避難スイッチをいれて命をまもる行動をスタート~2つの実践事例~ 

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災害用語を解説する、今回のテーマは「避難スイッチ」。これは専門家が提唱する、避難行動につながる要因をしめした言葉です。

災害の危険がせまったとき、市町村からだされる“避難指示”も、避難スイッチの1つです。

しかし、避難スイッチはこれだけではありません。地域住民で共有されている「避難スイッチ」があったことで、市町村から避難指示がでるまえに住民が避難し、命をまもった事例があるのです。

そこで今回は、避難スイッチになりえる3つの要因と2つのとりくみ事例をおつたえします。

避難スイッチとはなにかを知ることで、「いつ避難したらいいだろう・・・」という迷いを解消するヒントがみつかるでしょう。

目次

避難スイッチを入れて“避難すべきタイミング”をのがさない!

では、はじめに避難スイッチとはなにか?についてくわしく解説します。

逃げおくれることがないようしっかり確認しておきましょう。

避難につながる3つの判断材料

避難スイッチとは矢守克也氏(京都大学防災研究所教授)たち専門家が提唱する考え方で、「避難開始のスイッチ」つまり「避難につながる判断材料」を、1人ひとりがあらかじめもっておきましょうというものです。

その判断材料になり得るものとして、次の3点をあげています。

3つの避難スイッチ
(避難につながる判断材料)

1.避難にかんする情報
2.身近な異変
3.人からの呼びかけ

それぞれくわしく解説します。

避難にかんする情報|大雨警報・避難指示など

もっとも身近な避難スイッチは、“大雨警報”のように天気予報でつたえられる「気象データ」や、“警戒レベル3(高齢者等避難)”のような市町村がだす「避難情報」です。

わたしたちはこれらの情報をテレビやスマホのアプリから容易に入手でき、「いつ避難したらよいのか」を判断する重要な要因になっています。

そして、これらの情報にくわえて知っておきたいのが「その場所にあるリスク」、つまりハザードマップで災害リスクを把握しておくことです。 

平成30年西日本豪雨では、ハザードマップで浸水想定区域となっている、かつ実際に被害がおおきかった地域においても「ここは大丈夫だろう」と思い避難しなかった住民もいたといいます。

災害がおきるまえの段階でリスクがわかる「ハザードマップ」をもとに、実際に災害発生のおそれがあるときにだされる「避難情報」。この両方をセットで「避難スイッチ」にすることで、スムーズな避難行動につながりやすくなるでしょう。

身近なところにある異変|先人からの言い伝え・まえぶれ

このように市町村がだす避難情報は避難のベースとなるものですが、過去の災害では避難情報がでるまえに避難をはじめたことで、住民の命がまもられた事例もあります

それが、避難スイッチ2つ目の要因となる「身近な異変」です。

過去に自然災害による被害をくりかえしうけてきた地域では、先人からの言い伝えが語りつがれたり、書物にのこされていることがあります。

また、土砂崩れのまえぶれとなる地鳴りや独特のにおいなどは、その近くに住んでいる住民が真っ先に知ることとなるでしょう。

こうした点から、気象データではつたえられない「身近にあるものの異変」こそが避難スイッチとなるのです。

川の岩がかくれたら危険

実際「川にある岩」にみられた異変をもとに素早い避難をおこない、地域住民の命がまもられた事例があります。

それは、2017年九州北部豪雨で土石流が発生した大分県日田市上宮町(ひたし じょうぐうまち)です。

当時の自治会長は「気象データ」で1時間後の雨量を確認するとともに、祖父母からきいていた「川にある2メートルの岩が隠れたら危険」という言葉をもとに様子を注視しつづけました。

その後、岩が隠れたことで自治体が避難情報をだすまえに住民へ避難をよびかけたのです。

人からのよびかけ|思いこみによる「まだ大丈夫」は危険

災害発生のリスクが高まるなか、避難情報がだされていても「まだ大丈夫」と自己判断してしまうことがあります。

このような状態は「正常性バイアス」とよばれ、目のまえの出来事にバイアス(先入観・偏見)をかけ、正常の範囲内だと思い込む心理です。

そのようなとき、人から避難をよびかけられて「避難スイッチ」が入ることがあります。

過去の災害では『大丈夫と思って自宅にいたが、顔なじみの人からよびかけられて避難した』という住民もいます。

人間には正常性バイアスがはたらくことを前提として、“避難スイッチとしての声がけ”を地域のなかで仕組み化することも大切なのでしょう。

また、正常性バイアスをふせぐには避難訓練をくりかえして「災害時にとるべき行動」を身につけることや、遠方に住む家族や知人から避難をうながす(=逃げなきゃコール)方法などがあげられます。

