災害用語を解説する、今回のテーマは「激甚災害(げきじんさいがい)」です。
台風や地震といった災害発生時、テレビで「激甚災害に指定されました」と伝えられることがあります。
言葉のつづりから「とても激しい災害」ということはイメージできても、具体的な意味や被災地にどんな影響があるのかなど、わからない点があるものです。
そこで今回は、激甚災害の意味やその種類、生活のどのようなことに関係があるの?といった、大事なポイントについて、ひとつずつ解説していきます。
用語の意味を知って、災害についての理解をさらに深めていきましょう。
激甚災害(げきじんさいがい)の意味
さっそく、激甚災害の意味を確認しましょう。
被害が大きいため特別な財政支援が必要
コトバンクでは、激甚災害について次のように説明されています。
地震、台風、豪雨などによる著しく、被災自治体への財政援助や被災者への助成がとくに必要となる大災害
引用:コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)「激甚災害」 ※太字は筆者加筆
ポイントは「とくに必要となる」という言葉です。これは「より必要になる」や「特別に必要」とも言い換えられますね。
つまり、簡単にいうと「非常に被害が大きいため(国からの)資金援助が特別に必要となる災害」でしょうか。
したがって、激甚災害は「被害が大きい災害」であり、その結果として「特別な資金援助が必要な災害」という意味をもっているのです。
では、激甚災害ではどの程度の財政支援がなされるのか、そして被災地や被災者にとってどんなメリットがあるのか、それぞれ詳しくみていきましょう。
激甚災害による財政支援と対象事業
どのくらい財政支援がある?
被害の大きい災害では、復旧復興等にかかる費用として国から自治体にお金が交付されます。
それが激甚災害に指定されると増額、つまり自治体は「多くうけとることができる」のです。
通常、災害復旧国庫補助事業では、対象ごとに以下の割合で支給されます。
■災害復旧国庫補助事業
*河川、海岸、砂防設備、道路、港湾、漁港、下水道、公園等
出典:内閣府「激甚災害制度について」
→概ね6割~8割程度
*公立学校、公営住宅、生活保護施設、児童福祉施設等
→2分の1~3分の2
*農地等
→8割程度(共同利用施設は概ね2割)
激甚災害に指定されることで、この補助率が1~2割ほど多くなるのです。
なお、激甚災害の指定は中央防災会議の答申をうけて内閣総理大臣が決定します。
被災地・被災者におけるメリットとは?
台風によって道路が寸断される、地震で水道管が破裂するなど、災害による被害は生活のあらゆる場面におよびます。
それらを元にもどすためには当然お金が必要であり、そのお金が確保されることは被災地・被災者が災害から復旧・自立していくために不可欠です。
したがって、激甚災害の指定による財政支援は災害からの復旧復興を後押しするのです。
どんな支援をうけられるのか?
