黄砂とは、文字通り「黄色い砂」ですが、健康被害や日常生活に悪影響をもたらすものとして懸念されています。
以前は、雨や雪のような「自然現象」として認識されていましたが、現在はそれだけでなく「環境問題」として対策が必要なものになっています。
そこで今回は、「黄砂はなぜ悪影響をもたらすのか」を確認したのち、「人の体と日常生活への影響と対策」について解説します。
さらに「どこで・どのくらい黄砂が飛びそうか」、事前にチェックできるサイトもご紹介します。
ぜひ日々の生活に役立てて、黄砂による悪影響から身を守っていきましょう。
黄砂は大気汚染物質とともに飛んでくる
黄砂とは、主にタクラマカン砂漠(中国北西部)やゴビ砂漠(中国・モンゴル)で発生した砂塵(さじん:砂やちり)のことで、強風などによって中国・韓国・日本へと飛ばされてきます。
黄砂は2月から増えてくる
黄砂は日本にほぼ一年中飛んできますが、2月頃から増えて3月から5月が際立って多くなります。
この時期は、冬から春へと季節が変わり、温かくなり、外出しやすくなる頃ですが、黄砂がもたらす影響に注意が必要です。
黄砂の飛来は、自然現象から「環境問題」へ
黄砂が舞うこと自体は昔からある自然現象です。ですが、近年、黄砂による人体や海の生態系などへの影響が明らかになり、今では環境問題の一つになっています。
それは、黄砂とともに大気汚染物質が飛んできたり、黄砂自体にPM2.5(※)などの有害物質が付着しているためです。
※PM2.5(ピーエムにてんご)とは、2.5㎛(マイクロメートル)以下の粒子のこと。1㎛(マイクロメートル)は、0.001㎜(ミリメートル)。肺の奥深くまで入りやすく、肺がんや呼吸器系、循環器系へ影響があるとされています。
黄砂の濃度が高ければ影響も大きく、中国や韓国では人体への影響のほかに農作物の被害や学校閉鎖、工場製品の不良といった影響がでています。
発生源とされる地域では、防風林を植えたり伐採を法律で禁止するなど、さまざまな対策が試みられています。
日本では中国・韓国とともに、発生地域における調査・評価等をおこない対策の効率化を図ったり、黄砂に関する施策等についての意見交換などをおこなっています。
黄砂がもたらす体への影響と対策~アレルギー・呼吸器・循環器
では次に、黄砂がもたらす体への影響と対策をお伝えします。
黄砂の影響は、室内よりも室外のほうが大きいとされているため、外出を控えることができれば良いですが、そうはできないことも多々あるでしょう。
外出の際は、次の点を意識してみましょう。
◇黄砂が飛んでいる日にできる対策◇
・眼鏡やマスクをつける
・外から室内に入るときは、髪や服をブラッシングする
・洗眼液で、目に入った異物を洗い流す
・帰宅時にはなるべく早く洗顔する
・手洗い、うがいを忘れずに
こうして見ると、マスクの着用や手洗い・うがいは、昨今のコロナ対策と重なります。
環境問題としての黄砂にも、同じく対策をとって影響を最小限に抑えたいところです。
では、黄砂が人の体にどのような影響を与えるのかについて、環境省「黄砂とその健康影響についてー2018年3月発行ー」をもとにお伝えします。
アレルギー疾患~目のかゆみ・くしゃみ・鼻水~
・黄砂の飛来と目、鼻、皮膚などのアレルギー症状との関連が報告されており、目のかゆみ、結膜炎、鼻水やくしゃみなどを引き起こすことがあることが報告されています。
・スギ花粉症の方は、スギ花粉の飛散と黄砂の飛来が重なることで、アレルギー症状を発症する方が特に多くなることが報告されており、注意が必要です。
アレルギーによる症状は、どれもつらいものですね。目のかゆみでは、こすりすぎると角膜を傷つける可能性もあるため、こすりすぎには注意しましょう。
呼吸器疾患~喘息がなくても注意が必要
・黄砂の飛来と、気管支喘息や気管支炎、肺炎などの呼吸器に関する症状の悪化との関連が報告されています。
・ 特に学童児において、黄砂飛来後に、気管支喘息の救急受診及び入院が増えることとの関連が報告されています。
喘息は子どもだけの問題ではありません。喘息は、黄砂のような大気汚染物質や食品添加物、ストレスや過労などによって引き起こるとされているため、大人になってから発症することもあるのです。
「自分は喘息じゃないから大丈夫」と油断せず、黄砂への対策はとっておくと安心ですね。
また、気管支炎では咳だけでなく発熱することもあります。
4月から新しい環境での生活がはじまったばかりの時に、熱で仕事や学校を休むのもつらいことでしょう。規則正しい生活を心がけるとともに、黄砂による体への影響にも気を配っていきましょう。
循環器疾患~心筋梗塞の発症も増加する
・黄砂の飛来と心筋梗塞による入院や発症増加との関連が報告されています。
・慢性腎臓病を患っている方は、患っていない方に比べて、黄砂 の影響を受けて心筋梗塞を発症しやすい傾向にあるこ とが報告されています。
黄砂が心筋梗塞の発症にどのように関与するかは、まだ解明されていませんが、いずれも、命に関わる病であるため、さらなる調査が求められています。
黄砂による日常生活への影響と対策~交通機関・車や洗濯物の汚れ
黄砂による影響は、私たちの日常生活にも及んでいます。
交通機関への影響
黄砂の飛来が多いときには、霧がかかっている時と同じように、目の前の視界が遮られることもあります。
肉眼で目標物を見ることができる最大距離、「視程」が5km未満になると、交通機関に影響がでることもあるため、通勤通学に支障をきたす可能性もでてきます。
黄砂の飛来状況を事前にチェックして、早めに自宅を出る・徒歩など別の手段で出かけるといった対策をとると良いでしょう。
自動車への影響
砂埃(すなぼこり)である黄砂は車にも付着します。文字通り、黄色い汚れを肉眼で見ることができるほどです。
一般的に、車についた汚れを落とす際には傷がつかないよう、いきなり拭き取るのではなく先に水洗いをしますが、黄砂でも同じです。
しかし、黄砂は湿気を帯びると粘土状になるため、普通の汚れよりも落とすのが大変になります。
黄砂が付着したらすぐモップなどで払い落すのが理想ですが、現実には難しい場合が多いため、ワックスをかけて汚れを付きにくくしておくのも良いでしょう。
洗濯物への影響
花粉と同じように、黄砂も洗濯物に付着します。
乾いている洋服であれば、黄砂を払い落すことも可能ですが、濡れている場合は洗い直さないと取るのは難しくなります。
肌の弱い方が黄砂の付いた服を着てしまうと、かゆみや肌荒れを起こす可能性もあります。
黄砂が飛来しているときは、部屋干しするか、洗濯カバーをかけてから外干しすると安心でしょう。
黄砂の飛来状況はここでチェックできる!