関連記事
正常性バイアス|命の危険が迫っているのに避難しない心理

避難スイッチとりくみ事例➀ 京都府福知山市 

ここからは「避難スイッチ」を地域で共有のとりくみとしている2つの事例をご紹介します。

まずは、災害救助法が適用になるほどの洪水被害に、何度もおそわれてきたという京都府福知山市のとりくみをおつたえします。

避難指示はでていたが避難者は10%

京都府福知山市は「平成30年7月豪雨」において、全壊14戸・半壊40戸・床上浸水414戸という被害が発生しています。

この災害では、住民の9割が避難勧告(避難指示)が出ていることを知っていたものの、実際に避難できたのは1割程だったのです。

また、当時の避難情報には避難勧告と避難指示があり「避難のタイミングがわからなかった」という指摘もありました(2021年5月20日から避難指示に一本化)。 

このような状況のなか、福知山市では合計5回(令和元年11月から令和3年2月まで)の検討会をひらき、避難の在り方について議論を重ねたのです。

浸水センサーが検知したらLINEに通知

福知山市では、避難スイッチとなりえる情報を「ローカルエリアリスク情報」として住民に周知し、気象データや市の避難情報をおぎなうものとして位置づけています。

たとえば、蓼原(たでわら)地区では水位計や浸水センサーのデータを地域内で共有する仕組みが整っており、センサーが検知するとLINEで通知がとどくのです。

このLINEには、子育て世代も加入しているだけでなく、自主防災組織が各世帯の状況を把握することで、共働き家庭における子どもの避難につなげているのです。

地区外の人もLINE加入で「逃げなきゃコール」

このLINEグループには遠方にすむ人も加入しており、地区内でくらす親族へ避難をうながす役割も担っています。

つまり、災害発生のおそれがあるとして避難スイッチが入ったとき「まだ大丈夫」と考える人にたいして、遠方の家族が「避難をよびかける」のです。

このようなとりくみは「逃げなきゃコール」とよばれています。

関連記事
「逃げなきゃコール」は避難をうながし大切な人の命を守る取り組み

このように福知山市では自主防災組織と手をとりあい、浸水センサーで「身近な異変」を地区内で共有する仕組みをととのえ、さらにLINEを活用した「よびかけ」によって、住民みずからが避難スイッチをいれられるようになっているのです。

避難スイッチとりくみ事例➁ 宝塚市川面地区

兵庫県宝塚市にある川面地区は、武庫川沿いに約18,000人が生活しており、過去たびたび浸水被害にあってきたといいます。

現在、川面地区自主防災会では、住民に避難スイッチを入れてもらうため、次のようなとり組みをおこなっています。

防災・生活情報がわかる「ポータルサイト開設」

川面自主防災会では独自に防災情報をあつめたポータルサイト(川面地区自主防災会)を開設しています。

ここでは、気象情報が一目でわかるようトップページに気象庁サイトをのせ、避難スイッチをいれる基本となる「避難にかんする情報」がすぐ入手できるようになっています。

ほかにも「災害情報」「地域の防災」「生活情報」「周りの様子」があり、それぞれくわしく知ることができるのです。

川のライブ映像で「身近な異変」を知る

たとえば、「周りの様子」には、兵庫県河川監視システムの情報をもとにした、周囲の川の様子をライブカメラでみたり、状況におうじて水位を知ることもできます

避難指示は市によって発令されますが、それまでには各地の状況把握などで時間を要することもあります。

しかし、あらかじめ川の様子を把握し、かつどのような状況になったら危険なのかを知っておくことで、市の避難指示を待たずとも自分たちで避難スイッチを入れることができるのです。

その他「生活情報」には鉄道の運行状況「地域の防災」では防災マップを見ることもでき、まさに災害から身をまもるために必要なあらゆる情報が集まっています。

避難スイッチは地域や職場で共有して命をまもろう

出典:政府広報オンライン:「警戒レベル4」で危険な場所から全員避難!5段階の「警戒レベル」を確認しましょう

防災対策には自助・共助・公助があり、災害から“自分の命”をまもることを「自助」と言います。

災害に備えると聞くと、食料などの“備蓄”をまっ先にイメージする方もいるかもしれませんが、命あってこその避難生活です。

命をまもるためには災害リスクから逃げなければいけません。

そのために必要なものが、気象データや避難情報をはじめとする避難スイッチです。

さらに、その土地の災害リスクを知りつつ、川の水位変化といった「身近な異変」も知っておくことで、よりスムーズに避難スイッチをいれることができるでしょう。

そして、それらは住んでいる地域や職場の人同士で共有し、共にたすけあう・避難をよびかけることで「共助」にもなります。

ぜひ、命をまもるためにできることの1つとして「自分(たち)の避難スイッチ」をもってみませんか?

【参考文献】 
*NHK明日をまもるナビ「これまで大丈夫だった」は通じない!水害から命を守る「避難スイッチ」
*MBC南日本放送【防災 私の提言】京大・矢守教授「自分の避難スイッチを」
*近畿地方整備局:近畿地方流域治水シンポジウム資料「被災経験を踏まえた福知山市の避難のあり方」京都府福知山市
*第2回福知山市避難のあり方推進シンポジウム「いのちをまもる避難スイッチ 福知山市の事例から」矢守克也/京都大学防災研究所
*PR TIMES「内水氾濫や道路冠水による浸水をいち早く検知し、LINE通知するとともに、地図上で浸水地点を見える化する、安価な「浸水検知センサ」を京都府福知山市が正式導入!!」
*NHK解説委員室「『避難スイッチ』で防災行動を」(時論公論)
川面地区自主防災会ポータルサイト

(以上)

備えておこう!おすすめの防災グッズ

これから用意しようと思っている方におすすめなのが「Defend Future」の防災士が監修した防災グッズ。自分でリュックに詰められるようになっていたり、簡単に手に入りやすい紙皿などは除いているなど、個人が防災にきちんと向き合えるようになっています。

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この記事を書いた人

東北出身&在住フリーライター。
広告代理店・NPO・行政で勤務後、在宅ワーカーに転身。
妊娠中に東日本大震災に遭い、津波から避難・仮設住宅で子育てをする。
本サイトでは「命を守るために知っておきたいこと」「日常に潜むリスクへの備え」などについて発信します。
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