海外で大きな災害が発生したとき、オレンジ色の服を着た人たちが被災国にむかう様子が映し出されることがあります。
このメンバーのなかに「国際消防救助隊」とよばれる人たちがいます。
今回は「国際消防救助隊」とはどのような人たちなのか、発足のきっかけ、これまでの活動実績をお伝えします。
さらに、国際消防救助隊と似ている「国際緊急援助隊」「緊急消防援助隊」についても解説するので、ぜひあわせてご覧ください。
国際消防救助隊とは?
国際消防救助隊とはどのような人たちなのか解説します。
599名の消防隊員で構成~略称「IRT-JF」愛称は“愛ある手”
国際消防救助隊は、各消防本部から選び抜かれた隊員によって編成されており、高度な救助資機材をもちいて被災国での捜索救助活動をおこないます。
総務省消防庁によると、執筆時点(2023年2月24日)で77消防本部から599名が国際消防救助隊として登録されています。
隊員に高度な能力や技術が求められるだけでなく、隊員が所属する各消防本部も一定の条件を満たしている必要があります。
国際消防救助隊のユニフォームにつけられる緑色のワッペンには、略称「IRT-JF(=International Rescue Team of Japanese Fire-Serviceの頭文字)」の文字が、そして手を握りあうイラストが描かれています。
まさに国際消防救助隊の愛称である「愛ある手」を表現しているのでしょう。
「コロンビアの火山噴火」を機に設立~避難指示でず死者2万人の大惨事
国際消防救助隊(IRT-JF)発足のきっかけは、1985年(昭和60)11月13日に南米コロンビアで発生した火山噴火(ネバドデルルイス火山)です。
この火山噴火では、なんども噴火がくり返されたにも関わらず認識不足もあり、避難指示がだされることなく約23,000人もの命が失われました。
他国が救助隊を派遣するなか、日本はまだそのような体制は整っていませんでしたが、外務省と消防庁のあいだでは派遣の意向を確認しあったとされています。
そして実際の派遣はなかったものの、このことが契機となり発足にむけた準備がおこなわれ、翌1986年(昭和61年)4月、国際消防救助隊は派遣活動への幕あけをむかえたのです。
【参考文献】国立研究開発法人 防災科研技術研究所 自然災害情報室「1985年のルイス火山噴火と泥流」
派遣のながれ~相手国からの援助要請が大前提
国際消防救助隊(IRT-JF)の派遣には、一定の決まり(=国際消防救助隊出動体制の基本を定める要綱)がありますが、被災国での活動は、国際消防救助隊が単独でおこなうものではありません。
その活動は、独立行政法人国際協力機構(JICA:以下、JICAという)の「国際緊急援助隊(救助チーム)」のメンバーとしておこなわれます。(国際緊急援助隊について、詳しくは後述します)
そのためここでは、国際緊急援助隊(救助チーム)が派遣されるまでのながれを確認します。
◆「国際緊急援助隊(救助チーム)」派遣までのプロセス
○被災国(または国際機関)から、在被災国日本大使館などに「援助要請」
↓
○在被災国日本大使館は外務省に「要請速報」をながす
↓
○外務省は関係省庁の協議のうえ「JICAへ派遣命令」をおこなう
↓
○国際緊急援助隊(救助チーム)が現地に派遣される
国際消防救助隊の派遣は、あくまでも被災国からの要請にもとづいておこなわれます(要請主義)。
一方的な支援はかえって被災国に混乱をまねくおそれがあるのです。
国際消防救助隊の派遣は当番制
国際消防救助隊(IRT-JF)は「国際消防救助隊編成計画」によって、あらかじめ15のグループに編成されています。
派遣要請をうけた日付によって、その日の当番になっているグループが派遣されるのです。
たとえば、次項でご紹介する「ネパール地震災害」は4月25日に発生しており、派遣要請をうけて第13グループに属する7つの消防本部(東京・さいたま・浜松・川越・秋田・高崎・富山)から隊員が集結しています。
国際消防救助隊(IRT-JF)の活動実績
それでは、国際消防救助隊(IRT-JF)はこれまでに、どこの国のどのような災害で活動しているのかみてみましょう。
国際消防救助隊(IRT-JF)は発足以降、21回(令和2年11月1日現在)派遣されています。
ここではそのなかから、2回の派遣活動をご紹介します。
【参考文献】総務省消防庁:令和2年版 消防白書「4.派遣実績」
「ネパール地震災害」最長の派遣期間
