スフィア基準を分かりやすく解説!「避難所だから仕方がない」を変えるガイドライン

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スフィア基準とは、被災者の権利と被災者支援の最低基準を定めた国際基準です。「避難所のトイレの男女比は3:1」、これは、約400頁にも及ぶハンドブックのなかの一部分です。

全部読むのはなかなか難しいですが、実は日本の避難所を変えるヒントがたくさん!

今回は重要なところを取り出して、分かりやすく解説していきます。

目次

スフィア基準とは、被災者の権利と支援活動の最低基準を定めたもの

スフィア基準とは通称であり、正式名称を『人道憲章と人道支援における最低基準』といい、災害、紛争の影響を受けた人の権利、その人たちを支援する活動の最低基準について定められています。ハンドブックという形でまとめられおり、1998年に初版、2004年、2011年と発行され、2018年第4版は約400ページに及んでいます。

今回の記事は、この「スフィアハンドブック2018年日本語版」をもとにお伝えします。

なお、ハンドブックでは難しい表現もあるので、言い換えている部分もあります。

スフィア基準は、被災者支援の課題解決を目指した「スフィアプロジェクト」の成果物

スフィア基準は、「スフィアプロジェクト(またはスフィア)」とよばれる活動がもとになっています。スフィアプロジェクトとは、紛争の影響を受けた人たちへの支援でみられた、課題の解決に向けておこなわれた活動のことです。

活動の発端は、1997年アフリカ・ルワンダでおきた大虐殺でした。死亡者は100日間で50万から100万人と言われています。その後、国連や各国のNGOが難民となった人たちの支援に入ったのですが、それでも8万人以上の人が亡くなってしまったといいます。

この原因を調査・分析したところ、支援が「場当たり的」で「調整、被災者への説明不足」といった課題がわかりました。支援者たちは、これまでの「活動の質」ではいけないと認識し、その解決に向けてスフィアプロジェクトがスタートしたのです。

まずは、スフィア基準にも書かれている「避難所」について、日本の現状をみてみましょう。

日本の避難所でおきている現実

トイレには大便とトイレットペーパーが積み重なっていた

阪神淡路大震災(1995年)において、避難所生活を経験した人たちの声が掲載されている「BE KOBE」というサイトがあります。「避難生活で困ったこと」が1位から5位まであり、 1位はトイレのことでした。経験者の声をひとつ引用いたします。

「特に困ったことはトイレ。大便のほうです。水は出ない、流れない、前に使った人の面の山を崩して低くしておいてから、行う。低くするための棒が必要。」

BE KOBE「避難所経験者70人に聞いた、避難生活で困ったこと TOP5」

いかがでしょうか。災害から逃れたものの、このような現実にストレスを感じないわけはありません。

夜になると男の人が毛布の中に入ってくる

阪神淡路大震災から16年後である2011年東日本大震災においても、まだまだ避難所は安全な場所にはなっていませんでした。

「授乳しているのを男性にじっと見られる」

「男性が若い女性の隣に寝に来て、胸に触れた」

「夜になると男の人が毛布のなかに入ってくる」

この声は、東日本大震災『「災害・復興時における女性と子どもへの暴力」に関する調査報告書』(46頁・50頁・55頁)のなかにあるものです。

トイレの男女比も一人当たりの専有面積も、たしかにスフィア基準に書かれています。しかし、数値だけでは知ることができない、このような避難所の現状もあります。

この点を念頭におきながら、この記事をさらにお読みいただければと思います。

スフィア基準がかかげる2つの基本理念

最初に被災者と支援者に対する2つの基本理念が書かれています。(※スフィアハンドブック 4頁)

❶被災者は、尊厳ある生活を営む権利があり、支援を受ける権利がある

❷災害による苦痛を減らすために、実行可能なあらゆる手段をとらなければならい

どうでしょうか。先ほどの避難所のトイレの状態、女性へ暴力がおこなわれている状況は「尊厳ある生活をしている」といえるでしょうか。

しかし残念ながら、そのような状況が日本の避難所で起きていることも現実です。だとすれば、被災者を支援をする人たちは「その苦痛を減らすために、あらゆる対策をとらなければいけない」のです。

