DPATは災害や事故による精神的ショックをケアする専門家集団

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2023年3月11日、東日本大震災から12年がたちました。

DPAT(ディーパット)は東日本大震災がきっかけとなってできた、心の専門家による「災害派遣精神医療チーム」です。

これまでに平成30年7月豪雨や熊本地震など、日本で発生した災害のほか、近年は新型コロナウイルス感染症にともなうクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」でも活動しています。

今回は「どんなとき・誰にどのような精神的支援をおこなうのか?」といったDPATの概要について、活動事例とともに解説します。

さらに、被災地において住民のPTSD(心的外傷後ストレス障害)を調査した医師の紹介記事をとおして、災害が人々にあたえる精神的影響についても考えます。

私たちの心を支えてくれるDPAT、ぜひ一緒に学びましょう。

目次

DPAT(災害派遣精神医療チーム)の支援対象・活動期間・隊員の資格

DPAT(Disaster Psychiatric Assistance Teamの頭文字は、被災地などで“心の健康を守るための活動”をおこないます。

その対象は被災者にかぎらず、被災者の支援者・事故の被害者と広範囲におよぶのです。

ここでは、DPATとは何かについて解説します。

DPATが支援するのは精神科の患者だけではない

DPATは、大規模な自然災害のほか、犯罪・航空機や列車事故などで多数の死傷者が発生したとき、被災者・被害者等の精神的治療やサポートをおこなう精神医療のプロフェッショナルです。

大規模災害が発生して精神科病院が被災すると、精神科の患者は薬の入手が困難になったり、急激な環境の変化も加わり病状が悪化する可能性があります。

一方、災害や事故に直面した人が、強い不安感や恐怖心におそわれるといった精神的不調をきたすことは自然なことであり、早い段階で被災者・被害者をサポートすることが重要なのです。

DPATは、精神疾患をかかえる方だけでなく、発生した災害・事故に関わるすべての人の心を守るために活動するのです。

活動は数ヶ月におよぶこともある~DPAT活動3原則

DPATの活動は、1週間(移動日2日・活動日5日)が標準ですが、その後も必要に応じて数週間~数ヶ月継続的に活動することもあります。

これは、おなじく災害時に活動するDMAT(災害派遣医療チーム)と異なる点です。DMATは発災後の急性期(48時間~72時間)に活動し、その後は医師会や日本赤十字社などに引き継ぎます。

DPATの活動には、次のようなものがあります。

1.精神科分野の医療活動
2.心の健康を守るための専門的支援(精神保健活動)
3.避難所や精神科病院のニーズ把握
4.被災した精神科病院の支援
5.支援者(自治体職員や救急隊員など)の精神的支援 など

DPATの特徴は、被災者や被害者を“支援する立場にある人”への精神的サポートもおこなうことです。

その活動は中長期におよぶこともあるため、宿泊や手段などは自分たちで確保します。

これは「DPAT活動3原則」のひとつ “自己完結型の活動”です。このほか、自治体や支援者との“積極的な情報共有”および、支援活動の主体はあくまでも被災地域の支援者であり、DPATは“名脇役であれ”という活動の原則があります。

先遣隊には精神保健指定医が必須

DPATは、基本的に精神科医師・看護師・業務調整員で編成されます。

専門の研修をうけて隊員となりますが、必要に応じて、児童精神科医や保健師、薬剤師、精神保健福祉士や公認心理師等が入ることもあります。

また、災害発生後おおむね48時間以内に現地へ活動するチームを「DPAT先遣隊」とよび、そこには「精神保健指定医」がいなければいけません。

「精神保健指定医」とは、精神科患者の行動を制限(隔離、身体拘束など)したり、強制的な入院(解除)の判断をおこなうことができる精神科医です。

2022(令和4)年3月29日に改正された『災害派遣精神医療チーム(DPAT)活動要領』では、先遣隊は「DPAT先遣隊隊員技能維持研修」を受講することがあらたに規定されています。

