マンションやビルなどには、いざというときに上層階の方がスムーズに避難できるよう、避難はしごが設置されています。しかし、実際に避難はしごを利用する機会は多くはないため、いざというときの使用方法はもちろん、日常的な取り扱いについて分からないという方も少なくないでしょう。
集合住宅のなかには、避難はしごがあるものとないものがありますが、集合住宅に住んでいても設置基準がどうなっているか知らないという方も多い傾向です。
今回は、避難はしごの設置基準や種類、使用方法、注意点などを解説します。避難はしごがご自宅や職場にある方、これからマンションなどのご購入を検討されている方などはぜひチェックしてみてください。
避難はしごとは「非常時に階下に避難するための器具」
一定の基準を満たしている建物には避難器具の設置が義務付けられていますが、避難はしごとは特に、マンションのベランダなどに設置されているものを指します。災害などの緊急時には、階段やエレベーターが使えず避難が困難になる場合も少なくありません。
そんなときに、ベランダに設置された避難はしごを利用し、階下へ移動します。2階の方は避難はしごで1階に降りることが可能ですが、3階以上の方は避難はしごで脱出可能な階まで行くか、各階のはしごを使用し、1階まで避難しなければなりません。
緊急時のみ使用する避難はしごは、長年マンションなどに住んでいても実際に使用した方というのは一握りでしょう。しかし、いざというときのためにどういったものかをしっかりと理解しておく必要があるといえます。
避難はしごの種類と特徴
避難はしご、と一言でいっても大きく4つの種類が存在します。それぞれの特徴を見ていきましょう。
固定はしご
固定はしごは建物に固定されたタイプの避難はしごです。ビルの側面などにはしごが設置されているのを見たことがある方も多いでしょうが、ああいったものを指します。
固定はしごは収納したり出したりという手間がなく、常時使用可能なのが特徴です。なかには伸縮式で使用する際にはしごになるものもあります。
つり下げはしご
つり下げはしごは、上の階から下の階に吊り下げるタイプのものです。箱状の入れ物に収納されているタイプのものが多く、バルコニーの手すりなどにひっかけて吊り下げ、壁づたいにはしごを降りて避難します。
立てかけはしご
立てかけはしごは建物に立てかけて使用するはしごです。吊り下げはしごは階上から階下に向けて吊り下げますが、こちらは階下から上の階に立てかけて使用します。つり下げはしご同様、箱に収納してあるものが多いです。
ハッチ用はしご
ハッチ用はしごは、マンションのベランダの床などに設置されているはしごを指します。床のなかに収納されており、緊急時には下の階へのはしごが出てくる仕組みです。冒頭でご紹介した避難はしごは、このハッチ用はしごを指します。
避難はしごの設置基準~消防庁施行令から見てみよう~
マンションの避難はしごを含む、避難器具の設置基準は、消防法施行令第25条第1項の第1号から5号までに規定されており、設置基準は階数や収容人数などによって決まります。防火対象物は以下の通りです。
消防法施行令第25条第1項
避難器具は、次に掲げる防火対象物の階(避難階及び11階以上の階を除く。)に設置するものとする。
第1号 別表第1(6)項に掲げる防火対象物の2階以上の階又は地階で、収容人員が20人(下階に同表(1)項から(4)項まで、(9)項、(12)項イ、(13)項イ、(14)項又は(15)項に掲げる防火対象物が存するものにあつては、10人)以上のもの
第2号 別表第1(5)項に掲げる防火対象物の2階以上の階又は地階で、収容人員が30人(下階に同表(1)項から(4)項まで、(9)項、(12)項イ、(13)項イ、(14)項又は(15)項に掲げる防火対象物が存するものにあつては、10人)以上のもの
第3号 別表第1(1)項から(4)項まで及び(7)項から(11)項までに掲げる防火対象物の2階以上の階(主要構造部を耐火構造とした建築物の2階を除く。)又は地階で、収容人員が50人以上のもの
第4号 別表第1(12)項及び(15)項に掲げる防火対象物の3階以上の階又は地階で、収容人員が、3階以上の無窓階又は地階にあつては100人以上、その他の階にあつては150人以上のもの
第5号 前各号に掲げるもののほか、別表第1に掲げる防火対象物の3階(同表(2)項及び(3)項に掲げる防火対象物並びに同表(16)項イに掲げる防火対象物で2階に同表(2)項又は(3)項に掲げる防火対象物の用途に供される部分が存するものにあつては、2階)以上の階のうち、当該階(当該階に総務省令で定める避難上有効な開口部を有しない壁で区画されている部分が存する場合にあつては、その区画された部分)から避難階又は地上に直通する階段が2以上設けられていない階で、収容人員が10人以上のもの避難器具の設置の有無については、階を単位とし、その階の用途と収容人員により判定する。
