今回のテーマは「DWAT(ディーワット)」。
「DMAT(災害派遣医療チーム)なら知っているけど、DWATってなに?」という方も多いのではないでしょうか?
DWATは、災害時おもに避難所で活動する“福祉分野”の専門チームです。岩手県や京都府が先駆的にとりくみ、のちに国がガイドラインを示しています。
高齢者が対象と思われることもありますが、そうではありません。外国人や妊産婦など、いわゆる要配慮者とされる人たちの支援をおこなうのです。
いまではほとんどの都道府県に設置されているDWATについて、いっしょに学んでみましょう。
DWATは災害時“要配慮者”をサポートする
DWAT(Disaster Welfare Assistance Teamの頭文字)は、正式名称を「災害派遣福祉チーム」といいます。
どのようなチームなのか具体的に解説します。
自治体によってはDCATとよんでいる
「災害派遣福祉チーム」の呼び名は、厚生労働省が2018年(平成30年)に示したガイドラインで示されたものです。
しかし、ガイドラインでは「親しみやすく、役割がわかりやすい呼び方を設定しても良い」としています。
そのため、自治体によっては「Care(世話・介護)」をつかい、DWATではなく「DCAT」としているところもあります。
要配慮者とは災害時「とくに配慮を必要とする人」
DWATは災害時に避難所や福祉施設等において、要配慮者を支援するためのチームです。
要配慮者とは、災害時とくに配慮を必要とする人たちで、具体的には「体力に衰えのある高齢者、心身障害者、妊産婦・乳幼児、外国人や傷病者等」があげられます。
東日本大震災では、災害関連死の9割近く(※)が66歳以上をしめていたこともあり、DWATの活動を“災害関連死をふせぐ”という視点から、高齢者だけが対象のように取りあげられることもあります。(※)参考:内閣府:平成25年版 高齢社会白書(全体版)「第1章 第2節 6(7)東日本大震災における高齢者の被害状況」
しかしそうではなく、DWATは乳幼児から高齢者、外国人まで実に幅広い人たちが対象なのです。
DWATメンバーの資格は多種多様
支援対象が幅広いため、当然災害時に必要とされるサポートもそれぞれに異なります。
そのため、DWATのメンバーにはあらゆる有資格者が求められ、支援対象によって専門チームを編成して活動することもあります。
DWATの募集は各都道府県ごとにおこなわれ、求める資格の表記もそれぞれです。
たとえば、福井県では下記のいずれか1つ以上に該当することが求められています。
2 登録者(チーム員)の募集について
引用:福井県社会福祉協議会「福井県災害派遣福祉チーム(福井DWAT)チーム員の募集について」より ※太字は筆者加筆
(A)資格等
社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員(ケアマネジャー)、精神保健福祉士、保育士、保育教諭、幼稚園教諭 等で、業務経験のある方
(B)職種等
相談支援専門員、介護職員、生活支援員、生活相談員、児童厚生員、地域包括支援センター職員、業務調整員(事務員)等で、業務経験のある方。
これらからも、DWATが幅広い人へ支援をおこなうことがわかりますね。
厚生労働省のガイドラインでは、メンバーの性別や職種のバランスに考慮して4~6名のチームを編成するよう示されています。
DWATの活動内容を熊本地震における2つの事例にみる
では、DWATはどのような活動をするのでしょうか。
ここでは、ともに熊本地震(※)で活動した「岩手DWAT」と「京都DWAT」の活動をご紹介します。
(※)2016年4月14日および16日発生。いずれも最大震度7を記録し、同一地域に震度7が連続発生したはじめての事例。
段差をなくすなど“避難所の環境整備”もおこなう
DWATの活動は、1チームあたり5日間程度が目安とされ、具体的には各都道府県で決定されます。
◇DWATの活動の一例
・避難所の環境整備
・食事やトイレ介助などの生活支援
・要配慮者への聞き取りと必要な支援の把握
・他職種や被災市町村、避難所管理者との連携 など
たとえば「避難所の環境整備」では、段差をなくしたり車イス通路の確保、キッズ・授乳スペースの確保などがあげられます。
