日本海溝および千島海溝では、北海道から千葉県沖という長い区間において巨大地震の発生が懸念されています。
しかし日本周辺には、日本海溝と千島海溝をふくめて4つの「海溝」があり、さらに2つの「トラフ」もあります。
今回は、海溝・トラフの定義や場所を確認しつつ、そこで発生または今後懸念されている地震について解説します。
日本に巨大地震をもたらす海底の地形について学んでみましょう。
海溝の定義と海溝型地震について
はじめに、海溝の定義そして海溝型地震について簡単に確認しましょう。
海溝とは海底6,000m以上の凹地
コトバンクでは、次のように説明されています。
比較的急な斜面に囲まれた、細長い深海底の凹地。多くが深さ6000メートル以上を示し、長さは数百キロから数千キロに及ぶ。海洋プレートが沈み込む境界と考えられ、陸側は地震活動が活発。
出典:コトバンク デジタル大辞典「海溝」
ポイントをまとめてみましょう。
◇海溝とは?
1.深海(主として6000m以上)にある細長い窪地
2.長さは数百km~数千km
3.急な斜面に囲まれている
4.海洋プレートが沈み込む境界である
「海洋プレートが沈み込む境界」という点が、次の海溝型地震のメカニズムと関連しているのです。
海溝型地震のメカニズム
日本列島は4枚のプレート(地殻)にのっており、プレートは少しずつ動いています。
ほとんどの海溝では海洋プレートが大陸プレートの下にもぐりこんでいくため、その境界にはひずみがたまっていきます。
そして、長い年月を経てそのひずみが一気に開放されることで、巨大地震の発生につながるとされているのです。
この地震が海溝型地震であり、震源が海底になるため津波の発生にも備えなければなりません。
では次に、日本周辺にある海溝をプレートそして地震との関係からみていきましょう。
日本周辺に4つの海溝~プレートの動きにともなう巨大地震への懸念
日本列島は、下のイラストのとおり4つのプレートにまたがっています。
それでは、これらのプレートと日本周辺にある海溝について解説します。
「日本海溝」は太平洋プレートと北米プレートの境界
日本海溝は、北海道の襟裳岬(えりもみさき)沖から千葉県の房総半島(ぼうそうはんとう)沖までつづいており、最深部では8,058メートル・長さ800キロとなっています。
日本海溝は太平洋プレート(海洋プレート)と北米プレート(大陸プレート)の境界に位置しており、東日本大震災(2011年3月11日発生、最大震度7,マグニチュード9.0)をもたらした東北地方太平洋沖地震の震源があります。
千島海溝と接することから、今後の巨大地震が懸念されています。
日本海溝の北に位置する「千島海溝」
日本海溝の北端で接しているのが「千島海溝」です。「千島カムチャツカ海溝」ともよばれ、最深部では9,550メートル・長さは2200キロメートルになります。
千島海溝も日本海溝と同様、太平洋プレート(海洋プレート)と北米プレート(大陸プレート)の境界に位置しており、1952年(昭和27年)の十勝沖地震(マグニチュード8.2)では、地震発生のおよそ5分後には襟裳岬(えりもみさき)周辺に津波が到達したとされています。
この海域では、350年前後の間隔で超巨大地震が発生していることが明らかになっており、すでに前回の地震から400年以上が経っているため、現在は「いつ巨大地震がおきてもおかしくない」と言われています。
政府は「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策計画」を策定・改正をおこない、想定をこえる規模の地震が発生する可能性もあるとの認識を示しています。
南西諸島海溝(琉球海溝)
南西諸島海溝は、大小2500ほどの島々からなる南西諸島の東側にある海溝で「琉球海溝」ともよばれています。
フィリピン海プレート(海洋プレート)とユーラシアプレート(大陸プレート)の境界に位置しており、最深部では7,460メートルとなります。
南西諸島海溝については、当初巨大地震の発生は考えにくいとされていました。しかし、琉球大学・名古屋大学・静岡大学の調査によって、この海域においても海溝型地震を引き起こすプレートの動きが明らかにされています。
まだその全容は解明されていませんが、引きつづきの調査と起こり得る地震・津波災害への対策が求められています。
日本海溝の南に位置する「伊豆・小笠原海溝」
日本海溝と南端で接するのが「伊豆・小笠原(いずおがさわら)海溝」です。
