ライターの永野です!
匂いや音、季節などで「昔を思い出す」ということは誰にでもあるのではないでしょうか。
私が4月に思い出すのは、大学に入学した年の春。18年育った実家を離れ、東京で1人暮らしを始めた2007年の春の記憶が、気温や匂いで昨日のことのように蘇ります。
そういうよい思い出もあれば、もちろん「いやなことを思い出させるもの」も存在するわけで…。某アーティストのヒット曲を聴くと「元彼に借りたCDで、別れたタイミングで聞いて大号泣した」というどうしようもない記憶が呼び起こされます(中学生の頃の話です)。
思い出したくない過去が、体調やメンタルに影響することはありますが、それが強くなると、治療などが必要になることも。こうした強いトラウマが起因するものの1つに、「地震恐怖症」があります。ちなみに地震恐怖症は多筋地震を経験していなくても起こる可能性があるので、誰しも注意が必要です。
今回は、「地震恐怖症」の原因や対処法などをまとめました。正しい知識と治療法で、症状緩和を目指しましょう。
地震恐怖症とは、「地震への不安が心身に影響を与える」もの
まずは、地震恐怖症がどういったものなのかを解説します。「地震恐怖症」という名前からだいたい想像がつくでしょうが、地震による不安・恐怖が心身に影響を与えるものです。詳しい症状を、見ていきましょう。
地震恐怖症とは
地震恐怖症は、いわゆる不安障害の一種で、神経症です。地震に対して強い不安や恐怖を覚えることで、心や体に不調を来すことをいいます。
地震恐怖症は女性が発症するケースが多く、男女比はおよそ1対2です。もちろん男性も発症する可能性はありますので、心当たりがあれば「自分は大丈夫」だと思わず、適切な対処をする必要があります。
地震恐怖症の症状
地震恐怖症は精神、そして身体にさまざまな症状を引き起こすものです。代表的な症状でいうと、動悸や息切れ、呼吸困難、めまい、胸の痛み、冷や汗、吐き気などが挙げられます。軽い症状のように思われますが、こうした身体の不調が続けば、日常生活を送ることすら困難になることもあるため、あなどってはいけません。
精神面に見られる症状には、1人でいると不安で仕方がない、夜眠れない、地震が起こったときに強い恐怖心からパニック状態になる、地震が起こっていないのに揺れを感じるといったものがあります。
地震恐怖症が悪化すると、うつ病などを引き起こすことも。少しでも症状を感じたら、早めに対処することをおすすめします。
地震恐怖症になる原因
地震恐怖症というと、「地震に遭ったトラウマが引き起こすもの」だという印象を覚える方も多いでしょう。しかし、地震恐怖症は、実際に大きな地震を経験していない人もなることがあるのです。地震恐怖症になる原因は、大きく3つ挙げられます。
過去の経験によるトラウマ
被災経験がある方が地震恐怖症を発症する場合、原因はやはり「大震災のときのトラウマ」でしょう。震災で大切な人を失った、津波による被害を目撃した、長時間閉じ込められるなど強い不安にかられる経験をしたという方は、こうした過去がトラウマとなり、時間が経っても心の傷となることがあります。
地震に関する情報や映像の影響
実際に被災して惨状を目の当たりにしていない方も、地震恐怖症になることがあります。ニュースや動画サイトなどでは、震災の状況を映像で伝えますが、この映像などが地震への恐怖心を煽り、地震恐怖症の原因となってしまうのです。
ほかにも防災施設のシミュレーション映像などがトラウマになり、地震恐怖症を引き起こすケース、緊急地震速報の音が恐怖心を煽り、不安が大きくなり地震恐怖症となることもあります。「これくらい大丈夫だろう」と思う人がいても、感じ方は人それぞれです。何が引き金になるのかわからないのも、難しいところでしょう。
その他のストレスや不安から発症することも
地震とは無関係な日常のなかでのストレスや不安を抱えている方が、地震恐怖症を発症するケースもあります。映像を見たり実際に震災を経験したりしていなくても、そのほかの部分で抱えているストレスが、気づかないうちに地震への不安に変わり、地震恐怖症になるのです。
こうした発症の仕方でも、小さな地震が起こると冷や汗が出て何日も不安で眠れなくなってしまう、東日本大震災が起こった日が近づくと胸がざわついて複雑な気持ちが続いてしまうなど、さまざまな症状が現われることがあるため、注意しましょう。
「地震恐怖症かな」と感じたら
地震恐怖症かどうかは、自分で判断することが難しい部分もあります。多かれ少なかれ、人は災害に対して恐怖を抱いているため、地震の映像を思い出して複雑な心境に陥ったり、ちょっと揺れたあとにまだ揺れを感じる、ドキドキして寝付けないといったこともあるかもしれません。
しかし、「これくらい大丈夫だろう」と思って放っておくのは危険です。気がついていないだけで、地震恐怖症の心身への影響が深刻で、何かを引き金に大きな不調を来すこともあります。少しでも「地震恐怖症かもしれない」と思ったら、どのように対処すればよいのでしょうか。
医療機関で診断を受ける
地震恐怖症かなと思ったら、まずは医療機関を受診しましょう。心療内科や精神科に行くと、話を聞いて診断をしてくれます。精神の不調は風邪や怪我などとは異なり、目に見えないものです。
診断も難しい部分がありますが、医師から「特に問題ない」といわれて安心感から症状が改善することもあるでしょう。診断に納得がいかなければセカンドオピニオンという方法をとることもできますし、診断が下れば受け入れて、適切な治療を受けることも可能です。
症状によっては別の疾患がないかも診断する
医療機関を受診したら、地震恐怖症かどうかと同時に、うつ病や睡眠障害などほかの精神的な症状があるかどうか調べてもらいましょう。地震恐怖症からこうした症状を発症しているケースもありますし、そもそも地震恐怖症ではないがうつや不眠の傾向があるということもあります。
症状によって治療の内容や薬なども異なりますので、正しい判断を下してもらえるよう、どういった部分で不調があるかどうかをしっかりと伝えましょう。
カウンセリングや投薬による治療を行う
地震恐怖症だと診断されたら、心理療法士のカウンセリングを受けて心のケアをしたり、投薬治療で心身の不調を整えたりします。カウンセリングは自分が何に悩んでいるか、どういった疾患を抱えているかを理解し、受け入れる役割を持つ行為です。カウンセリングのみで症状が改善するケースもあり、これは女性に多い傾向です。
投薬治療は抗不安薬や抗うつ剤を用いて行い、脳内のセロトニン分泌を整えることで、気持ちを落ち着け不調の改善を図ります。
地震恐怖症は自力で克服できる?
