秋晴れの日はすがすがしい気持ちになり、ふだんはあまり意識しない空をじっくり見渡すことはないでしょうか?
そのようなとき、あまり見かけない空の色や雲をみつけると、何だかソワソワと落ち着かない気持ちになるものです。
そして「これって地震の前兆?」といった不安につながることも。このような雲はときに「地震雲」として、インターネット上にその画像がアップされることもあります。
そこで今回は「地震雲」とは存在するのか?そして、地震雲を見て不安になったらどうすればいいのか?についてお伝えします。
さらに、東日本大震災前に筆者が見た空模様とその後の体験もご紹介するので、ぜひ最後までご一読ください。
地震雲とはどんな雲?
はじめに「地震雲」という雲が存在するのか、確認しましょう。
地震雲は正式な雲の分類には存在しない
わたしたちが見かける雲は、発生する高さによって3種類(高層雲・中層雲・下層雲)あり、こまかくみると10種類に分類できます。
そのなかに「地震雲」というものは存在しません。つまり、地震雲とは正式な雲の分類による名称ではないのです。
まずはこの点を念頭においておきましょう。
地震の前兆と思われてしまう雲
では、いったいどのような雲が地震雲と呼ばれているのでしょう。
インターネット上で地震雲が取りあげられる場合、それは“地震の前触れとして出る雲”を意味しているようです。
そしてその雲は、目撃者が「どこか不気味と感じる雲」であったり「普段あまり見かけない雲」だったりします。
この「いつもとは違う雲」が「いつもとは違うことが起こるかも知れない」という不安につながり、“地震の前兆”とむすびついてしまうのかもしれません。
とくに、そのような雲が大きな地震の前に出現していると「あれが地震雲だったのか」などと、騒がれることもあるようです。
地震雲はあると認識していた人
実はかつて、地震雲という言葉をつくりだしその存在を社会に広めた人物がいたといいます。
それは、政治家として奈良市長もつとめた鍵田忠三郎氏(以下、鎌田氏)です。
鎌田氏は地震を予知・的中させたとして、1980年にはその経験を記した書物を発行しています。
しかし、気象庁はその科学的根拠を否定する見解を新聞紙上で発表したのです。
【参考文献】日本地質学会「地震雲についての雑感」石渡 明(東北大学東北アジア研究センター)
気象庁の見解「存在が証明されていない」
では現在、気象庁は地震雲に対して、どのような見解を示しているのでしょう。
次の説明は「地震雲はあるのですか?」という問いに対する気象庁の回答です。
雲は大気の現象であり、地震は大地の現象で、両者は全く別の現象です。大気は地形の影響を受けますが、地震の影響を受ける科学的なメカニズムは説明できていません。
「地震雲」が無いと言いきるのは難しいですが、仮に「地震雲」があるとしても、「地震雲」とはどのような雲で、地震とどのような関係で現れるのか、科学的な説明がなされていない状態です。
気象庁|地震余地について「地震雲はあるのですか?」より引用 ※太字は筆者加筆
さらに、気象庁気象研究所の荒木健太郎主任研究官は、次のように述べています。
世間一般で地震雲として騒がれている雲は,実は日常的によくある雲で,全て気象学で説明できる雲です。
地震雲なるものはまず定義が曖昧ですが,地震の前兆として現れる雲とするのであれば,「地震雲はあるのかないのか」という問いに対して答えるのなら,科学に中立な立場からは「地震雲は存在が証明されていない」という説明が正確です。
気象庁気象研究所 台風・災害気象研究部 第二研究室 :一般向け情報 荒木健太郎|「地震雲」を不安に思われている方へ」より引用 ※太字は筆者加筆
つまり、気象庁では、地震雲とよばれてしまう雲の存在は『科学的な説明がなされていない状態』であり、しかもそのような雲は『日常的によくある雲』だとしているのです。
地震雲(?)を見たが地震はおきなかった
ここで、この気象庁の見解を読んで思いだした筆者の体験談を紹介させていただきます。
それは、東日本大震災(2011/平成23年3月11日発生)の発生前後に関する出来事です。
東日本大震災の数日前の空模様
東日本大震災がおきて何日か過ぎたころ、知人がこう話したのです。「震災の前の空の様子が、いつもと違っていたんだよねえ・・・」と。
知人が言うその空とは、うろこ雲のような雲がちらばっていて夕方前でも赤みがかっていたというのです。
それを聞くまで、筆者はそのような空模様を意識したことはありませんでした。
しかし、言われてみるとなんとなく「あの空だったのかな?」と思うようになったのです。
本当に「あまり見かけない空模様」なのか?