「岩手DWAT」保育チームを編成しキッズルームを運営
岩手県では東日本大震災が発生した2年後の2013年(平成25年)DWATが発足しています。
熊本地震では、21日間で5チーム(のべ24名)が出動し、益城町の避難所において現地の支援チームと連携しながら、入浴支援や福祉相談コーナーの設置などをおこないました。
さらに、同年8月には岩手県内で「平成28年台風第10号災害」が発生し、要配慮者の対象(高齢者・障害者・子どもなど)ごとにチームを編成、個別対応をおこなっています。
たとえば、保育チームはキッズルームを運営し、子どもには遊び・保護者には息抜きの場を提供することで、それぞれの心のケアへつながっています。
「京都DWAT」相談窓口を開設、熊本DCATに引き継ぐ
おなじく熊本地震では、京都DWATも出動し、3チーム(15名)が活動しています。
相談コーナーを運営し、被災者のニーズを把握した支援をおこなっています。相談コーナーの名称は、熊本弁で「とりあえず」を意味する「さしより」とし、被災者により身近な存在と感じられるよう工夫した様子もうかがえます。
京都DWATが活動をおえたあとも、この相談センターは熊本DCATが中心となり「生活総合相談窓口」として開設され、被災者の支援がつづけられました。
福祉分野の支援体制をアンケート結果から知る
社会福祉法人 全国社会福祉協議会は、全国47都道府県に対して、災害時の福祉分野における支援体制についての調査をおこなっています。その結果の一部をご紹介します。
支援先は一般避難所が最多
この調査では『明確に体制構築に取り組んでいる』とした都道府県の割合は91.5%でした。
そして、災害時の主な支援先をたずねた問いでは「一般避難所」が80.5%と最多であり、「福祉避難所等」70.7%、「社会福祉施設等」31.7%とつづきます。
年齢や性別はもちろん、健康状態もさまざまな人が多数あつまる避難所では、専門の知識・技術をもって、要配慮者の支援ニーズを把握しなければなりません。まさにDWATがもとめられる場所なのです。
支援対象は高齢者が9割、乳幼児は7割
支援体制を「既に構築している」「現在構築中である」とした41団体について、その支援対象を問うた結果は、次のようになっています。
◇アンケート結果にみる災害時の支援対象者別割合
*高齢者 90.2%
引用:社会福祉法人 全国社会福祉協議会「災害時の福祉支援体制の構築と災害派遣福祉チーム(DWAT)の活動状況等について」令和元年10月2日 より ※太字は筆者加筆
*障害児者 85.4%
*乳幼児 73.2%
*その他 31.7%
*未定・検討中 12.2%
過去の災害で、高齢者の災害関連死が多かったことをふまえると、高齢者を支援対象とする割合が高いのは当然であり、災害時の課題解決にむけて取り組んでいることの反映とみることができるでしょう。
一方、乳幼児を支援対象としたのは約7割であり、これからより一層体制がととのえられていく段階にあるといえます。
DWATの活動は包括的な仕組みのもとで
乳幼児への支援では保護者へのサポートも不可欠ですが、行政の枠組みのなかでは担当窓口が複数にわたることも珍しくありません。それは乳幼児にかぎらず、ほかの要配慮者についてもおこりえます。
それぞれの窓口が支援ニーズを把握・集約・支援につなげるのでは時間を要してしまい、必要なときに支援が届かなくなる恐れもあるでしょう。それを防ぐためには、市町村レベルにおける平時からの取り組みも重要です。
国はDWATの派遣や研修等について、全国レベルで調整をおこなう体制づくりをすすめているといいます。すでにあるDMAT(災害派遣医療チーム)やDPAT(災害派遣精神医療チーム)をモデルとしながらも、多種多様な範囲で活動するDWATに適した仕組みがととのい、災害時の支援から取り残される人がでないことを願っています。
【参考文献】
*厚生労働省「先駆的な取組を行っている自治体の災害福祉支援ネットワークの概要等について 」
*社会福祉法人 全国社会福祉協議会「災害時の福祉支援体制の構築と災害派遣福祉チーム(DWAT)の活動状況等について」令和元年10月2日
*厚生労働省『災害時の福祉支援体制の整備に向けたガイドライン』平成30年5月31日
(以上)