気象庁『黄砂情報』では、「現在時刻から3日先まで(6時間ごと)」と「昨日から明日まで(3時間ごと)」の2パターンで、飛来状況を把握することができます。
「地表付近の黄砂の濃度」が色別で示されており、 ひと目で「黄砂が、どこで・どのくらい飛びそうか」を事前に知ることができます。
また、日本気象協会『黄砂情報』では、地方別・都道府県別における黄砂の状況も確認することができます。
自分の住んでいる場所はもちろん、旅行などお出かけ先の黄砂情報も把握できるので便利ですね。
黄砂による影響を遠ざけるためにできること~Q&Aで確認してみよう~
最後に、今回お伝えした内容を「Q&A」でまとめてみます。ぜひチェックしてみてください。
- 黄砂はなぜ体に悪いのですか?
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黄砂と一緒に大気汚染物質が飛んできたり、黄砂自体にPM2.5などの有害物質が付着しているためです。
- 黄砂はいつ飛んでいますか?
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日本では、ほぼ一年中飛んでいますが、2月頃から増えて3月から5月にかけて多く飛んでいます。
- 黄砂にはどのような対策を取ることができますか?
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できれば外出を控えるのが望ましいですが、難しい場合は次の点に気をつけましょう。
・眼鏡やマスクをつける
・外から室内に入るときは、髪や服をブラッシングする
・水や洗眼液で、目に入った異物を洗い流す
・帰宅時にはなるべく早く洗顔する
・手洗い、うがいを忘れずにする - 黄砂による人体への影響には、どのようなものがありますか?
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主に次の3点があります。
➀アレルギー疾患
目のかゆみ、結膜炎、鼻水やくしゃみといった症状を引き起こします。
➁呼吸器疾患
気管支喘息や気管支炎、肺炎の悪化が指摘されています。
③循環器疾患
黄砂が飛んだ後には、心筋梗塞の入院が増加するとの報告があります。 - 黄砂による日常生活への影響と対策を教えてください。
-
今回は、次の3点についてお伝えしました。
➀交通機関
視程が5km未満になると、交通機関に影響がでることがあります。早めに自宅を出る・徒歩など別の手段で出かけると良いでしょう。
➁自動車
黄砂が付いて車が汚れてしまいます。黄砂は湿気を帯びると粘土状になり、落とすのが大変になるため、ワックスなどコーティングをして汚れを付きにくくすると良いでしょう。
③洗濯物
乾いている洗濯物に黄砂が付いた場合は、払い落とすことができます。しかし、濡れている洗濯物の場合は、洗い直さないと取り除くのは困難です。部屋干しするか、洗濯カバーをつけてから外に干すと良いでしょう。 - 黄砂がいつ・どこまで飛ぶか、事前に知る方法はありますか?
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気象庁『黄砂情報』や日本気象協会『黄砂情報』で、黄砂の飛来状況を知ることができます。
いかがでしょう。
黄砂の影響は、決して油断できるものではありませんが、事前に備えることでその影響を最小限に抑えることもできるのではないでしょうか。
ぜひ対策をとって、この季節ならではのお楽しみとともに、日常生活をお過ごしくださいね。
【参考文献】
環境省「黄砂とその健康影響についてー2018年3月発行ー」https://www.env.go.jp/press/files/jp/108762.pdf
NHKそなえる防災|コラム「第1回 PM2.5、黄砂はなぜ体に悪いのか」https://www.nhk.or.jp/sonae/column/20130923.html
NHKそなえる防災|コラム「第3回 黄砂の仕組みとその正体 地球環境への影響」 https://www.nhk.or.jp/sonae/column/20140422.html
日本気象協会:P.M2.5分布予測について「P.M2.5とは」https://tenki.jp/docs/note/particulate-matter/
Santen「目のかゆみの発生をおさえるために知っておいてほしいこと」https://www.santen.co.jp/ja/healthcare/eye/selfcheck/itchy_eye/index7.jsp
(以上)