天気予報でエルニーニョ現象が取りあげられるとき、冷夏や暖冬といった日本への影響が指摘されます。
日本にかぎらず、世界中に影響をおよぼすエルニーニョ現象ですが、実はなぜ起きるのかハッキリ解明されていません。
ですが、エルニーニョ現象がおきたとき、大気や海洋には明らかな変化がみられるとされています。
そこで今回は、エルニーニョ現象とは何か、そして、どこでどのような変化がおきているのかを、5つのキーワードで解説します。
それによって日本の天候に与える影響もみえてくるので、ぜひ最後までご覧ください。
エルニーニョ現象の定義を3つのキーワードで解説
エルニーニョ現象に世界共通の定義はありませんが、日本では気象庁が次のように定めています。
エルニーニョ現象とは、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象です。
引用:気象庁「エルニーニョ現象/ラニーニャ現象とは」より ※太字は筆者加筆
言い換えると、「ある一定の海域において、海面水温が高くなっている状態」と言えそうですが、より詳しく知るためキーワードを用いながら解説していきましょう。
そのキーワードとは、「海域」「海面水温」そして「期間」です。
キーワード➀ 海域:太平洋中部から南米ペルー沖
1つ目のキーワードは「海域」です。広い世界の海のなかで、エルニーニョ現象はどの海域の海面水温と関わりがあるのでしょう。
先ほどの気象庁の定義では、『太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸』となっていました。
地図上で確認してみましょう。
赤い線で囲まれた四角形が3つあります。
このうち、一番右側の四角形が、気象庁の定義で示している海域であり、「エルニーニョ監視海域(NINO.3)」とよばれています。
そして、中央の四角形は「西太平洋熱帯域(NINO.WEST)」とよばれ、後述する、積乱雲の発生と関係する海域となります。(左の四角形は「インド洋熱帯域(IOBW)」)
ちなみに、エルニーニョ監視海域は、『南緯5度−北緯5度、西経150度−西経90度』です。赤道付近はわかりやすいですが、経度がイメージしずらいので例をあげておきましょう。
『西経150度−西経90度』の近くには、日本人にもお馴染みの「ハワイ島が西経157度」、珍しい生き物が多く生存する「ガラパゴス諸島が西経89度」でした。
キーワード➁ 海面水温:6か月以上つづけて +0.5℃以上
2つ目のキーワードは「海面水温」です。先ほどの気象庁の定義では『海面水温が平年より高く』となっていました。一体どのくらい高くなったときなのでしょう。
気象庁によると、平均の海面水温が『6か月以上続けて +0.5℃以上となった場合』とされています。
この基準にかかわる“1か月”のとらえ方ですが、一般的な解釈とは異なるため、少し詳しく解説します。
エルニーニョ現象で使われる“1か月“の値は、該当する月の“前後2か月を含めた5か月の平均値”のことです。
この平均値は「5か月移動平均値」とよばれています。
下の表で、確認してみましょう。
表ではまず、各月の基準値(=前年までの30年間の海面水温を平均した値※上記出典元より引用)との差が示されています。
そして、この基準値との差をもとに、“10月”の5か月移動平均が示されているのです。つまりこの値は、8月~12月の5か月の平均値になっています。
少し複雑ですが、知っておくことで、天気予報でエルニーニョ現象が解説されたとき、より理解が深まるのではないでしょうか。
キーワード③ 期間:1年以上つづくこともある
3点目のキーワードは、エルニーニョ現象が発生する「期間」です。
気象庁の定義では「1年程度続く」となっています。
では、実際過去に発生したエルニーニョ現象はどのくらいの発生期間だったのか、気象庁が発表しているデータで確認してみましょう。
◆エルニーニョ現象の発生状況
発生期間 | 季節数 | 差の最大値(月平均) |
1982年春~1983年夏 | 6 | +3.3 |
1986年秋~1987年/88年冬 | 6 | +1.7 |
1991年春~1992年夏 | 6 | +1.6 |
1997年春~1998年春 | 5 | +3.6 |
2002年夏~2002/03年冬 | 3 | +1.4 |
2009年夏~2010年春 | 4 | +1.4 |
2014年夏~2016年春 | 8 | +3.0 |
2018年秋~2019年春 | 3 | +1.1 |
表では、エルニーニョ現象の発生期間が「季節単位(季節数)」で示されています。さらに、発生期間中の海面水温のなかで、基準値との差がもっとも大きかった値を「差の最大値」として表記しています。
これを見ると、1982年から現在(2023年1月)まで、約40年間でエルニーニョ現象は8回発生しています。
そのうち6回が1年以上(季節数が4以上)であり、もっとも長いときでは2年間(
2014年夏~2016年春)も続いています。ここまで、エルニーニョ現象の意味を解説しました。
次に、エルニーニョ現象が発生しているときの変化についてみてみましょう。
エルニーニョ現象がおきるとどのような変化がおきているのか?