DPAT(災害派遣精神医療チーム)の活動事例

ここでは、具体的なDPATの活動を知るため、実際に被災地で活動した広島DPTAと宮城DPATの事例をご紹介します。

広島DPAT「平成30年7月豪雨」

「平成30年7月豪雨」では、西日本を中心に記録的な大雨となり、200名以上の方が犠牲となりました。

このとき、災害発生翌日(7月7日)に広島大学病院からDPAT先遣隊が派遣され、のべ42名(8月末まで)の隊員が活動しています。

はじめの約2週間は、被災者の精神的不調に対する直接支援が中心でしたが、その後、支援者に対するアドバイスや、支援者自身への精神的支援が展開されています。

被災者が自宅や仮設住宅にうつってからは、県立総合精神保健センターに“こころのケアチーム”がつくられ、被災者の精神的ケアが実施されています。

【参考文献】広島大学病院ニュース No.48

宮城DPAT「令和元年台風19号」

2019(令和元)年10月12日、台風の接近通過にともない、関東甲信・東北地方、静岡県や新潟県では記録的な大雨となりました。

このとき、宮城県では被害が大きかった丸森町にDPATが派遣されています。

地域の精神科病院は外来を中止、避難所には精神的不調をかかえる人もでるなか、DPATは合計6日間活動しました。

精神科患者の病状が悪化したほか、被災者からは『眠れない』『不安だ』といった訴えもあり、DPATが診察・助言などを実施しています。

さらに、被災地の自治体職員を対象とした相談室の立ち上げに協力し、相談対応にあたる職員への助言もおこないました。

【参考文献】
宮城県精神保健福祉センター≪実践報告≫ 「令和元年台風19号」発生に伴う災害派遣精神医療チーム (DPAT)派遣活動について  
国土交通省「令和元年台風第19号による被害等」令和元年11月22日

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は特別なことではない

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、大きな災害や事故に遭ったとき、その状況が無意識ながら思い出されて苦しくなったり、不安や緊張が高まるなどの症状がでることです。

数ヶ月でおさまりその多くは一過性とされていますが、時間が過ぎても苦しさが改善されず、逆につらくなることもあるといいます。

災害から8年たってもPTSDに苦しむ

PTSDが災害後、長い年月を経てもなお被災者を苦しめることを示す、ひとつの記事をご紹介します。

情報・知識&オピニオン imidas「福島を語る(2)震災PTSDと向き合う 」では、原発事故で被災した住民を診ている精神科医、蟻塚亮二さん(以下、蟻塚医師)と、新聞記者でルポライターの三浦英之さん(以下、三浦さん)との対談があります(2021年11月4日付)。この記事から一部引用してお伝えします。

三浦さんは『最近、福島沿岸部で被災した方々を取材していると、震災当時よりも今のほうがずっとつらいという声を耳にします。』と話されています。

そして、蟻塚医師は震災から8年後(2019年)、原発事故の影響をうけた浪江町津島地区に住んでいた500人の方を対象とした調査をおこなっています。

その結果『約48%がPTSDに該当』しており、『避難先が県内の場合は、約23%の人が重症のうつ病状態と見られるのに対し、避難先が県外の場合は、その割合が約40%』だったというのです。

被害をうけた後のサポートが重要

PTSDの発症には、生活のストレスが大きかったり、被害後のサポートが足りなかった場合に起こりやすいとされています

ゆえに、災害や事故の被害にあったときは早い段階で適切な精神的サポートを受け、心の健康を守ることが大切と言えるでしょう。

私たちはDPATについて知り、万が一大きな災害や事故にあったときには専門家の精神的サポートがうけられることを知っておくのも大切ではないでしょうか。

【参考文献】厚生労働省:知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス「PTSD」

DPAT(災害派遣精神医療チーム)の支援が必要な人へ届くために

筑波大学付属病院では、クラウドファンディングでDPAT専用車両を購入しました。

購入以前はレンタカーで現地に行っており、専用車両ができたことでプライバシーに配慮した相談・診察スペースの確保が可能になったといいます。

DPATにたいする国の予算は低く、DMAT(災害派遣医療チーム)とくらべてもその運用には課題があるとされているのです。

そもそも日本では、DPATの存在自体がまだまだ知られておらず、それは一般市民だけでなく自治体であっても同様だとする声も聞かれます。それゆえ、本来なら派遣されるべきケースにDPATが出動せず、被害にあった方々の精神的苦痛にたいするサポートが十分できていない状況も

突然、自分や家族が大きな災害や事故に巻き込まれたとき、その精神的ショックは計り知れないものです。だからこそ、そこにはDPATによる支援が不可決なのです。 

支援の必要な人があたりまえにサポートをうけられるよう、これからもDPAT(災害派遣精神医療チーム)の動向に目をむけてみませんか?

【参考文献】
弁護士ドットコム:知床事故、遅れた被害者家族の「心のケア」専門チームが出動できなかった理由
厚生労働省『災害派遣精神医療チーム(DPAT)活動要領』
DPAT事務局「DPATとは」
DPAT事務局『令和元年度から令和2年度のDPAT活動報告について』
情報・知識&オピニオン imidas「福島を語る(2)震災PTSDと向き合う 」
NPO法人ニュースつくば:「DPATカー」完成 被災地に駆け付け心のケア 筑波大付属病院

(以上)

備えておこう!おすすめの防災グッズ

これから用意しようと思っている方におすすめなのが「Defend Future」の防災士が監修した防災グッズ。自分でリュックに詰められるようになっていたり、簡単に手に入りやすい紙皿などは除いているなど、個人が防災にきちんと向き合えるようになっています。

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この記事を書いた人

東北出身&在住フリーライター。
広告代理店・NPO・行政で勤務後、在宅ワーカーに転身。
妊娠中に東日本大震災に遭い、津波から避難・仮設住宅で子育てをする。
本サイトでは「命を守るために知っておきたいこと」「日常に潜むリスクへの備え」などについて発信します。
詳しいプロフィールはこちら

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