激甚災害となった場合、どのような事業に特別の財政支援がおこなわれるのかは、法律(通称:激甚災害法)でこまかく規定されています。
全部をおつたえするのは難しいので、ここでは適用される主な事業をご紹介します。
内閣府のホームページでは、道路や河川といった公共土木施設の復旧事業から感染症予防事業等まで、9つの事業等を「主な適用措置」として説明しています。
【主な適用措置】
3,4条: 公共土木施設災害復旧事業等に関する特別の財政援助
引用:内閣府 防災情報のページ「過去5年の激甚災害の指定状況一覧」 ※太字は筆者加筆
5条: 農地等の災害復旧事業等にかかる補助の特別措置
6条: 農林水産業共同利用施設災害復旧事業費の補助の特例
7条3号: 水産動植物の養殖施設の災害復旧事業に対する補助
12条: 中小企業信用保険法による災害関連保証の特例
16条: 公立社会教育施設災害復旧事業に対する補助
17条: 私立学校施設災害復旧事業に対する補助
19条: 市町村が施行する感染症予防事業に関する負担の特例
24条: 小災害債に係る元利償還金の基準財政需要額への算入等
激甚災害に指定されても、これらすべての事業が特別な助成をうけるのではありません。
たとえば「平成30年7月豪雨等・台風第5~8号」では感染症予防事業への助成が適用されていますが、同年に発生した「台風第19号~21号等」の災害では適用されていません。(参考:内閣府 防災情報のページ「過去5年の激甚災害の指定状況一覧」)
激甚災害の種類と指定までの流れ
ここでは、2種類ある激甚災害の種類と、フロー図で指定までの流れを確認しましょう。
「災害そのもの」または「市町村単位」で指定
激甚災害には「本激」と「局激」があります。
まず「本激」とは、発生した“災害そのもの”を激甚災害法にもとづいて指定するものです。一方「局激」は、災害によって被害をうけた“市町村”を指定します。
激甚災害制度が創設(昭和37年/1962年)された当初は「本激」のみであり、指定の基準は“全国単位でつみあげられた被害額”でした。
そのため、ある地域で大きな災害が発生しても、全国レベルでみると大きな被害とはならず基準を満たさない状況があったといいます。
そこで、昭和43年(1968年)に“市町村単位の被害額”を基準とした「局激」がつくられたのです。
なお、本激・局激という読み方は略称であり、正式には前者を「激甚災害指定基準による指定」、後者を「局地激甚災害指定基準による指定」といいます。
本激→局激の順で基準をチェックする
では、激甚災害に指定されるまでの流れを確認しましょう。
出典:農林水産省「激甚災害制度」https://www.maff.go.jp/j/saigai/taisaku_gaiyou/gekijin.html
簡単に説明すると、まずはじめに、その災害が「本激」の指定基準を満たしているかどうか判定します。
満たしていない場合、つぎに「局激」の基準にてらしあわせ、該当すれば「早期局激」として指定。該当されなければ、ひきつづき査定したのち金額を確定、それが基準をみたしていれば「年度末局激」に指定されます。
激甚災害に指定された過去の災害
地震や豪雨・火山災害など、過去に激甚災害として指定された一例をご紹介します。
□本激に指定された災害(一例)
・阪神淡路大震災(平成7年/1995年)
・新潟県中越地震(平成16年/2004年)
・東日本大震災(平成23年/2011)
・熊本地震(平成28年/2016年)
・平成30年7月豪雨(2018年)
・平成30年北海道胆振頭部地震(2018年)※一部事業は局激
・梅雨前線:令和2年7月豪雨等(2020年)
ここでは地震が多くなっていますが、このほか台風や豪雨災害なども激甚災害(本激)に指定されています。
□局激に指定された災害(一例)
・三宅島火山活火山による災害(平成12年/2000年)
・岩手宮城内陸地震(平成20年/2008年)
なお、平成16年(2004年)から令和5年(2023年)における激甚災害の指定状況は、こちら(内閣府防災情報のページ)から確認できます。ぜひご覧ください。
用語の意味を知り正しい情報を入手しよう
今回は「激甚災害」について、その大事なポイントを解説しました。
よりくわしく知りたい方は、「内閣府防災情報のページ「激甚災害制度 Q&A」」から学ぶことができます。
テレビなどで聞き慣れている用語でも、正しい意味となるとわからなかったりするものです。
災害時に大事なことの1つが「正しい情報を入手する」ことです。デマやウワサ話を信じては、かえって危険をまねくことさえあるのです。
この「正しい情報を入手する」ことは災害に備える段階であっても同じく重要です。
日常・非日常をとわず、みのまわりにはどんな危険があり危険なときはどう行動するのか。それを知識として学ぶことも備えにつながります。
本サイト内には防災・防犯について、さまざまなテーマの記事があります。ぜひご活用ください。
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【参考文献】
*コトバンク「激甚災害」
*goo辞書「激甚災害とは」
*内閣府 防災情報のページ「最近の激甚災害の指定状況について」
*内閣府「激甚災害制度について」
*e-GOV「激甚じん災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」
(以上)