最深部では9,780メートルと日本周辺にある海溝のなかでもっとも深く、海溝の南端は世界でもっとも深い海底があるとされる「マリアナ海溝(最深部10,920m)」と接しています。
伊豆・小笠原海溝はほかの3つの海溝とは異なり、唯一、海洋プレート同士(太平洋プレート・フィリピン海プレート)の境界に位置しています。
この海溝付近における巨大地震の発生は知られていませんが、関東大震災をもたらした関東地震(1923年/大正12年9月1日発生、マグニチュード7.9)では、伊豆諸島にまで津波が押しよせています。
また、火山活動にともなう地震によっても被害が生じる可能性があるとされています。1986年(昭和61年)に発生した「伊豆大島噴火」では全島民が避難を余儀なくされました。また、2022年(令和4年)1月4日には、父島近海でマグニチュード6.1、最大震度5強の地震が観測されています。
南海トラフ・相模トラフも海溝型地震を発生させる
巨大地震の発生に関しては、南海トラフ・相模トラフによる海溝型地震の発生も懸念されています。
ここでは、海溝とトラフの違い、そして南海トラフ・相模トラフの概要を確認しましょう。
海溝とトラフの違い
「トラフ」とは、海溝と同じく海底における窪地のことですが、窪地の両側にある「傾斜の角度」と「幅の広さ」に違いがあります。
海溝の傾斜は“急”なことが特徴でしたが、トラフでは海溝より傾斜が“なだらか”であり、その幅は“広い”という特徴があります。
そして、南海トラフも相模(さがみ)トラフも、海洋プレートと大陸プレートの境界に位置しているため、巨大地震の発生が懸念されているのです。
「南海トラフ地震」予想される死者数の8割減が目標
南海トラフは、駿河湾(するがわん:静岡県)から日向灘沖(ひゅうがなだおき:宮崎県)に位置しており、フィリピン海プレート(海洋プレート)とユーラシアプレート(大陸プレート)の境界にあたります。
南海トラフ地震による被害の大きさはあらゆる機会で発信されていますが、国は32万人とも予想される死者数を10年間の防災対策で8割減らすことを目標としています。
2024年(令和6年)にこの10年目を迎えることから、国は進捗状況の確認手法や次の目標設定にむけた、新たな検討を立ち上げています(2023年2月3日第1回検討会が実施)。
関東大震災を発生させた「相模トラフ」
相模(さがみ)トラフは、日本海溝と伊豆・小笠原諸島の接点から相模湾につながる場所に位置しており、フィリピン海プレート(海洋プレート)と北米プレート(大陸プレート)の境界にあたります。
関東大震災(1923年/大正12年9月1日発生、マグニチュード7.9)をもたらした地震が相模トラフによる地震ですが、近年では南海トラフ地震によって相模トラフ地震が誘発される可能性が危惧されています。
まとめ
海溝とは海底にできている凹地のことで、プレートの境界に位置しています。両側は急な傾斜となっている点において、トラフとは区別されています。
日本周辺には、次の4つの海溝と2つのトラフがあります。
◇日本周辺にある「海溝」と「トラフ」
・日本海溝
・千島海溝(千島カムチャツカ海溝)
・南西諸島海溝(琉球海溝)
・伊豆・小笠原海溝
・南海トラフ
・相模トラフ
もっとも深い海溝は、伊豆・小笠原海溝の9,780メートルであり、この海溝は南端でマリアナ海溝(最深部10,920メートル)と接しています。
いずれの海溝・トラフも各プレートの境界に位置しており、直接または間接的であっても巨大地震による被害が懸念されています。
本記事をとおして海溝・トラフという海底の地形について学び、それらがもたらす地震について、今一度考えるキッカケとなれば幸いです。
【参考文献】
コトバンク「海溝」「日本海溝」「トラフ」「相模トラフ」
goo辞書「千島カムチャツカ海溝」
小学館「海溝とは? トラフや海嶺との違い・海溝型地震のメカニズムもチェック」
ほっかいどうの防災教育ポータルサイト【地震・津波】1952年十勝沖地震
琉球大学「沖縄本島南方沖で海溝型巨大地震を引き起こすプレート間の固着域を発見」
地震調査研究推進本部「伊豆諸島及び小笠原諸島の地震活動の特徴」
内閣府 防災情報のページ「南海トラフ巨大地震モデル・被害想定手法検討会」
NEWSポストセブン:南海トラフ地震 「相模トラフ」と連動なら死者50万人近くの予測も
内閣府 防災情報のページ「3-7 十勝沖地震」
(以上)