保育園や幼稚園のあいだは園バスや保護者の送迎があり、子どもだけでどこかへ行くという機会はありません。しかし、小学校へ上がると子どもたちだけで徒歩で登下校するようになり、学年が上がるほど、行動範囲は広がります。
保護者の目が行き届かない場所では、交通事故をはじめとしたトラブルに巻き込まれることが心配です。トラブルの1つに「連れ去り」がありますが、「連れ去り」について筆者の住む岐阜県では「セーフティファイブ」という標語で、小さな頃から熱心に指導を行っています。
今回は、そんな「セーフティファイブ」についてご紹介します。
「セーフティファイブ」とは岐阜県の連れ去り防止標語
「セーフティファイブ」は、岐阜県警察が連れ去り防止のために定めた標語です。犯罪抑止のための対策は多々行われていますが、その1つとして岐阜県警察には「幼児等連れ去り事案未然防止教育班『たんぽぽ』」というものが存在します。
『たんぽぽ』は、岐阜県警察本部生活安全部少年課の、地域安全巡回指導教育専門職からなる専門チームです。県内の保育園や幼稚園、小学校で不審者に対する危機察知能力、危険回避能力向上の教育を実施しており、令和3年には計292回、およそ26,000人に対して教育を行いました。
当たり前のように「いかのおすし」的な全国共通の標語だと思っていましたが、筆者も最近になって県内独自のものだと知りました。子どもたちが毎年指導を受け「セーフティファイブ」と連呼しているのでメジャーなものだと思っていただけに、非常に驚いています。
「セーフティファイブ」で決められた5つの約束
「セーフティファイブ」はその名の通り、「安全のための5つの約束」です。子どもたちが連れ去りに遭わないよう、大切な約束を5つの簡単な言葉でわかりやすく覚えられるようになっています。約束の内容を1つずつ見ていきましょう。
①ひとりにならない
②ついていかない
③おおごえをだす
④ちかづかない
⑤はなしをする
①ひとりにならない
登下校や外出の際は、1人で行動してはいけません。必ずおうちの人や友達と一緒にいるようにしましょう。
②ついていかない
知人による連れ去りもゼロとはいえません。たとえ知っている人でも、おうちの人以外にはついていかないようにします。
③おおごえをだす
もし連れ去りに遭いそうになったら、すぐにその場から逃げます。このとき、大きな声や音を出して助けを求めましょう。
④ちかづかない
知らない人、知らない車などには近づきません。車に連れ込まれる、手を引っ張られるといったことにならないよう、怪しい人や車からは離れましょう。
⑤はなしをする
もし怪しい人がいた、危険な目に遭いそうになったときは、おうちの人や先生に話をします。情報を共有することで、自分自身はもちろん、お友達も危険から守ることができます。
セーフティファイブを含めた10のバリア
連れ去りは、大人といるときよりも子どもだけのとき、複数よりも1人でいるときがねらわれやすいです。「セーフティファイブ」の約束のなかにも「ひとりにならない」というものがありますが、前述の約束を含む、自分を守るための「10のバリア」についても岐阜県警察は呼びかけています。その内容を見てみましょう。
・おうちの人や友だちと一緒にいるよ
・おうちの人じゃないからついていかないよ
・はや足で歩くよ
・まわりをよく見るよ
・つかまらないようにはなれるよ
・まわりの音をよく聞くよ
・「おうちの人にだめって言われています」と言えるよ
・ぼうはんブザーで大きな音を出せるよ
・大きな声であいさつするよ
・たすけてくれる人がどこにいるか知ってるよ
不審者への対応はもちろん、防犯ブザーや挨拶で地域住民に助けを求める、助けてもらえる環境を日ごろから作ることも大切です。また、最後の項目については「子ども110番の家」を指しています。通学路にある「子ども110番の家」についても、日ごろから確認するようにしましょう。
連れ去り防止のために保護者が知っておくこと
「セーフティファイブ」で子どもたちは、危険から身を守るための行動を小さなころから学んでいます。しかし、年に1回、多くても2~3回のこうした防犯指導だけでは、子どもの防犯意識を養うことはできません。
子どもの連れ去り防止の意識を高めるには、保護者の意識をまず高めることが重要です。子どもの安全を守るために、保護者が知っておくこと、指導することは何でしょうか。
子どもに言い聞かせること
まずは連れ去り防止のために必要なことを、日ごろから子どもに言い聞かせましょう。岐阜県の場合、「セーフティファイブ」に関する指導が頻繁に実施されますので、学校や保育園からの配布物を見たら、子どもに声をかけることから始めるのがおすすめです。
