災害用語を解説する、今回のテーマは「テックフォース(TEC-FORCE)」。
テックフォースは「緊急災害対策派遣隊」ともよばれており、被害状況の把握やインフラを整備して救命活動・生活再建の土台をつくるプロ集団です。
災害時には地震で道路が陥没したり水害による浸水・停電や二次災害のおそれなど、生活を根底でささえているあらゆるものがダメージをうけます。
今回は、被災地で活動するテックフォース(緊急災害対策派遣隊)について、過去の災害における事例を紹介しながら解説します。
テックフォース(緊急災害対策派遣隊)とは
インフラを整備して被災者支援の基盤をつくる
テックフォースは英語で「Technical Emergency Control FORCE」となり、「緊急災害対策派遣隊」と訳されています。
国土交通省が管轄しており同省のウェブマガジン「Grasp」では、テックフォースについて次のように説明しています。
地震や水害、土砂災害の発生時に、救助部隊が被災地に向かうための緊急輸送ルートの確保や浸水解消のための排水作業、二次災害防止のための調査等を行う専門家集団
国土交通省:Grasp 寡黙なヒーロー fire 001「TEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)」より引用 ※太字は筆者加筆
道路や水など“生活になくてはならないもの”を「インフラ」と言いますが、テックフォースは被災状況の把握にはじまり、災害によってダメージをうけたインフラをととのえるのです。
メンバーは地方整備局の職員が8割
国土交通省の資料によると、テックフォースの隊員は全国に16,186人(令和5年4月時点)いるとされています。その8割は地方整備局の職員ですが、気象庁や運輸局などに属している人もいます。
地方整備局とは国土交通省の出先機関として、道路や河川・ダムや空港などの管理・整備などをおこなうところです。
全国に8ブロック(東北・関東・北陸・中部・近畿・中国・四国・九州)の整備局があり、ふだんはそれぞれの業務に従事しながらテックフォースとしての訓練に参加します。
そして、災害発生時には被災地からの要請をうけて隊員が派遣されるのです。
テックフォースの活動内容
テックフォースの主な役割は「被災状況の把握」「被害拡大防止」そして「被災地への技術的支援」です。隊員は民間企業と連携しながらこれらにとりくみます。
ここでは、より具体的にイメージできるようテックフォースの5つの活動についてお伝えします。
【参考文献】国土交通省 TEC-FORCE:活動実績「保有する災害対策用機材」
防災へりによる被害状況の把握
「どこまでどのような被害が及んでいるのか把握するため、ヘリコプターやドローンを用いた調査をおこないます。被災状況の把握は二次災害防止にもつながる重要な活動です。
国土交通省では9台のヘリコプターを保有しています。
衛星通信車による情報共有・通信回線の確保
ヘリコプターや監視カメラなどで把握できた被災現場の映像は、「通信衛星車」や「Ku-sat」とよばれる小型衛星画像伝送装置によって、自治体とリアルタイムで共有します。また、被災地の断絶した通信回線の確保もおこないます。
自治体の支援ニーズの把握
テックフォースでは被災自治体からの要請に応じて「リエゾン」を派遣します。リエゾンは「情報連絡員」であり、被害状況や自治体の支援ニーズなどを聞き取り、どのような支援が必要なのか把握し、活動が展開されるのです。
排水ポンプ車による排水
国土交通省では合計405台の排水ポンプ車があり、堤防が決壊した河川や内陸におしよせた津波の排水活動をおこないます。
後述のとおり、大災害時には各地から排水ポンプ車が集結し、被災地域の復興に貢献するのです。
道路などインフラの被害状況調査
被災地で救命救助活動をおこなうには輸送ルートの確保が不可欠です。テックフォースは道路をはじめ、ダムなどの治水施設や鉄道といった「インフラの被害状況」を調査します。そして被害の解消にむけ民間企業と連携してとりくむのです。
