3.11に学ぶ|命を守る避難訓練の内容に!大切なポイントを解説

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今回は、2011年3月11日東日本大震災による津波・火災によって、お子さんを亡くされた佐藤美香さん(以下、佐藤さん)にお話をうかがいました。

佐藤さんの長女、愛梨ちゃん(当時6歳)は、高台にある私立幼稚園に通っていました。愛梨ちゃんは「乗るはずではなかった」送迎バスに乗せられて津波にあい、その後に発生した火災により車内で亡くなりました。

佐藤さんのお話からは「避難訓練マニュアルの存在」「幼稚園と保育所における避難訓練内容のちがい」など、避難訓練に関するいくつかの課題がみえてきます。

これらの課題をもとに【避難訓練の内容を考える際のポイント】をお伝えします。ぜひ心にとめていただき、“命を守るための避難訓練”に生かしてほしいと思います。

目次

東日本大震災ご遺族のお話から知る避難訓練の課題

佐藤さんのお話からみえてきた避難訓練の課題は、主に次の3点です。
➀幼稚園の避難訓練は年2回で良しとされている(保育所は毎月)
➁避難訓練マニュアルを職員は見たことがない
③避難訓練の内容をチェックする第三者がいない

「こんなことは考えられない」「うちの避難訓練にもあてはまる」といった方も、いらっしゃるかもしれませんね。

それでは早速、佐藤さんのお話をもとに具体的にお伝えしましょう。

避難訓練はなぜする?“年2回”と“毎月”の差がもたらすもの

避難訓練とは「災害が発生している状況から安全なところへ避難する」ための訓練です。言い換えるなら『命を守るための訓練』と言えるでしょう。

保育所は幼稚園より10回以上多く避難訓練がおこなわれている

命を守るためにおこなう避難訓練ですが、幼稚園と保育所とでは法的根拠の違いによって、実に年10回もの差が生じています。

幼稚園の避難訓練は消防法の適用を受け、企業やお店と同様に“年2回”でよいとされています

愛梨ちゃんが通っていた幼稚園でも、避難訓練は“年2回”ありましたが、1回は火事を想定していたため、地震については“1回”だけでした。

一方、保育所は消防法だけでなく、児童福祉法の適用も受けます。それは、児童福祉法(45条)および、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(6条2項)であり、要約すると「保育所は、条例にしたがい、毎月1回は避難・消火訓練をしなければならない」とされているのです。

●佐藤さんのお話
毎月するのと年2回だけの避難訓練とでは、先生方の防災に対する「日々の意識」も変わってくるのではないでしょうか。
災害時にどう行動するか、子どもたちには繰り返し教えることが大切です。
幼稚園か保育所かによって、その機会が異なるのではなく、幼稚園でも保育所のように“毎月するのがあたり前”になってほしい。保育所を利用したくても入れず、仕方なく幼稚園に通っている子もいるのです。

もちろん、幼稚園でも毎月おこなっているところもあるでしょう。たとえば、東京都では、都内の公立幼稚園に対しては、“年11回”の避難訓練を教育課程に位置付けています(参考元:東京都教育委員会「避難訓練の手引き」)。

避難訓練の大事さを頭でわかっていても「避難訓練のための時間がとれない」「とりえあえず決められた回数だけやっておく」といったことはないでしょうか。
避難訓練の内容を考える際には「なぜ避難訓練が必要なのか」今一度、掘り下げてみることも必要です。

この点を考えるにあたっては、ここからお伝えするポイントも参考にしてみてください。

災害時には正しい判断ができなくなる危険性も

災害という異常事態下にあって、人は正しい判断がとれなくなることがあります。

それは、正常性バイアスとよばれるものです。命に危険が迫るほどの状況にも関わらず、正常性を保とうとする心の働きによって「まだこれくらいは大丈夫」といった誤った認識に陥るのです。

正常性バイアスを防ぐには「あらゆる場面を想定した」避難訓練を実施することが重要とされています。

災害には地震・台風・土砂崩れといった種類があるのはもちろん、シフト制の施設では時間帯によって対応できる職員の数も変わってくるでしょう。また、小さいお子さんや環境の変化に弱い方などは、災害発生時に予想しない行動をしたりパニックをおこす可能性もあります。

これらをふまえると、法律で義務づけられた回数をこなすだけの避難訓練では、決して十分とは言えないのではないでしょうか? 

【避難訓練の内容を考える際のポイント】
避難訓練を「防災に対する意識を高める機会」と捉え、避難訓練を重ねることでしか身につかない「災害に対応する力」があることを念頭におきましょう。

避難訓練マニュアルは参加者と共有~ただの紙切れにしない

愛梨ちゃんが通う幼稚園の避難訓練マニュアルでは、災害時には「保護者のお迎えをまって引き渡す」とされていました。

しかし、実際には「早く親元に帰さなければ」という認識のもと、愛梨ちゃんたちは園のバスに乗せられたのです。

『避難訓練マニュアルがあること自体、先生方は知りませんでした』と佐藤さんは話します。避難訓練マニュアルは書庫の中にしまわれたままであり、先生方に共有されることがなかったのです。

●佐藤さんのお話
避難訓練マニュアルは、作っただけでは「ただの紙切れ」になってしまいます。共有し実行されなければいけません。
幼稚園の避難訓練は「地震がきたら机の下に潜る」だけの内容だったそうです。教室から園庭に移動することも、ましてや保護者が子どもを幼稚園にお迎えに行く「引き渡し訓練」もありませんでした。

【避難訓練の内容を考える際のポイント】
避難訓練マニュアルをもとに、災害時には「誰がどう行動するのか」を全員でチェックする。そのうえで、避難訓練の内容に課題や反省点があれば、それを次の訓練に生かしていきましょう。