自宅でも5つの約束が頭に入っているか、いざというときにどう行動するのかを一緒に確認します。配布物を目に入るところに掲示するなどして、定期的にセーフティファイブの内容をチェックするとよいでしょう。
他地域の方は、「セーフティファイブ」のような標語があればそれに沿って指導を行う、ない場合は「セーフティファイブ」のようなわかりやすい標語をもとに、自宅で子どもの年齢に合わせたわかりやすい指導を行ってください。
行動範囲を確認すること
学校からの登下校は行き先が明確ですが、子どもだけで遊びに行く場合、誰とどこへ行くのかがよくわからない、ということもあります。年齢が上がるにつれ、どこへ行くのか、誰と遊ぶのかなどを話したがらなくなりますが、小学生のあいだは子どもだけで外出する際、行き先と帰宅時間を確認してから送り出すようにしましょう。
また、子どもが普段どんな場所で遊んでいるのか、よく行くお友達の家はどのあたりにあるのか把握しておくこと、その付近の声かけや不審者の出没情報も知っておくことで、子どもを危険から遠ざけることもできます。遊び場付近、道中の「子ども110番の家」の場所を教えることも忘れてはいけません。
子どもだけで遊ばせないこと
小学3,4年生くらいまでの子どもは、子どもだけで遊ばせず保護者が見守りましょう。友達同士で遊ぶ場合は保護者同士で連絡を取り合い、交互に見守るなどすると、保護者間のトラブルも避けられます。
明るいうちに帰ることや安全な道を通ることなどは、自分の子どもはもちろん、友達にも呼びかけ、可能であれば自宅付近まで送ってあげると安全です。自分が付き添えない日にも、同じように我が子を自宅まで送ってもらうことができれば、安心でしょう。
また、子どもが1人、もしくはきょうだいで公園などで遊びたいといった場合にも、小学校のうちは必ず付き添うようにしてください。
地域ぐるみで見守ること
保護者がいくら心配をしたり注意をしたりしていても、子どものことを四六時中見ていられるわけではありません。登下校中など、子どもだけでいる際に万一不審者に遭遇したら、近くにいる大人に助けを求める必要があります。
そのためにも、地域ぐるみでの見守りは必須です。日ごろからコミュニケーションを取ったり子どもに挨拶をさせたりすることで、子どもが地域の方に見守ってもらえる確率は上がります。
また、保護者自身も地域を見守る一員として、我が子だけでなく多くの子どもに目を配ることを忘れないようにしましょう。
緊急事態にはすぐ110番通報!
連れ去りの現場や不審者に遭遇した場合には、すぐに近くの人に大声で知らせ、同時に110番通報をします。もし子どもが車に乗せられてしまった場合は、車のナンバーや不審者の人相などをメモし、いちはやく子どもを助けられるよう協力してください。
連れ去りだけでなく、子どもへのつきまといや声かけ、わいせつな行為、盗撮なども犯罪です。見かけた場合はすぐに110番通報し、子どもを被害から守りましょう。
学校などでの「セーフティファイブ」に関する指導事例
前述の通り、「セーフティファイブ」は子どもが連れ去りから自身を守るための合言葉です。筆者の息子たちも、保育園や幼稚園、小学校で「セーフティファイブ」について毎年学んでいます。
長男の保育園、幼稚園時代には「今日セーフティファイブやったよ!」と、下の写真のようなハンカチを持って帰ってきていました。これは今のところ、次男も保育園で毎年頂いており、我が家には計5枚のセーフティファイブハンカチがあります。
パトカーのイラストのなかに、子どもも読めるひらがなで書かれた5つの約束。乗り物好きの次男はもちろん、長男もなぜか気に入って、「今日セーフティファイブ持ってく~」とこのハンカチをよく選んでいました。
小学校では今のところ、セーフティファイブに関する指導は行われていないようですが、入学式の資料のなかにも、夏休み前の配布物のなかにも、保護者向けのチラシが入っていました。
この「防災新聞」での執筆を通し、子どもの防犯についても考える機会が増えており、我が家でも小学1年生の長男に、ことあるごとに交通安全や連れ去りなどの指導を行っています。子どもでも見やすいチラシは、自宅での指導にも最適です。
こちらのチラシは岐阜県警察のホームページよりダウンロードできますので、小さな子どもをお持ちの保護者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
自治体ごとの指導や約束を把握し、家庭でも指導を
今回は、岐阜県の連れ去り防止標語「セーフティファイブ」についてご紹介しました。子どもも覚えやすい5つの約束で、より安全な登下校、楽しい遊びの時間が過ごせたらよいですね。
子どもを持つ親にとっては、防災はもちろん、防犯や子どもの病気や事故などへの対策や対処を知ることも重要です。今後も、保護者の皆様に少しでも役立つ情報をお届けしていきたいとおもいます。