「地震恐怖症かもしれないけど、病院に行くほど支障がない」と思っている方もいるでしょうが、地震恐怖症を自力で乗り越えることはできるのでしょうか。前述の通り、精神の不調は目に見えるものではないので、改善が見られないなら医療機関の受診をおすすめします。
しかし、ちょっとした生活のなかでの工夫などが、地震への不安や恐怖を和らげてくれることもありますので、できることを実践してみるのも1つの方法です。
地震への正しい知識や理解を持つ
漠然と「地震は恐ろしい災害だ」と思っていると、映像などの情報からより恐怖を煽られて地震恐怖症の発症・悪化が見られることもあります。地震に対して正しい知識や理解を持つと、漠然とした不安は改善できるでしょう。
たとえば地震のメカニズムを把握することも大切ですし、揺れのあとにはどういった二次災害に注意する必要があるかなどの知識も、持っていると不安解消に役立ちます。
地震が起こったときの行動を把握しておく
地震が起こったときの行動をわかっていないのも、不安を大きくする原因です。「机の下に隠れる」「頭を守る」「避難所への経路はこう」など、地震が起こったときに自分がどのように行動するのかを理解していれば、漠然と「地震で死ぬかも」という気持ちになることは少ないでしょう。
地震をはじめ、さまざまな災害が起こったときの行動を家族や会社・学校の人たちと話し合って決めておくのも安心材料となり、不安を和らげてくれます。
日常的な「備え」でちょっとした安心感を
前述の2つは「知識」の備えですが、地震が起こったときに身一つで崩壊した街に投げ出されたらと思うと、これも不安につながります。こうした不安を解消するためには、「モノ」の備えも日頃からきちんと行うことが大切です。
備蓄や避難所へ持っていく防災バッグの用意はもちろん、学校や職場、外出先にいるときに地震が起こった場合も想定し、バッグのなかに防災ポーチなどを入れておいても、ちょっとした安心感を得られるでしょう。
知識を持って行動を少し変えるだけでも、意識が変わって地震恐怖症のような症状から解放されることはあります。まずはできることを実践してみて、それでも不安が解消されない、不調の悪化が見られる場合は、迷わず医療機関へ足を運んでください。
地震恐怖症緩和のために、できることからはじめよう
地震恐怖症は、震災を経験した方をはじめ、誰にでも発症の可能性がある症状です。軽い症状で済む方もいれば、生活がままならないくらいの心身の不調に悩まされる方もいます。
地震恐怖症は軽視してはいけない症状ですが、ちょっとした学びや備えで、意識が変わって改善することもあるので、もしものときに役立つという観点からも、ぜひできることから備えを実践してみてくださいね。
編集後記
地震恐怖症という言葉を聞いて、私も最初は「震災のトラウマを抱えた人がなるもの」だと思っていました。しかし、映像を見ただけでもなるということを知り、自分や家族も発症の可能性があるということに、少し驚いています。
東京で、アパートがバラバラになるのではないかというくらいの揺れに恐怖を覚え、テレビで流れる津波の映像に驚愕した12年前。あのときの感覚は忘れてはいませんが、不安で眠れない、不調があるということはありません。
PMSだったり寝不足だったり子育てが難しかったり、日々悩みや心身の不調につながることは何かしらあるものの、「食べたら幸せ」「寝ればすっきり」と睡眠欲と食欲にすぐ救われる私は多分大きな苦労やショックもなく生きてきて、心も体も健康なんだろうなぁと思います。
それでも誰かの繊細さに寄り添える人でありたいし、こういう症状があることを理解しながら、子どもたちと防災について考えていかなければなと、考え直す機会にもなったのでした。
参考サイト
・Wikipedia「地震恐怖症」
・ホスピタ「地震恐怖症」
・「地震が不安で眠れない」「3.11が近付くと憂鬱」 被災していないのに、私って変?