それ以降、筆者が空を見上げたとき、同じような空模様を見ることがありました。
今となれば、そのような雲はありえるし、夕方前という時間の間隔も人によって違うのかも、と思うことができます。しかし当時は「それまで意識していなかっただけで、本当はこんなにも地震雲が出ていたの?」と不思議にさえ思ったのです。
そして「また大きな地震がくるかも」と不安にさえ感じました。
しかし、幸いなことに、いずれの日も大きな地震はおきませんでした。
地震はいつおこるかわからない
この経験をつうじて筆者は、つくづく空や雲にはさまざまな色・形があり、ときに不気味にさえ感じるものもあると気づいたのです。
また、そのような雲をみたとしても地震を警戒するのは一定期間であり、むしろ意識していないときに突然、地震がおこることもありました。
これは、言うまでもなく当然のことです。
「いつ地震がおこるかわからない」からこそ、備えることが大切だと実感した出来事でもありました。
地震雲の不安は備えに生かす
ここまで、気象庁の見解と筆者の体験をお伝えしました。
しかし、地震雲が『日常的によくある雲』だと聞いても、いつもと違う空や雲の様子に不安を感じる方がいるかもしれませんね。
そのような不安はそのままにせず、災害への備えに生かしてはどうでしょう。
ここでは、災害への備えとしてできる2つのことをお伝えします。
どこに逃げれば安全?
まずは、その場所にあるリスクと安全な(避難)場所を把握しておきましょう。
たとえば、自宅であれば倒れてきて圧死や飛んできてケガのリスクがあるものは対策をとっているでしょうか?
さらに、職場・スーパー・病院など日常的によく行く場所には土砂崩れや津波被害の危険性はないでしょうか?
室内の安全を見直すとともに、市町村が発行するハザードマップや防災のお知らせなどでチェックしてみましょう。
また、学校の体育館のような“避難所”だけでなく、近くの公園などの“避難場所”をチェックするのもよいですね。
大切な人との連絡手段は?
地震がきたら各自で身の安全を守る行動をとることになります。
地震の発生した時間帯によっては、家族が別々の場所に避難していることも十分にあり得るのです。
災害時には普段のようには連絡がとれなくなります。
そのため、WEB171や災害用伝言板といった災害時に役立つツールの使い方を知っておくことが大切です。
いざというときに使い方がわからず、いつまでも不安な気持ちをもつことがないよう、あらかじめチェックしておきましょう。
地震から命を守る術を身につけよう
今回は「地震雲」についてお伝えしました。
命を危険にさらす出来事の発生を、あらかじめ予知できるのであれば、わたしたちは多少なりとも安心できるでしょう。
ですが「なぜ安心できるのか?」と考えてみると、それはその出来事がおきても命を守る術を知っている、もしくは対策がとれているからではないでしょうか。
そのため、地震雲という存在に不安を感じたときは「地震はいつでも起こり得る」という“事実”にむきあい、備えに生かしていただけると幸いです。
【参考文献】
*気象庁|地震余地について「地震雲はあるのですか?」
*気象庁気象研究所 台風・災害気象研究部 第二研究室 :荒木健太郎|「地震雲」を不安に思われている方へ
*日本地質学会|地震雲についての雑感:石渡 明(東北大学東北アジア研究センター)
*日本気象協会|【十種雲形】雲は全部で10種類 見分け方を形や高さから解説!~上層雲編~
(以上)