2023年2月にトルコ・シリア地震が発生したあと、それ以前に見られたある雲が「地震の前兆だったのでは?」とする投稿がインターネット上に掲載されました。
その雲とは「レンズ雲」です。
その特徴的な形そして太陽の光で赤く色づいた状態が不気味に感じるほどであり、それゆえそのような騒動につながったのかもしれません。
そこで今回は「レンズ雲とはどのような雲なのか?」そして、地震の前兆を意味してつかわれる「地震雲」についてお伝えします。
さらに、レンズ雲のほかにもある珍しい形状の雲もご紹介するので、レンズ雲と地震の関係に不安がある方はもちろん、雲の種類に興味がある方もぜひ最後までご一読ください。
レンズ雲はどんな雲?写真で見てみよう
はじめに、レンズ雲がどのような雲なのか確認しましょう。
「つるし雲」ともよばれる
レンズ雲は、その名のとおり『凸レンズのような形の雲※』であり、上空の風が強い日に山の近くで出現することが多いといいます。※コトバンク|レンズ雲より引用
上空を流れ動くほかの雲とは異なり、同じ位置にとどまり“つるされている”ようにも見えることから「つるし雲」ともよばれるようです。
また、雲は高さに応じて、高いほうから巻積雲(けんせきうん)・高積雲・層積雲と3つに分類されますが、レンズ雲はどの高さにもあらわれます。
では、いくつかのレンズ雲を写真で見てみましょう。
山梨県富士河口湖町
こちらは、2023年10月20日に山梨県富士河口湖町で見られたレンズ雲です。
レンズ雲は風が吹いていく方向(風下:かざしも)に出るとされており、上の写真では風向きが赤い矢印で示されていますね。
そして、レンズ雲が見られたときは天気が下り坂、つまり『晴れから曇り、または曇りから雨(雪)に変わる天気の傾向※』があります。*気象庁|天気とその変化に関する用語「天気が下り坂」より引用
長野県東御市(とうみし)
次の写真は、さきほどと同じ日に長野県東御市(とうみし)にあらわれたレンズ雲です。
こちらは渦を巻いているようにみえ、一見すると太い竜巻かと思うほどではないでしょうか。
このように、レンズ雲の形状はわたしたちが一般的に見かける雲とは異なった特徴をもっています。
そして、その特徴ゆえにレンズ雲が地震の前兆(地震雲)であるかのように捉えられてしまうことがあるのです。
レンズ雲は地震の前兆ではない
ここからは、地震の前兆を意味してつかわれる「地震雲」についてみていきましょう。
トルコ大地震前に見られたレンズ雲
はじめに、レンズ雲が地震雲として騒がれた事例を紹介します。
その事例とは、トルコ・シリア地震(2023年2月6日発生・マグニチュード7.8)の前にトルコで撮影されたレンズ雲の存在です。
上の写真がそのレンズ雲で、NHKの記事によるとこれは同年1月19日に撮影されたました。
特徴あるレンズ雲の形状にくわえて、太陽の光によって“赤く色づいた状態”が不気味な印象をもたらし、そのような騒動につながったのかもしれません。
しかし、レンズ雲は地震の前兆でなく、すでにお伝えしたとおり条件が整えば日常的に見られる雲なのです。
地震雲について気象庁の見解
地震雲については、気象庁のホームページでも解説されています。
ここでは、下記の関連記事でも取りあげた地震雲に対する気象庁の見解を再掲します。
まず「地震雲はあるのですか?」という問いに対する気象庁の回答です。
雲は大気の現象であり、地震は大地の現象で、両者は全く別の現象です。大気は地形の影響を受けますが、地震の影響を受ける科学的なメカニズムは説明できていません。
「地震雲」が無いと言いきるのは難しいですが、仮に「地震雲」があるとしても、「地震雲」とはどのような雲で、地震とどのような関係で現れるのか、科学的な説明がなされていない状態です。
気象庁|地震余地について「地震雲はあるのですか?」より引用 ※太字は筆者加筆
さらに、気象庁気象研究所の荒木健太郎主任研究官は、次のように述べています。
世間一般で地震雲として騒がれている雲は,実は日常的によくある雲で,全て気象学で説明できる雲です。
地震雲なるものはまず定義が曖昧ですが,地震の前兆として現れる雲とするのであれば,「地震雲はあるのかないのか」という問いに対して答えるのなら,科学に中立な立場からは「地震雲は存在が証明されていない」という説明が正確です。
気象庁気象研究所 台風・災害気象研究部 第二研究室 :一般向け情報 荒木健太郎|「地震雲」を不安に思われている方へ」より引用 ※太字は筆者加筆
つまり、気象庁では、地震雲とよばれてしまう雲の存在は『科学的な説明がなされていない状態』であり、しかもそのような雲は『日常的によくある雲』だとしているのです。
レンズ雲のほかにもある不思議な形の雲
不思議な形状の雲はレンズ雲だけではありません。
ここでは特徴的な形の雲を2つご紹介しましょう。
穴あき雲|雲の専門家が動画で解説
モコモコした雲が空一面に広がるなか、真ん中に穴があいたように見える部分があります。
これが「穴あき雲」で、いわし雲やひつじ雲がでているときにおきやすい現象のようです。
どのようにおきるのか詳しい説明はここでは省略しますが、ひとつ専門家の動画をご紹介しましょう。
この動画(3分23秒)では、気象庁の荒木健太郎主任研究官が写真やイラストをもとに「穴あき雲」の仕組みを解説しています。興味のある方はぜひご覧になってみてはいかがでしょう。
かなとこ雲|アニメ映画にも登場
こちらの写真では、上にむかってのびる雲が、ある部分でまるで天井にぶつかったかのように横に広がっています。
アニメ映画にも登場したこの雲は、その形状が金属を加工するときにつかわれる作業台「かなとこ(金床)」に似ていることから「かなとこ雲」とつけられたようです。
夏によく見られる積乱雲の一種ですが、かなとこ雲があらわれると激しい雨風や雷などをもたらすとされているため、見かけたときは天候の変化に注意しましょう。
【参考文献】
ALL Aboutニュース|「かなとこ雲」が出現したら要注意! 見逃してはいけないゲリラ豪雨の“予兆”【気象予報士が解説】
まとめ|災害への備えを点検しよう
今回は地震の前兆として取りあげられてしまうことがある「レンズ雲(つるし雲)」についてお伝えしました。
主な点を簡単にまとめます。
レンズ雲について
- 地震の前兆ではなく、条件がそろえば日常的に見られる雲
- 上空の風が強い日に山の近くで出現することが多い
地震雲について
- 地震雲の存在は科学的に証明されていない
- これまで地震雲だとして投稿された雲は『日常的によくある雲』
地震はいつおこるかわからないからこそ、日常的に備えておくことが必要です。
もしも空を見て雲や空の様子に不安を感じたときは、地震雲だと慌てるのではなく、災害への備えを点検する機会と捉えてみてはいかがでしょう。
本サイトにはあらゆる災害やその備えについて取りあげています。ぜひご活用いただけると幸いです。
【参考文献】
*ウエザーニュース|関東の空に浮かぶレンズ雲 強風の影響で発生
*ウエザーニュース|各地で巨大な“つるし雲”が出現 富士山や八ヶ岳連峰の風下に浮かぶ
*NHK|“地震雲”に“人工地震” 「いいえ、違います」
*日本赤十字社|2023年トルコ・シリア地震救護
(以上)