身近な用語の意味を解説する、今回のテーマは「太平洋高気圧」。
2023年は9月になっても各地で“猛暑日”を観測しました。
このような暑さをもたらす背景には太平洋高気圧の存在があります。そして、太平洋高気圧は“大雨”という災害につながる現象の発生にも関係しているのです。
そこで今回は、太平洋高気圧が影響をもたらす「3つの現象」についてお伝えします。
太平洋高気圧は一年中発生しているため、天気予報でたびたび耳にすることが多いものです。
ぜひ本記事を参考に太平洋高気圧が与える日本への影響を知り、災害に備えていきましょう。
太平洋高気圧とは?
はじめに太平洋高気圧の全体像をイメージしやすいよう、“太平洋”の場所を確認しておきましょう。
“太平洋”の場所をおさらい
太平洋は日本列島の東からアメリカ西海岸にかけた一帯です。
日本は北太平洋に位置していますね。
太平洋高気圧は中緯度にあらわれる高気圧
では、本題の太平洋高気圧についてです。
コトバンクでは次のように説明しています。
北太平洋に現れる亜熱帯高気圧。中心部はハワイ諸島北側の東太平洋上。
コトバンク:デジタル大辞泉「太平洋高気圧」より引用 ※太字は筆者加筆
「亜熱帯高気圧」とは、次の意味です。
南北両半球の緯度30°付近の亜熱帯にある背の高い温暖高気圧で,中緯度高気圧ともいう。
コトバンク百科事典マイペディア「亜熱帯高気圧」 より引用 ※太字は筆者加筆
これらの説明をもとに言い換えると、太平洋高気圧とは「中緯度にあたる北太平洋にあらわれる高気圧」となるでしょう。
太平洋高気圧の中心がハワイ諸島ということですから、非常に大きな高気圧となっています。
小笠原高気圧は太平洋高気圧の一部
このように大きな太平洋高気圧ですが、その中心が日本の小笠原諸島付近にある高気圧を「小笠原高気圧」とよんでいます。
もともとはおなじ太平洋高気圧なのですが、小笠原高気圧を強調したいときに用いるとされています。
太平洋高気圧が何かを確認したところで、日本への影響についてみていきましょう。
太平洋高気圧の張り出しが「夏の暑さ」に影響する
太平洋高気圧が日本に与える影響、1つ目は「日本の夏の暑さ」です。
2023年の夏は過去125年間でもっとも暑かった
上の画像は、2023年6月20日ウエザーニュースの記事に掲載されたものです。
この記事では、今年は太平洋高気圧の勢いが強くなるため、7月8月はもちろん9月になっても前半は残暑が厳しいと予想していました。
事実、気象庁の発表(9月1日)によると、6月から8月の平均気温は、過去125年間のなかで最も高くなったというのです。
9月18日に日本でもっとも暑かったのは岩手県
そして、9月になっても暑さは続き、お彼岸直前の9月18日でさえも、35度以上の猛暑日となる地域がみられたのです。
しかもこの日、全国でもっとも最高気温が高かったのは、なんと東北地方の岩手県。
この日、岩手県釜石市では36.4度を記録(※1)し、この値は前年(2022年)9月にもっとも暑かった日の最高気温31.5度(※2)を上回ったのです。
【参考文献】
※1:気象庁|釜石(岩手県) 2023年9月(日ごとの値)主な要素/9月19日現在
※2:気象庁|釜石(岩手県) 2022年9月(日ごとの値)主な要素
2022年の天気図と比較すると一目瞭然
では、この日(2023年9月18日)はどれだけ太平洋高気圧の勢いが強かったのでしょう。
日本気象協会のサイトから、昨年の天気図と見比べてみましょう。
■2022年9月18日の天気図
この日の天気図では、太平洋側の等圧線の間隔は比較的細くなっています。
では、今年2023年同月同日の天気図はどうでしょう。
■2023年9月18日の天気図
2023年の天気図では、太平洋側の等圧線の間隔は前年よりも広くなっているのがわかります。
このように、太平洋高気圧の勢いが強くなる(張り出す)とともに、日本の夏はより暑くなるのです。
「台風の進路」は太平洋高気圧の影響をうける
太平洋高気圧がもたらす2つ目の影響は「台風の進路」です。
台風は赤道付近の熱帯地方の海上で発生し、周辺の風や気圧配置に関連して移動します。
