プッシュ型支援とは国が被災地へ「一方的に」物資をおくること

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災害用語を解説する、今回のテーマは「プッシュ型支援」。

プッシュ型支援とは、ひと言で言うと「被災地にいち早く物資をとどけるしくみ」のことで、東日本大震災(2011年3月11日発生)の教訓をもとに、翌年の法改正※災害対策基本法によって新たにもうけられました。

プッシュ型支援にはある大きな特徴があります。

本記事では「プッシュ型支援とはなにか」を確認したのち、被災地に対する「物資支援の課題」そして「その解決にむけたとりくみ」についておつたえします。 

災害時に被災者の命をまもり、不安解消にもつながる物資支援のとりくみについて、今こそしっかり学びましょう。

目次

プッシュ型支援とは 

プッシュ型支援の大きな特徴、それは国が「一方的に」物資を被災地におくることです。

どういうことか詳しく解説します。

被災地の要請をまたずして物資をとどける

プッシュ型支援とは「災害発生時、被災自治体からの要請を待たずに、被災地へ物資をとどける支援のしくみ」です。

災害発生直後には自治体が状況を把握するまで時間を要したり、民間の物資供給能力も低下します。

このような状況のなか、プッシュ型支援は災害発生直後における緊急措置としておこなわれるのです。

「基本8品目」は食料・トイレ関係・毛布

内閣府のホームページには、プッシュ型支援「基本8品目の例」として、次の品目があげられています。

プッシュ型支援「基本8品目の例」

・食料
・乳児用粉ミルク又は乳児用液体ミルク
・乳児・小児用おむつ
・大人用おむつ
・携帯トイレ、簡易トイレ
・トイレットペーパー
・生理用品
・毛布 

大きく分けると「食料・トイレ関係・毛布」になりますね。

しかし、プッシュ型支援で届けられる物資はこれらにかぎりません。避難所を中心としたその後の避難生活に必要なものも送られるのです。

「令和2年7月豪雨」におけるプッシュ型支援

たとえば、近年では「令和2年7月豪雨」のとき、プッシュ型支援として次の物資(※食料・トイレ関係をのぞく)が熊本県にとどけられました。

「令和2年7月豪雨」におけるプッシュ型支援品目(一例)※食料・トイレ関係以外

・段ボールベッド
・布製パーティション
・冷房機器(クーラー・スポットクーラー)
・応急資材(土のう、防塵マスク、ゴーグル、ブルーシート等)
・非接触型体温計、体温測定器 
・その他感染症対策用品(マスク、消毒液、フェイスシールド等) ほか
※参考 内閣府防災情報のページ:防災の動き「令和2年7月豪雨での熊本県に対するプッシュ型支援品目」

避難所においてプライベートを確保するためのパーティションや、暑さ対策の冷房機器、豪雨被害の応急措置に要する資材など、長期化する避難生活をみすえた品目です。

また、当時は新型コロナウイルスへの感染がおおきく広がりはじめていたこともあり、体温計やマスクといった感染症対策用品もふくまれています。

プッシュ型支援は熊本地震ではじめて運用

プッシュ型支援が実際におこなわれたのは、熊本地震(2016年4月14日・16日発生)がはじめてです。

どのような状況だったのか、内閣府『熊本県から⾒た⽀援物資等に関する課題と提案について』をもとに確認しましょう。

避難者の増加で自治体の備蓄が不足

熊本地震では2016年4月14日に前震、16日に本震が発生しており、いずれも最大震度7を記録しました。

前震の直後には自治体の備蓄、および災害協定にもとづいた食料等の物資で対応しています。

しかし、16日の本震によって約18万人の避難者が発生したことで物資が足りなくなるなか、17日から国がプッシュ型支援を開始して物資がとどけられたのです。

自治体には備蓄があるといっても、災害の規模や自治体庁舎が被害をうけるなどで、それだけではまかないきれないこともあります。

災害発生後まもない時期にプッシュ型支援がなされることは、自治体・避難者の双方にとって効果的な支援なのです。

要請をうけておこなう「プル型支援」 

くり返しますが、プッシュ型支援はあくまでも災害発生直後に対する緊急措置として、一方的になされるものです。

しかし、当然のことながらいつまでも“一方的”な支援はできません

そこで、プッシュ型支援を一定期間おこなった後は自治体からの要請にもとづく「プル型支援」へときりかえるのです。

この点について、熊本地震の例をみてみましょう。

熊本地震における「プッシュ型支援」「プル型支援」の関係

□ 4月14日 前震

□ 4月16日 本震

□ 4月17日~4月22日 プッシュ型支援

□ 4月23日~5月13日 プル型支援

□ 5月14日~ 熊本県が国から物資をひきつぐ(供給を一元化)
※参考:内閣府『熊本県から⾒た⽀援物資等に関する課題と提案について

本震の翌日から5日間はプッシュ型支援でしたが、その後おそよ20日間はプル型支援がおこなわれています。

物資支援の課題と解決にむけたとりくみ

ここからは、災害時における物資支援の課題を確認し、その解決にむけた取り組みについてお伝えします。

急を要する災害時において、迅速にそしてより効果的に物資支援をおこなうためには何が必要なのでしょう。

本当に必要なところへ物資がとどかない

過去の災害では、プッシュ型支援がおこなわれた熊本地震をはじめ、そのほかの災害においてもニーズと支援のミスマッチが課題にあげられています。

つまり、物資を必要とする避難所等に物がとどかなかったり、逆に特定の避難所等に偏ってしまうなどの状況がみられたのです。

物資だけでなく対応できる職員も派遣する

物資がスムーズにとどけられるためには、避難所を中心とするニーズの把握とその集計・報告、物資や輸送手段の確保、到着確認と在庫管理など、各ポジションごとに重要な役割があり適切な対応が必要です。

