災害用語を解説する、今回のテーマは「事前復興(じぜんふっこう)」。
もしあなたがいま大災害に遭ってしまったら、新たな生活はどこでどのようにスタートするかイメージできるでしょうか?
事前復興は、この被災後の生活にそなえるために必要なとりくみです。実際にその計画をたてたり体制をととのえるのは行政ですが、被災後の生活に関わる大事なことは、わたしたち住民も知っておく必要があります。また、そのとりくみは住民(地域)の声を無視してはできないものです。
そこで今回は、事前復興が必要とされる背景をふまえつつ、事前復興とはなにか?を解説します。さらに、事前復興のとりくみを具体的にイメージできるよう、被災後のまちをイラストと共に説明するリーフレットを作成した「和歌山県太地町」の事例をご紹介します。
本記事の事前復興の解説をとおして、「自分の住む地域が被災したらどうなる?」を考える、ひとつのキッカケにしてみませんか?
事前復興の定義
はじめに事前復興の定義を確認しましょう。
調べてみると、大枠では「災害がおきるまえにとりくむ復興(都市計画やまちづくり)」なのですが、具体的には自治体や研究者によって微妙に異なっています。
さらに、国は事前復興という言葉自体つかっていません。
国は「復興事前準備」としている
国土交通省のサイトでは「都市防災」のなかに「復興事前準備」というページがあります。そして、次のように定義されているのです。
◆「復興事前準備」の定義
平時から災害が発生した際のことを想定し、どのような被害が発生しても対応できるよう、復興に資するソフト的対策を事前に準備しておくこと
国交省|都市防災「復興事前準備」より引用 ※太字は筆者加筆
防潮堤の建設や住宅の耐震化といったハード的対策にたいして、事前復興はソフト的対策となります。
それは市町村における復興の目標であったり目指すべき被災後のまちの姿、あるいはどの部署がなにを担当するのかといった体制や手順などもふくまれます。
本記事では「復興事前準備」の定義もふくめて「事前復興」という言葉をつかい解説します。
防災・減災対策との違い
災害への対策と言えば、防災や減災対策という言葉があります。
事前復興を理解するためにも、簡単に「防災対策」「減災対策」について確認しておきましょう。
防災対策
防災対策は「災害による被害がおきないようにするため」のとりくみです。たとえば建物の耐震化や防潮堤の建設など、おもにハード面にたいしてつかわれます。
減災対策
減災(※本サイト内関連記事)は被害が発生することは前提として「被害をできるだけ最小限にするため」のとりくみです。個人レベルで考えると、たとえばハザードマップで自宅の危険度や避難場所を把握することも、減災へのとりくみになります。
事前復興は防災・減災対策とともにすすめる
防災・減災対策どちらも災害に備えるには必要なことです。そして、これらと並行して事前復興はおこなうものとされています。
事前復興は「災害がおこったとき早く復興できるようにするため」のとりくみです。
災害がおこるまえから、被害をうけた街をどうやって立て直していくか、住民の生活再建はどうするか?その目指すべき姿を行政・住民・企業等で確認しあい、計画をたてて進めるのです。
事前復興が必要な理由~東日本大震災でおきたこと
事前復興という概念は、1995年発生の阪神・淡路大震災(マグニチュード7.3、最大震度7)の教訓からうまれたとされています。
しかし、2011年発生の東日本大震災(マグニチュード9.0、最大震度7)では事前復興がおこなわれていなかったために生じた課題があるのです。
仮設住宅を建てる土地が見つからない
東日本大震災では甚大な津波被害のため、多くの仮設住宅が必要とされました。
しかし、そもそも地域の大部分が被災しており建設できる土地がなかったり、必要戸数が確保できないといった問題が生じたのです。
その結果、長いあいだ避難所での生活を余儀なくされる人たちがでてしまいました。
このような事態を避けるため、行政があらかじめ地域内にある高台を建設用地として確保したり、足りない分は隣接する市区町村と連携するなどの対策が求められているのです。
防潮堤の建設まで多くの時間を要した
海岸に建てられる防潮堤には、津波から住民の命と暮らしを守る役目があります。
しかしそれは同時に、動植物の住処である自然環境が失われたり、美しい景観がそこなわれることにもつながるのです。
東日本大震災の被災地では防潮堤の建設をめぐって住民から反対の声があがり、完成まで何年もの時間を要した地域がありました。