そのため、日本に台風がどのくらい近づくのか、または上陸するのかは、太平洋高気圧の勢力によって変わってくるのです。
この点がよくわかるケースをご紹介しましょう。
太平洋高気圧が張り出し、台風は日本を通過せず
上の画像は、2020年10月24日ウエザーニュースの記事に掲載されたものです。
本来、太平洋高気圧は秋が近づくにつれて勢いは弱まります。
しかし、このときの太平洋高気圧は平年よりも大きく西側に張り出していたのです。
そのため、日本の南海上で発生した台風は太平洋高気圧の縁にそって西よりに移動し、日本に近づくことはありませんでした。
もちろん、このケースとは反対に、太平洋高気圧の張り出しが小さいときは台風は日本に近づくでしょう。
太平洋高気圧は「停滞前線の発生」に関係する
太平洋高気圧が日本にもたらす3つ目の影響は「停滞前線の発生」です。
前線とは異なる性質をもつ空気が接することで生じますが、停滞前線とは『ほぼ同じ位置にとどまっている前線※』のことです。※気象庁「気圧配置 気団・前線・気圧配置・天気図・気圧系の発達、移動に関する用語」より引用
停滞前線には、5月から7月頃に発生する「梅雨(ばいう)前線」と、8月の終わりから10月末の「秋雨(あきさめ)前線」があります。
梅雨をもたらす梅雨前線(ばいうぜんせん)
日本では本格的な夏のまえに梅雨時期をむかえ、大雨による災害をもたらすことがあります。
このような雨をもたらす原因には梅雨前線が関係しているのです。
日本では春から夏に季節がうつるとともに、太平洋高気圧の勢いが大きくなっていきます。
そして、北からの「冷たい空気」をともなうオホーツク海高気圧と接することで、前線(=梅雨前線)が生じるのです。
太平洋高気圧がもたらす「温かい空気」と、オホーツク海高気圧の「冷たい空気」がぶつかることで、前線ができます。
秋を告げる秋雨前線
季節がうつるとともに太平洋高気圧の勢力は増して梅雨前線は解消、日本は本格的な夏をむかえます。
この「夏の暑さには太平洋高気圧が関係している」こと、そして「秋が近づくと太平洋高気圧の勢いが弱まる」ことは、すでにお伝えしたとおりです。
そして、秋が近づくこの時期には移動性高気圧が「冷たい空気」をもたらし、太平洋高気圧の「温かい空気」とぶつかり、前線(=秋雨前線)が発生するのです。
秋雨前線が停滞する期間は梅雨前線より短いといいます。しかし、この時期は台風の発生と重なるため、やはり大雨への備えが必要になります。
まとめ|太平洋高気圧の影響を念頭に天気予報をチェックしよう!
今回は、太平洋高気圧がもたらす日本への影響についてお伝えしました。
簡単にまとめると、次のとおりです。
◆太平洋高気圧がもたらす日本への影響
- 春から夏にかけて「梅雨前線(ばいうぜんせん)」を発生させる。
- 夏には、太平洋高気圧の張り出しが「暑さに影響」し、猛暑となることもある。
- 夏から秋にかけて、太平洋高気圧の勢力が「台風の進路」に影響する。
- 秋には「秋雨前線(あきさめぜんせん)」を発生させる。
これらを見ると、太平洋高気圧は梅雨や台風が発生する頃には「大雨」による災害、そして夏には「猛暑」という新たな災害の発生に関係していることがわかります。
地震や噴火といった災害はいつおこるかわかりません。しかし、台風や猛暑は天気予報をチェックすることで発生を予想し、あらかじめ備えることができます。
「太平洋高気圧」は天気予報でたびたび耳にする言葉です。もちろん、そのすべてが災害につながるものではありませんが、天気予報をチェックするときには「太平洋高気圧」がもたらす影響を念頭におき、備えに生かしていただけると幸いです。
【参考文献】
*気象庁|気圧配置 気圧・高気圧・低気圧に関する用語
*TBS NEWS DIG「9月なのに暑いぞ岩手!釜石市は全国トップの36.4度 猛暑日地点続出」
*東京新聞 TOKYO Web「台風の進み方 太平洋高気圧が影響」
*日本気象協会|2023年秋 台風発生・接近数は平年並みか少ないものの接近時は勢力強くなりやすい
*NHK|梅雨前線と秋雨前線の違い
(以上)