「避難所だから仕方がない」という意識を変えるスフィア基準

日本では「避難所だから我慢しなくちゃいけない」といった考えや、被災者が生活の質を求めると、「それは贅沢」と思われる風潮があります。しかし、避難所において被災者が生活の質を求めることは、けっして贅沢なことではないのです。

このことは、内閣府もはっきりと公言しています。

平成28年に示された「避難所運営ガイドライン」では、具体的な内容に入るまえに『前提となる事項の理解 ~「質の向上」の考え方~ 』として、次のように言っています。

以下に、一部抜粋します。

「質の向上」という言葉を使うと「贅沢ではない か」というような趣旨の指摘を受けることもあります。しかし、ここでいう「質の向上」と は「人がどれだけ人間らしい生活や自分らしい生活を送ることができているか」という「質」 を問うものであり、個人の収入や財産を基に算出される「生活水準」とは全く異なる考え 方であるため、「贅沢」という批判は当たりません。

内閣府「避難所運営ガイドライン」

トイレが不衛生な状態にあることも、女性が暴力を受けることも、決して仕方がないことではないのが、おわかりいただけるのではないでしょうか?

スフィア基準が示す被災者支援の大原則「人道憲章」

人道憲章について、スフィアハンドブックを引用または、まとめた内容をお伝えします。

人道憲章がしめす被災者の3つの権利

基本原則にかかれている「被災者がもつ尊厳ある生活を営む権利」。この権利を保証するものが、スフィア基準の正式名称の一部にもなっている「人道憲章」です。人道憲章では次の3つの権利を掲げています(※スフィアハンドブック29頁)。

尊厳ある生活への権利

スフィア基準は、国際的な法律のなかから、被災者に関する権利と義務についてを抜粋しているのですが、そのなかでもこの権利は、生存権や適切な生活水準への権利といったものを反映しています。日本に置き換えるなら、憲法25条1項にある「すべての国民は、文化的で最低限度の生活を送る権利を有する」という規定に近いと言えるでしょう。

人道支援を受ける権利

これは1つ目の「尊厳ある生活への権利」を達成するために必要不可欠です。この権利には「十分な食料と水や衣服、避難所や健康に必要な要素を含む適切な生活水準への権利」を含んでいるとされています。

保護と安全への権利

災害における影響を受けた人びとの安全と保護は、特に人道上懸念される問題としています。この権利は、避難所での生活が、だれにとっても安全でなければならないことの基盤といえるでしょう。

人道憲章にもとづいた原則と基準

被災者の権利を守るための4つの原則(権利保護の原則) 

団体や個人にかかわらず、被災者の支援活動は、次の4つの権利保護の原則に準じておこなわれるとしています(※スフィアハンドブック 36頁)。

原則1 人々の安全、尊厳、権利の保障を高め、人びとを危害にさらさない

原則2 ニースに応じた支援を、差別なく受けられるようにする

原則3 身体的または精神的な影響を受けた人々の回復を支援する

原則4 みずからの権利を主張できるようにする

質の高い支援を提供するための9つの規範(人道支援の必須基準)

質の高い支援活動をおこなうための規範が、9つ書いてあります(※スフィアハンドブック 50頁)。それぞれに「パフォーマンス指標」「基本行動」「支援組織の責任」、そしてこれらを補う「ガイダンスノート」の5項目について、細かく記されています。