もちろん、建設に至るまでには住民への丁寧な説明や意見の反映が必要です。
そのため、ある程度の時間がかかるからこそ、災害がおきるまえの段階からステップをふみ着実にとりくむ必要があるのでしょう。
事前復興の事例|和歌山県太地町
ここからは事前復興にとりくんでいる「和歌山県太地町※」のとりくみをご紹介します。
太地町では被災後どのように町そして生活を再建していくかについて「事前復興計画」をたてました。
そして、その主な内容をイラストで説明したリーフレット『復興後の太地のすがた』を作成したのです。
※和歌山県太地町は南海トラフ地震において、津波避難対策を強化すべき地域(=南海トラフ地震津波避難対策特別強化地域)に指定されています。
津波がくるまえに検討しておくこと
まずリーフレットでは事前復興を次のように定義しています。
本町の事前復興は、 原則として“被災後にまちをつくりかえることを、津波が来る前にあらかじめ検討しておくこと”とご理解ください。
『復興後の太地のすがた(令和4年3月)』2頁 より引用
ただし事前に準備できること、すべきことは被災前に順次取組んでいきます。
太地町は南海トラフ地震において「津波避難対策を強化すべき地域(=南海トラフ地震津波避難対策特別強化地域)」に指定されています。
そのような地域において、まずは事前復興の意義をしっかり住民に提示しているのです。
現計画は住民との話し合いの“材料”
そして、その目的が次のように明記されていいます。
現段階のイラストはあくまで行政や専門家によって話し合われた絵姿にすぎないと考えています。
『復興後の太地のすがた(令和4年3月)』2頁 より引用 ※太字は筆者加筆
今後、住民のみなさまへ説明しご意見をいただき、ともに話し合いながらよりよい「復興後の太地のすがた」 をみなさまとともにつくりあげていくための材料と捉えていただければ幸いです。
行政は平時より各計画をもとにまちづくりをすすめています。しかし住民からすると、その計画や進捗状況は“わかりづらく見えにくい”、という側面もあるのではないでしょうか。
その点、あらかじめ計画の軸をイラストで示し、かつそれは行政と住民が話し合う“材料”であると伝えていることは、住民の安心にもつながることでしょう。
被災後の暮らしが具体的にイメージできる
さらにリーフレットには、被災後のまちづくりや復興にむけたとりくみも具体的に示されているのです。
たとえば、漁業・水産加工施設が速やかに復旧できるよう『用地確保やアクセス道路を優先整備』するとしています。
そして、被災後の暮らしについては盛土した地区へまちの機能や住宅を誘導すべく、商業施設を誘致することなどが示されているのです。
とはいえ、いま住んでいる場所をはなれることは、もちろん簡単なことではないでしょう。ですが、被災後に同じ場所で再建できるのか、それとも住むことはできない土地(=災害危険区域)に指定されるのか、それによって備えも変わってきます。
だからこそ、災害がおきるまえに被災後のまちの姿がある程度でもイメージできることは、生活再建にとって重要なのです。
事前復興のサポート内容からとりくみをイメージ
事前復興のとりくみは市町村の規模や予算・想定されている災害の規模や種類によっても変わってくるでしょう。
また、それまで大きな災害を経験していない市町村では、事前復興といわれても被災後の混乱や目指すまちの姿がイメージできにくいかもしれません。
国土交通省では事前復興のノウハウを伝えられる「復旧・復興まちづくりサポーター制度」をはじめました。
サポーターとなっているのは地方公共団体の職員やOBであり、実際に被災地で復興にとりくんだ実績や復興マニュアルの策定にとりくんだ人などです。
1人ひとりの実績や対応可能なサポートは、こちらのPDF資料で確認できます。
そこに書かれている実績やメッセージを読むと、たとえ行政職員でなくとも復興になにが必要なのか、どうとりくんでいくのかが、何となくイメージできるかもしれません。ぜひご覧になってみてはいかがでしょう。
【参考文献】
*国土交通省|都市防災「復興事前準備」
*国土交通省|第4章:復興事前準備の取組事例集
*国土交通省|都市防災「復興事前準備の主流化に向けた取組事例集について(2022年12月)」
*国土交通省|都市防災「復旧・復興まちづくりサポーター制度」
*ライフルホームズ|災害が起こる前から復興を考える意味とは。東京都主催「都市の事前復興シンポジウム」
*東洋経済オンライン|進まぬ仮設住宅に潜む次なる大震災への不備
*日本経済新聞|巨大防潮堤、被災地で反対運動 議論に住民不在
(以上)