なお、避難階と、11階以上の階については避難器具の設置は不要ですが、地階の場合は(地上へ避難が必要なため)避難器具の設置基準の対象となります。
収容人員からみた設置基準
① 収容人員10人以上
・ 一階段のみの防火対象物で3階以上の階、ただし(2)項キャバレー等、(3)項飲食店等は2階も対象(第5号)
・ (5)項ホテル等、(6)項病院等の地階・2階以上の階で下階に(1)~(4)項、(9)項、(12)項イ、(13)項イ、(14)項、(15)項がある階(第1号、第2号)
② 収容人員20人以上
・ (6)項病院・保育所等の地階・2階以上の階で、上記①以外のもの(第1号)
③ 収容人員30人以上
・ (5)項ホテル・共同住宅等の地階・2階以上の階で、上記①以外のもの(第2号)
④ 収容人員50人以上
・ (1)~(4)項、(7)~(11)項の地階・2階(耐火建築物の場合は3階)以上の階(第3号)
⑤ 収容人員100人以上
・ (12)項工場等、(15)項その他事務所等の地階・3階以上の無窓階(第4号)
⑥収容人員150人以上
・ (12)項工場等、(15)項その他事務所等の3階以上の有窓階(第4号)
※ 収容人員の定義については施行令第1条の2第3項第1号イに、具体的な算定方法については施行規則第1条の3を参照のこと。
また、消防法第25条の別項では以下のような設置に関する情報が記されています。すべてを記載するのは難しいので詳しい設置基準、防火対象物についてはこちらのサイトもご参照ください。
一般的な避難はしごの使い方と注意点
マンションなどに設置されているハッチ用はしごの使い方や注意点を確認しましょう。
避難はしごの使い方
避難はしごの使い方は簡単で、3ステップで避難用のはしごを出すことができます。
①蓋をあける:避難はしごは蓋をして床下に収納されているので、まずは蓋を開けましょう。蓋にはロックがかかっているので少ししか開きません。5センチほど空けたらロックを解除できる場所があるので探し、外してください。
②蓋を固定する:ロックを外したら、蓋を全開にできます。蓋が固定されるまで開けないと危険なので、必ず固定されるところまで開けるようにしてください。避難はしごは下にも蓋がありますが、下の蓋は上の蓋と連動して開くので特に気にしなくて問題ありません。
③はしごを降ろす:はしごにはストッパーがかかっていますが、手や足で押すことではしごが下に降ります。押す場所は蓋などの説明書きに記載されているので、確認しましょう。はしごを降ろす際は、必ず下の階を見たり、声をかけたりして人がいないかを確認してから降ろすようにしてください。
はしごを降ろしたら、しっかりとつかまり下の階に降ります。緊急時は慌ててしまいがちですが、焦らずゆっくりと、1人ずつ降りるようにしてください。
避難はしごの取り扱いで注意したいポイント
避難はしごを使用する際はもちろん、日頃の扱いで注意したい点を確認しましょう。
・ベランダで洗濯物を干したりお子さまを遊ばせたりする際は、避難はしごの蓋の上には乗らない
・非常時以外は蓋をあけない
・蓋の上、周辺にはものを置かない
・自室の上に避難はしごがある場合、下に障害物がないように注意する
・避難時は脱げにくい靴で降りるとよいので、ベランダに避難用のスニーカーなどを用意しておく
注意!避難はしごで本当にあった事故
今回メインでご紹介した避難はしごだけでなく、避難器具にはさまざまなものがあります。避難はしごははしご状なので、比較的安全に避難できるアイテムだといえますが、階下に人がいるのに気づかずに降ろしてケガをしてしまった、降りるときに慌てていて下の階のベランダに落ちてしまったといった事故も少なくありません。
また、小学校などに設置してあるような救助袋は、袋の中でバランスを崩して地面に勢いよく落下して負傷してしまった、救助袋内で足を引っかけてしまい捻挫をしてしまった、という事故も起こっています。
非常時に安全に避難するためのアイテムで怪我をしてしまっては意味がありません。日頃から避難器具の安全点検を行ったり使用方法を確認したりして、いざというときに正しく使用できるようにしていきましょう。
正しい知識を持って避難はしごを使おう
マンションに住んでいる方、高層ビルなどでお仕事をしている方は日頃からどこに避難はしごがあるのかをチェックし、万一の場合に安全に避難できるよう心に留めておくことが大切です。
はしごの種類や使い方などを理解し、正しい知識を持って避難はしごを活用しましょう。