実は、なぜエルニーニョ現象がおきるのか、まだハッキリ解明されていません。
そこでここでは、エルニーニョ現象がおきているとき、大気や海洋ではどのような変化がおきているのかを、2つのキーワードをつかって解説します。
キーワード④ 貿易風:何らかの理由によって風が弱まる
エルニーニョ現象がおきると、エルニーニョ監視海域(太平洋の東)の海面水温は高くなりますが、西太平洋熱帯域の海面水温は低くなるとされています。
それは、何らかの理由によって「貿易風が弱まる」ことに関係しています。
貿易風は東風ともよばれ東から西に吹いています。そのため、通常、太平洋熱帯域にある暖水は西に寄せられていきます。
それが、エルニーニョ現象で貿易風(東風)が弱まると、暖水が通常より西に寄せられず、その結果、海面水温が低くなるとされているのです。
さらに、暖水となる範囲が通常より東の海域まで広がります。
キーワード⑤ 積乱雲:海面水温が低く発達しない・東にずれこむ
熱帯域の暖かい海面では、水分が蒸発して「積乱雲」を発生させます。積乱雲は台風の発生など世界各地の天候に影響をおよぼすものです。
では、エルニーニョ現象によって、積乱雲にどのような変化があるのでしょうか。
まず、先ほどお伝えしたように、西太平洋熱帯域の海面水温は低く、通常より積乱雲の発生が弱まっています。
そして、エルニーニョ現象によって暖水が通常より東にまで移動しているため、積乱雲の発生位置も東に広がっています。上のイラストでも、この点を確認することができますね。
ここまで、貿易風そして積乱雲をキーワードに、エルニーニョ現象についてお伝えしました。
では次に、エルニーニョ現象がもたらす日本への影響についてみてみましょう。
エルニーニョ現象が日本の夏(冬)にあたえる影響とは?
エルニーニョ現象がおきると、一般的に日本は「冷夏・暖冬」と言われます。
なぜそのようになるのか、それにはいくつかの要素が関係しているとされています。
そこでここでは、太平洋高気圧と偏西風との関係から解説しましょう。
日本の夏:高気圧におおわれにくくなる
通常、夏は太平洋高気圧が日本列島をおおっているため、日本は熱くなります。
しかし、エルニーニョ現象によって熱帯域における積乱雲の発生が弱まると、太平洋高気圧は日本列島までとどかず、その結果、日本はいつもより熱くならないとされているのです。
日本の冬:偏西風が北上し寒気が入りにくくなる
一方、冬はどうでしょう。
エルニーニョ現象では、暖水が通常より東に広がるため、積乱雲の発生場所も変わります。そのため、日本列島付近では偏西風が通常よりも北上するとされています。
その結果、シベリアからの寒気が流れ込みにくくなり、日本は暖冬になるとされているのです。
まとめ|何となくわかるエルニーニョ現象を「なるほど!」に変えよう
エルニーニョ現象とは「太平洋熱帯域において東の海面水温が高くなり、西では低くなる現象」です。
その発生理由はハッキリ解明されていないものの、日本そして世界の天候に影響をおよぼします。
以下に、今回お伝えした内容を「5つのキーワード」をふまえてまとめます。
◆エルニーニョ現象とは・・
◆エルニーニョ現象がおきると・・
その結果、
◆エルニーニョ現象、日本への影響は・・
天気予報を見聞きしていると、最初は聞き慣れない用語であっても、そのうち「何となく」わかる気がしてくるものです。
そして、ときにその「何となく」を詳しく調べてみると、「なるほど!」と納得するだけでなく、意外な発見があったりもします。
本サイト内には、“気候”についてとりあげた記事が29本あります(2023年1月16日時点)。
これからも、さまざまな「何となく」を「なるほど!」に変えるため、これらをぜひご活用くださいね。
【参考文献】
気象庁「エルニーニョ/ラニーニャ現象とは」
気象庁「よくある質問(エルニーニョ/ラニーニャ現象)」
NHK/ミガケ、好奇心!時事もんドリル「エルニーニョ現象って?」
NIKKEI STYLE「なぜエルニーニョ現象が起きると暖冬に?」
(以上)