ふだんの訓練内容がいざという時の行動につながる

佐藤さんには『それがすべてを物語っていたのかな』と感じる、幼稚園の対応があったと言います。

●佐藤さんのお話
前震といわれる3月9日。たまたま下の子の行事があって、何組かの親子が園にいました。地震が発生し、園から言われた言葉は「何がおこるかわからないから帰ってください」でした。親たちは「幼稚園のほうが(高台にあるから)安全なのにね」と話していました。
※このとき気象庁は、地震発生から3分後に津波注意報を発表しています。

佐藤さんのお話からは「ふだんの対応が大災害時の行動につながっている」ことを思い知らされます。

また、東日本大震災を経験した方のなかには「避難訓練でやっていたことしか災害時には行動できない」と話す方もいます。

【避難訓練の内容を考える際のポイント】
「ふだんの訓練内容が大災害時の行動につながっている」ことを意識しましょう。また、施設の利用者だけでなく、保護者・家族・出入り業者など、施設に関係する人たちも参加する内容を盛り込むことも重要です。

避難訓練の内容に第三者の視点は入っているか

愛梨ちゃんたちが亡くなった状況について、佐藤さんは『幼稚園から納得できる説明はなかった』と話します。そのため、自分たちで情報収集しなければなりませんでした

●佐藤さん
はじめは市に電話をしたのですが「管轄外なので県に」と言われました。県にかけましたが「私立幼稚園を指導監督する権限はない」と言われたのです。私学の独立性が重んじられており「ずさんな運営をしていてもわからない」のだと思いました。
私立には公立のような職員の入れ替わりがありません。そのため、ほかの視点が入らず、おかしい状況もそのままになってしまうと感じます。

公立施設にはある“行政の目”が、私立にはありません。もちろん、私立であっても適切な運営とチェック体制がはたらいているところはあるでしょう。ですが、公立施設と同じチェック体制はないという点においては、公立施設以外では“意図的に第三者のチェックを受ける機会の確保”が必要なのかもしれません。 

【避難訓練の内容を考える際には】
消防署などの行政機関・防災士など第三者のアドバイスを取り入れる、という視点を大事にしましょう。

避難訓練マニュアルは絶対とは限らない~訓練をくり返して改善する

一般社団法人スマートサプライビジョン(以下、同団体)は2021年2月、学校の先生方を対象としたアンケートを実施しました。その結果「学校管理下で災害が発生した場合、児童・生徒全員を守る自信は?」との問いに、約7割の先生が「ない」と回答したと言います。

同団体のサイトには、児童74人が津波の犠牲になった大川小(宮城県石巻市)に関連して、次のような記載があります。

◆先生は「偶然そこに居合わせた大人」ではない、ならばどうしたらいいのか
大川小津波裁判の判決では、教職員には「安全確保義務」があり、実効性ある対策を求めると示されましたが、現場が「心配ではあるが特に何もしていない」「防災どころではない」現状では、首都直下地震や南海トラフ大地震など、大災害に遭遇すればまた同じ「悲劇」「想定外」の繰り返しになることは想像に難くありません。

一般社団法人スマートサプライビジョン「学校防災アップデート大作戦!」より引用

ここに書かれていることは、学校に限ったことではなく、企業や地域にとっても同様ではないでしょうか

避難訓練に限らず「マニュアル」とされるものには、時代や環境の変化にともない見直しが求められるでしょう。命を守る避難訓練ならなおさら「繰り返しおこない、課題を見つけ、マニュアルを見直していく」ことが必要です。

最後にもう一度、佐藤さんのお話からみえた避難訓練の課題をお伝えします。
➀幼稚園の避難訓練は年2回で良しとされている(保育所は毎月)
➁避難訓練マニュアルを職員は見たことがない
③避難訓練の内容をチェックする第三者がいない

これら3点のなかに、これから計画(または参加)する避難訓練にあてはまるものはないでしょうか。

東日本大震災でおきたことををふまえ、一人ひとりが「自分事」として、避難訓練を考えていただけることを願っています。

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【参考文献】

文部科学省「学校防災マニュアル(地震・津波災害)作成の手引き」https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/anzen/__icsFiles/afieldfile/2018/12/04/1323513_01.pdf

経済産業省「想定外から子どもを守る  保育施設のための防災ハンドブック (認可保育所、認定こども園、幼稚園、認可外保育所対象)」https://www.city.chiba.jp/kodomomirai/kodomomirai/kikaku/documents/handbook2_002.pdf

一般社団法人スマートサプライビジョン:学校防災アップデート大作戦!「あの日」の教えを 明日のいのちを守る学びに
https://smart-supply.org/projects/gud

YAHOO!ニュース(仙台放送):学校防災アップデート大作戦 大川小と釜石東中に学ぶ学校防災 東日本大震災特別企画「ともに」前編

YAHOO!ニュース(仙台放送):学校防災アップデート大作戦 涌谷高校の“備え” 東日本大震災特別企画「ともに」後編

(以上)

備えておこう!おすすめの防災グッズ

これから用意しようと思っている方におすすめなのが「Defend Future」の防災士が監修した防災グッズ。自分でリュックに詰められるようになっていたり、簡単に手に入りやすい紙皿などは除いているなど、個人が防災にきちんと向き合えるようになっています。

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この記事を書いた人

東北出身&在住フリーライター。
広告代理店・NPO・行政で勤務後、在宅ワーカーに転身。
妊娠中に東日本大震災に遭い、津波から避難・仮設住宅で子育てをする。
本サイトでは「命を守るために知っておきたいこと」「日常に潜むリスクへの備え」などについて発信します。
詳しいプロフィールはこちら

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