぜ亡くなってしまうのでしょうか。
大きな原因として考えられるのは、慣れない環境によるストレスや、災害の影響による不十分な医療体制です。災害によってこれまでとは一変した生活を強いられるなかで、ストレスにより持病が悪化する、睡眠不足や精神的不安から、思わぬ事故に巻き込まれるというケースは少なくありません。
また、もし病気になってしまってもじゅうぶんな治療を受けられない、栄養が足りず回復が遅れてしまうといったことも、災害のあとには起こってしまいます。「いま健康だから大丈夫」なのではなく、災害関連死は誰にでも降りかかる可能性のある災難であることを覚えておきましょう。
災害関連死の実例
災害関連死がどういったものかをよりわかりやすくお伝えするために、実際の災害時にあった災害関連死についてまとめました。これまで国内で起こったさまざまな災害で、災害関連死は起こっていますが、ここでは熊本地震、東日本大震災を例に挙げてご紹介します。
実例1)熊本地震の災害関連死
2016年に起こった熊本地震では、276名の方が命を落としました。負傷者はおよそ5,500名。「少なければよい」ということは決してありませんが、大きな地震のなかでは死者数の少ない災害でした。
しかし、このうち221名、なんと全体の80%は災害関連死で亡くなっています。避難中の車内で心疾患で亡くなった方、疲労による心不全を起こした方、避難所生活で肺炎になり亡くなった方、エコノミー症候群や疲労から起こしたと思われる交通事故で亡くなる方など、さまざまな理由で、災害発生後に多くの方が亡くなっているのです。
実例2)東日本大震災の災害関連死
2011年の東日本大震災では、大きな地震によって起こった津波で、多くの方が亡くなりました。災害関連死を除いても、2万人を超える死者・行方不明者を出した大災害で、明治以降の地震被害としては、関東大震災などに続く5番目の規模となっています。
そんな東日本大震災での災害関連死者数は、令和4年3月末時点で3,800名近く。心身の疲労による発病や持病の悪化、避難所等への移動中、避難所生活のなかでのストレスが引き起こす事故など、さまざまな災害関連死があり、自ら命を絶たれた方も13名いました。
なかでも福島県は災害関連死者数が多く、原子力発電所の事故が影響していると考えられます。
災害関連死のより具体的な原因を確認しよう
災害関連死が起こる原因は、慣れない生活におけるストレスや医療体制が不十分ななかで起こる、病気や事故などです。さらに詳しく、どういった要因があるのかを見ていきましょう。
初期治療の遅れ
持病が悪化したり何かしらの不調が見られたりしても、搬送できる病院が見つからずに初期治療が遅れてしまうことは、被災地では少なくありません。診察を断られてしまう、医療機関も被災して治療が受けられない、安静にしているようにいわれたなどで治療が遅れたことが災害関連死につながるケースは、非常に多いというわけではありませんが、一定数存在します。
持病の悪化
病院の職員も災害が起これば避難をしてしまうので、人手不足から適切な治療を受けられないこともあります。かかりつけではない病院を受診したものの、これまで状態がわからないまま治療を受け、結果として回復が見込めず死に至るということも、災害関連死の理由の1つです。点滴も余震の可能性があるとしてもらえないため、栄養不足から既往症が悪化してしまうケースもあります。
避難所等への移動による疲労
自宅から避難所、避難所から病院への移動が、精神的・肉体的な疲労につながり、災害関連死をしてしまう方もいます。避難所や病院が遠い、寝たきりで移動の負担が大きい、座ったままの長時間移動でエコノミー症候群になってしまうといった理由以外にも、避難先や搬送先がなかなか決まらず、外で長時間待機せざるを得なかった、さまざまな場所を転々とさせられたという状況が、大きな負担となるケースもあるようです。
避難所等での生活における疲労
避難所では、発災前と同じような生活はできません。固く冷たい床に薄い毛布を敷いて寝たり、プライバシーのないなかで生活をしたり、着替えがない、トイレがきれいではないという衛生環境の悪いなかで何日も過ごしたりするうちに、心身の疲労が大きくなることもあります。こうして気力や体力が落ち込んでしまうと、水分や栄養が不足してしまい、体調が悪化。被災から時間が経ってから災害関連死をしてしまいます。
災害によるストレス・精神疲労
大きな災害がショックやトラウマになり、フラッシュバックしてしまう、映像を見て気分が落ち込んでしまうという方は少なくありません。また、家族や友人、知人、職場の方など身近な存在を亡くした悲しみから、精神的に立ち直れない方も。「災害」に関わるものにより強いストレスが加わり、精神的な疲労を抱え続けた結果、体調にも影響が出て亡くなってしまう方も、災害関連死として扱われます。
その他の原因
上記のほか、次のようなものが災害関連死の原因として考えられます。
・移動のために治療を中断せざるを得なかった
・施設にいられなくなり自宅介護を試みたものの、徘徊による交通事故で死亡
・薬がないことによる病状の悪化
・津波や地震で受けた体への衝撃が、あとになって出てきた
・人に会う機会が減り、刺激がなくなることで精神が不安定に
・救助活動の激務による不慮の事故
身体的・精神的な強いストレスは、体調の急変や食欲不振などさまざまな影響をもたらします。災害発生時には無事でも、その後の状況がよくないといくら環境が整っても元の生活には戻れません。そうして病気になってしまう方、栄養不良で亡くなる方、自ら命を絶ってしまう方、事故に巻き込まれる方などは、「災害関連死者」として記録に残ります。