ネパール地震は、2015年(平成27年)4月25日に発生したマグニチュード7.8の大地震で、首都カトマンズを中心に死者8,000人を超える甚大な被害が発生しました。
現地空港の混乱で、予定より1日遅れた被災地入りでしたが、事前の情報収集もあり到着後はもっとも迅速な捜索救助活動を開始し、過去最長(※追加派遣をのぞく)2週間の派遣期間となりました。
○派遣人数および隊員の所属元
【参考文献】総務省消防庁:平成27年版 消防白書「1.ネパール地震災害に対する国際緊急援助隊救助チームの派遣」
「メキシコ地震災害」アジア圏唯一の派遣活動
メキシコ地震(2017年/平成29年9月20日発生、マグニチュード7.1、死者333名)では、9月21日~28日の8日間派遣され、現地で活動をおこないました。
メキシコ政府は、“国際緊急援助は原則不要”というメッセージを国際社会に発信していました。
しかし、日本に対してはその災害対応能力を評価し、アジア圏で唯一の派遣要請をおこなったのです。
○派遣人数および隊員の所属元
【参考文献】
*消防の動き ’17 年 11月: 特報2「 メキシコ地震災害に対する国際消防救助隊 の活動概要」
*消防庁災害対策室「メキシコにおける地震被害に対する国際消防救助隊の派遣について(最終報)」
国際消防救助隊と混同しやすい2つの援助隊
ここからは、国際消防救助隊と言葉が似ている「国際緊急援助隊」と「緊急消防援助隊」について、簡単に解説します。
国際緊急援助隊(JDR)救助チーム
「国際緊急援助隊(JDR=Japan Disaster Relief Teamの頭文字)」は、JICAが被災国に対しておこなう人的支援です。
外務省からの派遣命令をうけて、JICAが派遣の手続きや資機材の準備をします。
今回お伝えしている「国際消防救助隊(IRT-JF)」は、この国際緊急援助隊(JDR)のなかの「救助チーム」の一員です。
ほかにも警察や海上保安庁などの隊員がメンバーになっています。。
救助チームは派遣が決定されてから24時間以内に出発、発災後72時間以内に活動がおこなわれます。
日本の能力は最高評価をうけている
日本の国際緊急援助隊(JDR)は、被災地における活動のルールや体制づくりをおこなっている「国際捜索・救助諮問グループ」がおこなう能力評価試験において、3段階(ライト・ミディアム・ヘビー)のなかの最高評価(=ヘビー)をうけています(2010年3月・2015年更新)。
ヘビーでは、独自に活動ができる総合能力や、24時間体制における10日間の連続可能能力などが求められています。
緊急消防援助隊
緊急消防援助隊は、国内で発生した大規模災害や特殊災害において、被災地の消防機関だけでは対処できないときに駆けつけてくれる人たちです。
国際消防救助隊(IRT-JF)が世界の被災地で活動するのに対し、緊急消防援助隊は国内の被災地をささえています。
緊急消防援助隊は、1995年(平成7年)1月17日に発生した阪神淡路大震災(マグニチュード7.3、最大震度7、死者行方不明者6437名)の教訓をもとに、同年発足されました。
これまでに、JR西日本福知山線列車事故や平成30年7月豪雨など、合計43回(令和4年1月末まで)の出動実績があります。
【参考文献】消防防災博物館「緊急消防援助隊」
国際消防救助隊(IRT-JF)からのバトンを受けとる
海外でおきた災害に対して「何とかしてあげたい」という想いはあっても、わたしたちが現地に行くことは簡単ではありません。
発生直後は早急に救える命をみつけだすことが不可欠であり、それを命がけでおこなっているのが「国際消防救助隊(IRT-JF)」です。
支援のスタートをきったのは、国際消防救助隊(IRT-JF)をはじめとする国際緊急援助隊(IDR)の人たちですが、家族や生活の場を失った人たちへの支援は、その先、何年何十年にもわたってつづくものです。
その支援は、わたしたちが「国際消防救助隊(IRT-JF)」の人たちからバトンを受けとってできること、なのかもしれません。
それぞれができる“バトンをつなぐ取りくみ”を見つけてみませんか?
【参考文献】
消防防災博物館「国際消防救助隊」
総務省消防庁「消防庁の組織および所掌業務」
独立行政法人 国際協力機構(JICA)「国際緊急援助隊(JDR)について」
独立行政法人 国際協力機構(JICA)「派遣までのプロセス(国際緊急援助隊)」
imidas「国際捜索・救助諮問グループ(INSARAG インサラッグ)」
外務省:会見・発表・広報/国際協力「第2章 国際緊急援助隊制度の概要」
国際緊急援助隊の派遣に関する法律
(以上)