この記事では、5項目すべてを記すことは難しいため、比較的重要と思われる点のみをご紹介します。

規範1 人道支援は状況にあわせて適切に実施されている

支援プログラムを計画実施するときは、公正にニーズやリスクを把握する(基本行動1.2)。

規範2 変化する状況にあった、効果的な人道支援がおこなわれている

専門支援団体が介入するまでは、専門外の支援分野でも支援提供しなければならない可能性を認識する(組織の責任)。

規範3 人道支援が地域の対応力を高め、負の影響を未然に防いでいる

支援に依存する危険性を避け、初期段階から段階的な引継ぎや支援終了に向けた計画を立てる(基本行動3.4)。

規範4 人道支援はコミュニケーション、参加、ならびに影響を受けた人びとの意見に基づいておこなわれる

特にジェンダー、年齢、多様性を有する配慮が必要な人びとに、支援の受け手として感じる質や効果についての満足度に関して、意見がだしやすいように働きかけ、その環境をつくる(基本行動4.4)。

規範5 苦情や要望を積極的に受入れ、適切な対応をしている

性的搾取、虐待の防止に対する組織の誓約や、人道支援組織の職員に要求される行動やふるまいについて、影響を受けた地域社会や人びとが十分に理解している(基本行動5.5)。

規範6 人道支援は調整されており、相互補完的である

人道支援は、自治体および国など他の人道支援組織ができていないことを補完するものである(基本行動6.2)。

規範7 人道支援従事者は継続的に学習し、改善している

支援組織は人道支援に関する学びや改善について、同じ分野で活動する関係者、団体間で共有できるよう努める(組織の責任7.6)。

規範8 職員は効率的に職務をおこなえるよう、自らもサポートを受けられ、適正かつ公平な扱いを受けている

職員のスキルや能力の向上を支援する方針を整える(組織の責任8.8)。

規範9 資源は管理され、本来の目的のために責任を持って活用されている

予算に対する支出をモニタリングし、報告する(基本行動9.3)

スフィア基準は数値的基準ではなく、理念にもとづく達成基準

ここまでみてきたのは、スフィアハンドブックのなかで、基本的なことが書かれた章の内容となります。

ここからは、技術的なことが書かれている章の内容になります。「トイレの男女比は3:1」といった数値的基準もここに含まれます。

しかし、これまでみてきたように、スフィア基準の理念は「被災者は尊厳ある生活を営むことができる権利をもっている」ことでした。

スフィア基準は、数値目標を達成させるためのものではなく、理念にもとづいた生活と被災者支援の活動が、目指すべき状態に達成するための基準を記しているのです。

では、具体的にどのような状態を基準としているのか見ていきましょう。

命を守る4分野「給水・衛生」「食料」「避難所」「保健医療」

スフィアハンドブック(※) では、以下の4分野を、さらに6から8つの項目に分け、それぞれに「基準」「基本行動」「基本指標」「ガイダンスノート」を記しています。

・給水、衛生および衛生促進(※90頁) 

・食料安全保障と栄養(※158頁)

・避難所および避難先の居住地(※238頁) 

・保健医療(※290頁)

 今回は、冒頭でご紹介した日本の避難所に関して、トイレに関わる分野「給水、衛生および衛生促進」と、避難所について書かれた「避難所および避難先の居住地」の2つについて、一部を引用してお伝えします。

給水、衛生および衛生促進 

し尿管理 

基準3.2:トイレへのアクセスと使用「十分な数の、適切かつ受け入れられるトイレを安心で安全にいつでもすぐに使用することができる」(※ハンドブック 115頁)

基本行動3:年齢、性別、障がい者、移動に不自由をきたす人びと、HIVとともに生きる人びと、失禁症患者や性的あるいはジェンダーマイノリティによるアクセスと使用について考慮する。」(※ハンドブック 116頁)

なお、「トイレの数は、スフィア基準で20人に最低1つと決められている」と聞いたことがある人もいると思います。この数字は、このし尿管理のなかの基本指標「共用トイレの割合」にでてくる数字です。

一方で、同じ基本指標には「女性や少女によって安全であると報告されたトイレの割合」とあります。具体的数値は書かれていませんが、「し尿管理の基準3.2」を測るひとつの指標として示されているのです。