災害関連死減少のためにできること
災害関連死について「防げたかもしれない死」と認識する方は多くいらっしゃいます。災害発生後、無事だった命を1人でも多く救うためには、どのような備えや被災地での意識、行動が求められるのでしょうか。
防災テントの準備
防災テントのなかでは、車内や避難所などの狭い空間よりも自由に体を動かせます。エコノミー症候群を防げるだけでなく、もし避難所に入れなかった場合も、野ざらしの状態で過ごさなくて済むため安心です。
また、テントは周囲からなかの様子が見えないため、プライバシーも守られます。多くの人がプライバシーなく過ごさなければいけない避難所にいるよりも、精神的なストレスも軽減できるのではないでしょうか。
備蓄の確保
食料や水分を思うように摂取できず、栄養不良や脱水で災害関連死をしてしまうのを防ぐには、備蓄を確保することが重要です。ライフラインの復旧、支援物資の到着にかかる平均的な期間は3日。最低3日分、できれば1週間分くらいの食料や水分があると、物資が来るまでも栄養不良になる心配がありません。
もちろん、着替えや衛生用品などの日用品も用意し、避難所などにもすぐに持ち出せるよう「防災リュック」としてまとめておくと、もしものときにも心に少しだけ余裕を持てるでしょう。
簡易トイレの用意
避難所にはもちろんトイレがありますが、不特定多数の人が短期間で利用するため、不衛生になりがちです。トイレから感染症が起こることも少なくないので、「できるだけトイレに行かないようにしよう」「そのためには水分を控えよう」と考え、脱水などの症状を起こしてしまう方もいます。
簡易トイレがあれば衛生面の不安なく排泄でき、水分不足、トイレに行けないことへのストレスを軽減できるでしょう。簡易トイレは3日分、1人27回分を最低量とし、可能であれば1週間分(1人63回分)用意すると安心です。
こまめな水分補給
水分不足はエコノミー症候群の可能性を高め、また夏場はもちろん、1年を通して脱水症状を引き起こしやすくなります。脱水は脳梗塞、心筋梗塞の引き金にもなりかねません。避難所などにいてもこまめに水分を補給し、災害関連死を招かないようにすることが大切です。
必要な水分量は、3日分(1人9リットル)から1週間分(1人21リットル)だといわれています。1週間分を避難所などに持っていくのは大変ですが、できるだけ多く用意しておくことをおすすめします。
震災ストレス軽減のための行動
ストレスは体調にも影響を及ぼすため、できるだけストレスを軽減できるような行動をすることも心がけましょう。たとえば体を動かす、深く呼吸をする、日光を浴びるといったことだけでも、気持ちが少し明るくなります。体を動かせば疲労感から睡眠にもつながり、睡眠不足によるさらなるストレスの防止も可能です。
フラッシュバックや環境の変化、大切な方の死などで心が落ち着かない場合は、人に話を聞いてもらったり、精神的不安を軽減させてくれるようなサービスを利用したりして、心の回復を図りましょう。
持病がある場合は
持病のある方は、災害時のストレスや栄養不良などで、悪化する可能性があります。健康な方よりも災害関連死のリスクが高まるため、持病の薬を防災グッズに入れておくこと、水分補給やストレス軽減に努めることなどをより意識しましょう。
また、かかりつけ以外の病院でも迅速かつ適切な治療を受けられるよう、お薬手帳や自身の症状のわかるものを持ち歩くことなども、忘れてはいけません。
原因と対策を知り、災害関連死を防ごう
災害関連死にはさまざまな原因があり、災害から数年経っても、災害が起こったことを引き金に亡くなられる方はいます。100%防げるわけではありませんが、災害関連死は対策を行うことで、死者数の減少が見込めるものです。
自分自身が、そして大切な方が、せっかく助かった命を落とさないよう、できる限りの行動で、災害関連死を防ぎましょう。
編集後記
東日本大震災が起こった1年と少しあと、2012年夏に、仙台の花火大会に行きました。途中、津波の被害があった「閖上(ゆりあげ)」という地域に連れて行ってもらったのですが、高速道路を隔てて海側は津波が襲い、反対側は被害が少なかったとのこと。
その「海側」を車で走ってみると、田んぼは海水で作物が育たない状態、賃貸アパートと思われる建物は倒壊してはいないものの、誰も住んでおらず、その近くには基礎の一部が残った住宅もあったことを覚えています。
生徒たちが屋上に避難して助かった「閖上中学校」の大きな時計は、地震が起こった14時46分を指しており、テレビやインターネットで見た東日本大震災直後の被災地とは状況が異なるものの、「時間が止まったままの空間」が、そこにはありました。
勝手に終わったものだと思っていた東日本大震災は、全く終わってなかった。そんな現実を突きつけられ、当時の私はショックであると同時に、自分の無知さや思慮の浅さを恥ずかしく思いました。
あれから12年。東北の街は少しずつ、新たな歴史を刻んでいます。それでも、わずかとはいえ災害関連死をされる方がいるという状況に、また驚きを隠せないでいます。「3.11」を実際に経験された方は、忘れたい記憶も多くあるでしょう。しかし、多くの方の命が奪われた大地震を、私たちはこれからも語り継ぐだけでなく、同時に防災についても学び、共有していかなければならないなと、3月11日を前に、改めて思うのでした。
参考サイト
・内閣府政策統括官「災害関連死について」
・災害関連死の覚えておきたい基礎知識と発生を防ぐ4つの対策
・災害関連死とは?事例や防ぎえた災害死との違いを解説!
・復興庁「震災関連死の死者数等について」