正常性バイアス|命の危険が迫っているのに避難しない心理

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正常性バイアスとは、私たちに自然と備わっている心の働きです。日常生活においては心を守るべく「良い働き」をしますが、災害時などの危機的状況下では「悪い働き」となり、適切な避難行動を妨げる要因になってしまいます

今回は、事例とともに「正常性バイアスとは何か」を解説し、「正常性バイアスによる犠牲を生まないためにできること」をお伝えします。

『なぜ逃げなかったんだ..』と悲しまないよう、そして大切な人を悲しませないためにも「正常性バイアス」について学んでみませんか。

目次

日常生活での正常性バイアス|過度にストレスを感じないために必要なもの

正常性バイアスとは、予期してない出来事や目の前の危険に対し「自分なら大丈夫」「そんなことあり得ない」という先入観・偏見(=バイアス)によって正常の範囲内だと思い込む心の働きのことです。

私たちの日常生活では、思いもよらないことが起きたり危険な状況を目の当たりにすることもあります。正常性バイアスは、それらを過度にストレスと感じず平穏に過ごしていくことができるよう、人間に備わっているものとされています。

たとえば、車を運転中に他の車が交通事故を起こしているのを目撃したとき、運転が「怖い」と感じることはないでしょうか。もし「自分も事故を起こすかもしれない」という恐怖に苛まれて適切な判断ができなくなってしまっては、自分も事故を起こしてしまうかもしれず大変危険です。
そうならないために「自分は大丈夫」と思うことで冷静さを保ち、安全に運転することが可能となるでしょう。

正常性バイアスは無意識レベルでも働き、私たちが安定した気持ちで日常生活を送るためには、必要な心の働きなのです。

災害時の正常性バイアス|危機的状況下でも避難できなくなってしまう思い込み

日常生活においては、私たちを守るために働く正常性バイアスですが、反対に災害などの危機的状況下にあっては、悪い方向へと働いてしまうことがあります。

つまり、避難すべき状況にも関わらず、正常性バイアスによって「このままで大丈夫」「これ以上悪くなるはずがない」といった思い込みが生じてしまうのです。そして最悪の場合、避難することなく命を落としてしまいます。

この点について、災害・リスク心理学を専門とする広瀬弘忠氏が代表を務める「株式会社 安全・安心研究センター」のホームページには、次のように記されています。

少々の異常を正常の範囲として認識することで、心的な安定を保つメカニズムを「正常性バイアス」と呼ぶ。

災害時に避難を促される状況下で、逃げ遅れて被害をこうむる最大の理由である。我々がおちいりやすい認知的な罠である。

株式会社 安全・安心研究センターより

「認知的な罠」という言葉のとおり、正常性バイアスは客観的に見ると、あり得ない状況を生み出してしまうのです。過去の事例から見てみましょう。

煙が立ちこめるなか座り続ける乗客たち

2003年(平成15年)2月8日、韓国テグ市の地下鉄車両で放火による火災が発生しました。プラットフォームで起きたこの火災は、反対側に入ってきた電車にも飛び火し、200名近くが死亡しました。

被害が拡大した背景には、乗務員が適切な対応をおこなわなかったという人為的ミスもあるものの、煙が立ち込めた車内における乗客の行動も要因になったとされています。

実は、死亡した方の3分の2以上が、火災が発生した電車ではなく、反対側の電車の乗客でした。この電車内を映した写真には、煙のなかパニックになる乗客の姿ではなく、シートに座ったままの乗客の姿が映っていたのです。なかには、携帯電話を操作している姿もあったといいます。

もし、どんどんと煙が立ちこめていく車内の様子を、私たちがテレビ画面を通して見ていたとしたら「何で逃げないの?」と不思議に思うのではないでしょうか。

このように、危機的状況下であっても正常性バイアスが働くことで、避難すべきときに避難できないということが起きてしまうのです。

同調性バイアス|みんなが逃げていないから大丈夫と思ってしまう心理

正常性バイアスと似た言葉に「同調性バイアス」があります。これは、集団のなかで他の人と同じ行動を取ろうとする心の働きのことです。日常生活であれば、集団の団結だったり規律を乱さないために必要なものかもしれません。

しかし、危機的状況下では「みんなが逃げていないから大丈夫だろう」という、勝手な思い込みにつながりかねないのです。

先ほどの火災が発生した韓国の電車内でも、もし、誰かが避難行動を始めていたら、それに続いて避難する姿があったかもしれません。

この「避難している姿を見て避難した」という事例を一つご紹介しましょう。

2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災において、被害を受けた地域の一つに、岩手県釜石市があります。当時、海の近くに建つ中学校の生徒たちが、自ら避難行動を起こしたことがマスコミで大きく取り上げられました。

ここで防災教育をおこなってきた片田敏孝氏(東京大学大学院情報学環特任教授)は、「率先避難者たれ」と訴えてきました。つまり「まずは自分が避難する」ことの重要性を説いているのです。