このように、テックフォースは被災状況の迅速な把握にはじまり、自治体の支援ニーズの把握、そして救命救助活動に欠かせない道路や浸水地域の排水といったインフラ整備をおこないます。
テックフォースの活動事例
テックフォースは2008年(平成20年)4月に発足しましたが、それ以前は災害発生後に体制をととのえていたため、時間を要したのです。
これまでに133の災害(令和5年3月末時点)で活動してきたテックフォースですが、ここではそのなかから、派遣のべ人数が多かった「3つの災害」の活動事例をご紹介します。
【参考文献】国土交通省 TEC-FORCE「主な災害への派遣実績」
東日本大震災|発生翌日には約400人が全国から集結
東日本大震災(2011年3月11日発生)では津波で多くの人が亡くなり、また福島第一原子力発電所事故による県内外への避難指示がだされました。
この災害には発生当日に60名、翌日には約400名ものテックフォースが被災地に集結し、1日あたり最大約520人・のべ18,115人が活動したのです。
津波は沿岸部だけでなく内陸にも押し寄せ、テックフォースは排水ポンプ車をもちいて行方不明者捜索の基盤をととのえました。また、通信衛星車でインターネット回線を確保するなど、各地でさまざまな支援活動をおこなったのです。
【参考文献】国土交通省|平成23年3月 東日本大震災への派遣
令和元年東日本台風|派遣のべ人数は最多の3万人
令和元年東日本台風は、2019年10月6日に発生した台風第19号とその後の大雨によって、河川の氾濫や土砂崩れが発生・堤防が決壊した河川は140箇所にもおよんだのです。
この災害には、派遣のべ人数が過去最大となる30,513人のテックフォースが派遣されました。
そして、防災ヘリによる浸水状況やドローンを活用した崩落箇所の調査が迅速におなわれ、さらに最大時には約200台の排水ポンプ車が24時間体制での排水活動を展開したのです。
【参考文献】国土交通省|TEC-FOPCEの派遣実績・令和元年東日本台風への派遣
平成30年7月豪雨|1200ヘクタールの水を3日で排水
平成30年7月豪雨は、前線や台風の影響によって2018年6月28日から約10日間、西日本を中心に大きな被害をもたらしました。1府10県に特別警報が発表され、最大で約8万戸が停電・115路線が運休し、激甚災害(※本サイト内関連記事)に指定されたのです。
この災害にはテックフォースのべ11,673人が派遣されています。
たとえば岡山県倉敷市真備町では、全国から集結した排水ポンプ車23台が24時間体制で稼働し「1200ヘクタールの浸水を3日間で排水」したとされています。この水量は25メートルプール(25m×11m)43,200個分にもなるのです。
さらに、二次災害防止のためドローンをつかった被害状況調査や、道路などに堆積した土砂やがれき撤去の支援などをおこないました。
【参考文献】国土交通省|平成30年7月豪雨への派遣
被災地を支えるテックフォース~隊員へのインタビュー
大災害にあうと目の前の惨劇に気力を失い、途方もなく感じられることでしょう。
しかし、大災害が発生した被災地では私たちの命と生活再建の基盤をつくるために、かならずテックフォースが活動しているのです。
国土交通省のサイトには「TEC-FORCE 隊員インタビュー」があり、「ドローン調査」「排水ポンプ車の運用」「砂防・道路の技術支援」を担当している4名の隊員が、リアルな声を発信しています。
動画には「役割・経験編(約4分30秒)」と「日頃の心がけ編(約3分30秒)」があります。また、1人ひとりのPDF版では「TEC-FORCEとはひと言で何ですか?」の問いに応えており、テックフォースがいかに被災地を支えているのかがよくわかります。
ぜひご覧になってみてはいかがでしょう。
【参考サイト】
*国土交通省|TEC-FORCE(緊急災害対策派遣対)
*国土交通省|緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)
*内閣府|平成30年7月豪雨の概要
(以上)