地域防災計画は県や市町村の自治体単位で策定されますが、その大元は国の中央防災会議になります。
つまり、中央防災会議が策定した「防災基本計画」の内容を受けて、各都道府県がそれぞれの現状に合わせて「地域防災計画」を策定し、都道府県が策定した計画内容を踏まえて、各市町村版の地域防災計画を作成する方式がとられています。
専門的なことを話してもあまり意味がないので、今回は市町村版の地域防災計画を作成する際の難しさと、防災計画の内容の矛盾点をお話しましょう。
正直なところ防災計画の作成は超面倒!
私が地域防災計画策定に携わったのは市町ですが、最終的に県の担当者による承認が必要です。そして、庁内で防災会議が招集されて、防災担当課から内容の説明がされ、防災会議で承認されてはじめて「地域防災計画」として成立します。
県から指摘を受けると修正をすることになるのですが、これが面倒で1個所指摘を受けると連動して複数個所を修正しないといけません。
地域防災計画には風水害編と地震編がある
地域防災計画には風水害編と地震編があり、それぞれで同じ内容が記載される個所が多くあります。それにより、たとえば風水害編で指摘を受けると、地震編も修正する必要があり、さらに関連する章も修正しないといけません。
県の担当者によっては、丁寧に修正すべきページ番号と個所を知らせてくれる方もいますが、そうでない担当者だと、風水害編のみ指摘し「関係個所はすべて修正するように」との指示だけです。
関連個所を間違えないように探すのも一苦労で、かなり時間を使い面倒です。
防災会議は地域の有識者で構成される
地域防災計画は基本的に各自治体の防災担当課が作成しますが、策定業務を補助するためにコンサル業者に委託することも珍しくありません。
ですができあがった地域防災計画には「○○市防災会議」と作成機関が記載されます。
これは県も同じで「○○県防災会議」と記載され、実際に作成に当たった「○○課」とは記載されないのです。その理由は、あくまでも防災会議によって承認を受けないと、計画が認められないためです。
防災会議のメンバーは各自治体で異なりますが、概ね次のような人物が選ばれます。
- 市町(町長)または副市長(副町長)
- 庁内の部長、局長クラス
- 県のセンター長クラス
- 近隣の警察署長クラス
- 消防局長クラス
- JRおよび私鉄の駅長クラス
- 基幹病院の病院長クラス
- ケーブルテレビ所長クラス
- NTT部長クラス
- NHK放送局長クラス
- 郵便局長クラス
- その他
要はライフラインに関連する企業、放送などメディア企業、病院、消防などで、各機関内および庁内で決定権をもつ人物が防災会議のメンバーに選出されます。
因みに中央防災会議の委員会では、会長は時の総理大臣が担うこととなっており、各大臣が委員として自動的に任命されます。
自治体によっては防災会議用のシナリオも作成
これまで経験したなかでは、防災会議用のシナリオも作成した経験があります。
防災会議では作成した地域防災計画の内容を説明しますが、時間の関係上当然ながらすべてを読み上げる訳ではありません。
各委員にはあらかじめ地域防災計画を印刷して「○○防災計画 風水害編(案)」など(案)として送付してありますが、委員のみなさんも忙しいのですべてに目を通すことはできていません。
そこで、防災担当の職員が要所をまとめて、防災会議で説明するのです。その時に、前回との変更点の説明や要点を説明しますが、シナリオを作成しそのとおりに進める担当者もいました。
当然こちらは、すべてを読み込んでいるので作成は可能ですが、超面倒であったたのは確かです。
中央防災会議から引き継ぐため現実と矛盾する内容もある
地域防災計画は冒頭にお伝えしたとおり、中央防災会議が策定しそれを受けて県が作成、さらにそれを受けて各自治体が作成します。
この手順によって実際にはほぼ起きることがない想定をする必要があり、かなりグレーな表現をせざるを得ない矛盾が発生します。
ちょっとした暴露的な話になりますが、少しお伝えしておきましょう。
放射性物質事故災害対策はすべての地域では起きない
たとえば、地域防災計画のなかには「放射性物質事故災害対策」が計画されます。
基本的に目的としては「放射性物質を取り扱う事業所および放射性物質の輸送中等において、発生する可能性のある市街地内における放射性物質に係わる事故災害に対して・・」なのですが、自治体によっては放射性物質を扱う事業所が存在しないにも関わらず、計画しなければなりません。
国の中央防災会議が策定する計画に存在し、県の防災計画にも存在するために、計画せざるを得ない内容となっています。
「仮に」の話で計画を立てている
たとえば、放射性物質を運搬するトラックが、自治体が管轄する範囲で事故を起こしたらどうするのか?との仮設によって対策を講じることとなります。
もちろん100%起きない訳ではありませんが、ほぼ起きないであろう災害までも予測して計画が策定されるのです。
また、原子力施設が存在しないのに「原子力災害」の対策までも記載します。
これは、中央防災会議からの計画の流れを崩さないようにすることから、このような災害の計画までもする必要があるのです。
航空機災害までも予測する
これもゼロとはいえませんが、自治体が管轄する地域内で航空機が墜落した際の対応策も計画されています。
実際に起きるかどうかは別にして、中央防災会議が予測した災害については、すべて対応するようになっているのが、地域防災計画なのです。
どの自治体も約400ページに渡っている!?
地域防災計画はどの自治体でも約400ページに渡っていますから、読むだけでも大変です。
昔は各課単位で印刷物を配布していましたが、すべての職員が目を通すことはできませんでした。現在では庁内LANなどによって、防災計画はPDFにて電子化されて共有されています。
しかし、災害時に停電すると使えなくなるため、やはり各部や各課に紙媒体での配布は必要です。
約400ページの中から起きた災害に対して、対応する計画を素早く見つけて行動に移さないといけません。
各自治体の防災担当課では、確実に防災計画すべてに目を通さないといけませんし、理解をする必要もあります。したがって、防災担当になると相当の苦労をしているのが現状でしょう。
参考サイト
内閣府 防災情報のページ 中央防災会議