そして実際に、必死に避難する中学生の様子を目撃した住民たちが、その後を追うように避難したと言われています。

正常性バイアスによる犠牲を生まないためにできること

危機的状況下にもかかわらず、「大したことない」といった正常性バイアスで命を失うことがないよう、私たちにできることを3点お伝えします。

➀災害について正しく理解する

1点目は、災害について正しい知識を得ておくことです。
そこで役に立つのが、気象庁「防災教育に使える副教材・副読本ポータル」です。

ここではリーフレットや動画・用語解説など、防災について学ぶためのツールがたくさん掲載されています。防災教育となっていますが、学校現場だけでなく町内会や各種サークルなど、あらゆる現場においても使うことができる教材です。

たとえば、気象台等のコンテンツをまとめて紹介している部分では、
*対象年齢(幼稚園児~一般)
*知りたい現象(気象・地震津波・火山等)
*ツールの形態(リーフレット・動画・ワークシート等)
*作成者(気象庁・日本赤十字社・教育委員会等)
それぞれ選択することで、簡単に教材を見つけることができるようになっています。

災害について正しく学ぶことができるツールがたくさんあります。ぜひ一度、チャックしてみてはいかがでしょうか。

➁あらゆる場面を想定した避難訓練の実施

2点目は、定期的に避難訓練をおこなう(参加する)ことです。日頃の訓練を通して、危機的状況下において取るべき避難行動を体感し、いざという時に動けるようしておくことが必要です。

正常性バイアスによって、避難すべき時でも行動できなくなるのは、自然災害に限ったことではありません。そのため訓練では、火災の発生場所が近くの建物だったらどうするか、地域で不審者による犯罪が発生したらどうするかなど、さまざまな緊急事態を想定して訓練することも必要です。

正常性バイアスは「予期しない事態」に陥ったときに働くことを忘れずに、避難訓練を計画・実施し、参加するようにしましょう。

③「逃げなきゃコール」で遠方の家族に避難を促す

3点目は、国土交通省が2019年(令和元年)5月から進めている「逃げなきゃコール」の活用です。これは、あらかじめ防災情報アプリに離れて暮らす家族等の地域を登録しておき、その地域に災害情報が通知された場合に、避難を呼びかけるというものです。

2018年(平成30年)6月28日の西日本豪雨では、危険がある地域に避難情報が出されていたものの、河川の氾濫やがけ崩れにより死者223名・行方不明者8名という甚大な被害が発生しました。

「まだ大丈夫」といった正常性バイアスが危機的状況下で働いてしまうことを考えると、客観的に状況を見ることができる場所にいる家族が、避難を促すことは有効と言えるでしょう。

まとめ

日常生活においては、私たちの心を守る正常性バイアス。ですが、危機的状況下であっても「この程度なら大丈夫」「自分には関係ない」といった思い込みにつながる危険があります。

災害時に危険をしっかり認知し適切な避難行動を取ることができるよう、このような思い込みが生じてしまうことを念頭に置いて、日々災害について学び・備えていくことが必要です。

【参考文献】

株式会社 安全・安心研究センターhttps://anasrc.com/

日本赤十字社:知ってほしい! 避難の妨げになる「正常性バイアス・同調性バイアス」https://www.jrc.or.jp/about/publication/news/20210901_020612.html

一般社団法人 消防防災科学センター「東日本大震災関連調査(平成25年度)編」https://www.isad.or.jp/information_provision/information_provision/h25/
第4章資料編「大災害時の避難行動」 東京女子大学名誉教授 広瀬 弘忠https://www.isad.or.jp/pdf/information_provision/information_provision/h25/higashinihon25_4-2-4c.pdf

特定非営利活動法人 失敗学会「大邸の地下鉄火災」http://www.shippai.org/fkd/cf/CD0000145.html

気象庁「防災教育に使える副教材・副読本ポータル」https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/fukukyouzai/index.html

住民自らの行動に結びつく水害・土砂災害ハザード・リスク情報共有プロジェクト:登録型のプッシュ型メールシステムによる高齢者避難支援 「逃げなきゃコール」https://www.mlit.go.jp/river/risp/policy/33nigecall.html

(以上)

備えておこう!おすすめの防災グッズ

これから用意しようと思っている方におすすめなのが「Defend Future」の防災士が監修した防災グッズ。自分でリュックに詰められるようになっていたり、簡単に手に入りやすい紙皿などは除いているなど、個人が防災にきちんと向き合えるようになっています。

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この記事を書いた人

東北出身&在住フリーライター。
広告代理店・NPO・行政で勤務後、在宅ワーカーに転身。
妊娠中に東日本大震災に遭い、津波から避難・仮設住宅で子育てをする。
本サイトでは「命を守るために知っておきたいこと」「日常に潜むリスクへの備え」などについて発信します。
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