このことからも、スフィア基準が数値的な基準だけを重視しているのではない、ということがわかると思います。

避難所および避難先の居住地

居住スペース

基準3:安全および適切であり、尊厳をもって家庭生活や生計を立てるために必要不可欠な活動をおこなうことができる、居住スペースへのアクセスを有している。(※ハンドブック 254頁)

ガイダンスノート 保護(※ハンドブック 256頁)

・家庭内暴力または虐待、暴力、児童搾取または育児放棄のような保護に関する懸念事項があれば、職員がそれらについて照会する方法を、確実に心得ているようにする。

・一時的な集合宿泊施設が使用される場合、性的搾取や性的暴力が起こらないように特別に対策を講じる必要がある。

なお、基本指標には「避難所、またはその周辺に、日常的な活動を営むための適切な居住スペースを有する人の割合」のなかに、「1人あたり最低3.5㎡の居住スペース」と記されています。

日本の避難所では、寝返りがうてないほどだったり、避難所を利用したくてもスペースがなくて入れないという状況もあります。狭い空間での避難生活は、健康を害する危険性もあり「尊厳ある生活」とはとても言えないでしょう。

2016年熊本地震では、スフィア基準を知っていた登山家の野口健さんが、100以上のテントを提供し、避難者の生活を支えたことが知られています。

まとめ

スフィア基準とは、被災者に支援活動をおこなう人たちに向けて書かれた、スフィアハンドブック(人道憲章と人道支援における最低基準)に書かれている国際基準です。

どのような災害であれ、避難生活をおくることになった人には、被災者としての権利(尊厳ある生活への権利・人道支援を受ける権利・保護と安全への権利)があります。

日本の避難所の問題を考えたとき、そこには目で見てはっきりとわかる課題だけではなく、権利を侵されていてもまだ声をあげられないでいる人の存在もあります。

災害にあった人たちが、安全に安心して避難生活を過ごし、日常生活へと戻ることができるよう、多くの人にスフィア基準の本質を知ってもらえることを願っています。

【引用URL】

BE KOBE「避難所経験者70人に聞いた、避難生活で困ったこと TOP5」https://bekobe.jp/interview/2010/11/867/

東日本大震災『「災害・復興時における女性と子どもへの暴力」に関する調査報告書』(46頁・50頁・55頁)http://risetogetherjp.org/wordpress/wp-content/uploads/2015/12/bouryokuchosa4.pdf

内閣府「避難所運営ガイドライン」http://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/1604hinanjo_guideline.pdf

NHK おはよう日本「誰もが安心できる避難所へ 東日本大震災10年 女性たちの願い」

【参考文献】

「スフィアハンドブック2018年日本語版」https://jqan.info/wpJQ/wp-content/uploads/2019/10/spherehandbook2018_jpn_web.pdf

「スフィアハンドブック2011年版」https://www.nagoya2.jrc.or.jp/content/uploads/2016/11/aacf424b3761602b48c93435298e80f0.pdf

リスク対策.com「トイレの数より大事なこと。スフィア基準の基本、ご存知ですか?」https://www.risktaisaku.com/articles/-/12466?page=3

こころのかまえ研究会「スフィア基準は「数」あわせではありません」http://kokoronokamae.umin.jp/archives/sphere-structure/

リスク対策.com「日本の避難所はソマリア難民キャンプ以下 野口健氏が避難所でのテント活用訴え」https://www.risktaisaku.com/articles/-/2728

NHK おはよう日本「誰もが安心できる避難所へ 東日本大震災10年 女性たちの願い」

(以上)

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この記事を書いた人

東北出身&在住フリーライター。
広告代理店・NPO・行政で勤務後、在宅ワーカーに転身。
妊娠中に東日本大震災に遭い、津波から避難・仮設住宅で子育てをする。
本サイトでは「命を守るために知っておきたいこと」「日常に潜むリスクへの備え」などについて発信します。
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