これらは平時の自治体業務にはなく、災害時だけの対応ではむずかしい面があるでしょう。また、災害時には庁舎が被害をうけたり職員も被災して人手不足になるなど、被災自治体の負担はおおきくなります

これらのことから、物資を支援する際には各ポジションごとの対応力を身につけた職員も派遣することが必要とされているのです。

「平成30年7月豪雨」初動対応の検証結果

西日本を中心に全国に被害をもたらした「平成30年7月豪雨」において、国はその初動対応について検証し、その結果をまとめたレポートをだしています。

そのなかの「避難所の状況把握、物資調達・輸送」では、次のように述べられています。

4.避難所の状況把握、物資調達・輸送
プッシュ型物資支援実施に係る意思決定を迅速化するほか、避難所のニーズと物資の発注、到着状況の確認を一元的に行うことができるよう、物資調達・輸送調整等支援システム等の機能強化を行う。

引用:内閣府「平成30年7月豪雨に係る初動対応検証レポート(概要)平成30年11月」 ※太字は筆者加筆

つまり、プッシュ型支援をおこなうかどうか素早い判断をするとともに、物資にかかわる状況を一元化するシステムが必要だとしたのです。

物資の管理は「電話/FAX→支援システムの活用」へ

このレポートがだされた当時、国・都道府県・市町村における連絡や情報共有の手段は電話やFAXだったといいます。

そのため、うまく情報が共有できず、その結果として先述のとおりニーズと支援のミスマッチがおきる要因にもなったのです。 

そこで国は、これまで国と都道府県とのみで共有していた支援システム(正式名称:物資調達・輸送調整等支援システム)の機能を、市町村をふくむ3者間で共有できるようにし、2020年度から運用していています。

また2021年(令和3年)3月には、南海トラフ巨大地震で被害が発生するおそれのある市町村を対象に、この支援システムの操作や情報の伝達訓練がおこなわれています。

物資の海上輸送・船での入浴や宿泊サービスも

物資の輸送は車両だけとはかぎりません。むしろ、地震や水害の影響で道路がつかえないということも十分ありえます。

この点に対応できるひとつが「海上輸送」です。実際に熊本地震では、物資を輸送しただけでなく船を宿泊先としたり給水・入浴サービスの提供もおこなわれました。

近年では、2023年5月16日に奄美大島で海上輸送訓練がおこなわれています。奄美大島では2010年に記録的な大雨によって土砂崩れや道路の陥没などが発生し、数日間孤立した集落があったのです。

どのような物資がどこで必要かを把握するだけでなく、それをどのように輸送するかについても、ひきつづき各地で検討が必要なのでしょう。

プッシュ型支援をスタートに団結して住民の生命をまもる

被災者の命をまもるため、まず必須となる物資を国が被災地に一方的にとどける「プッシュ型支援」。

それを受けとる被災自治体では、おなじく住民の生命・財産をまもるため対応にあたります。

平時であればそれらを使命として行動するのが市町村職員だとしても、災害時には市町村職員だけが担うものではありません。

国や都道府県をはじめ、被災者の命・健康をまもるために被災地をささえるDHEAT(ディーヒート)や民間企業、そして住民も参加しながらおこなっていきます。

支援物資は物理的に被災者をささえるだけでなく、不安をやわらげるなど精神的なささえにもなるものです。

プッシュ型支援はいずれプル型支援にきりかわります。そのとき、すみやかに被災地・被災者の現状がとどくよう、各地においてより対策がすすむことを心から願っています。

【参考文献】
*内閣府防災情報のページ「防災の動き」
*内閣府防災情報のページ「国の物資支援について」
*農林水産省「避難所と支援物資」
*一般財団法人日本防火・防災協会:2019年10月『地域防災』「物資調達・輸送調整等支援システム」の機能強化について
*内閣府『熊本県から⾒た⽀援物資等に関する課題と提案について』
*TBS NEWS DIG「豪雨・道路寸断に備えて海上輸送訓練 2010年の奄美豪雨も教訓に」

(以上)

備えておこう!おすすめの防災グッズ

これから用意しようと思っている方におすすめなのが「Defend Future」の防災士が監修した防災グッズ。自分でリュックに詰められるようになっていたり、簡単に手に入りやすい紙皿などは除いているなど、個人が防災にきちんと向き合えるようになっています。

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この記事を書いた人

東北出身&在住フリーライター。
広告代理店・NPO・行政で勤務後、在宅ワーカーに転身。
妊娠中に東日本大震災に遭い、津波から避難・仮設住宅で子育てをする。
本サイトでは「命を守るために知っておきたいこと」「日常に潜むリスクへの備え」などについて発信します。
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