災害用語を解説する今回のテーマは「応急危険度判定」。
大きな地震がおきたとき、たとえ自宅が倒壊しなかったとしても「この家にいて大丈夫かな?」「もしまた大きな揺れがきたら倒れないかな?」などと心配になるものです。
応急危険度判定は、このような被災者の不安軽減にもつながります。
今回は「応急危険度判定の基本」を確認したのち、「3つの注意点」や「実際の活動がわかる3つのツール(報告書・情報誌・動画)」をご紹介します。
それではさっそくはじめましょう!
応急危険度判定とは
はじめに、応急危険度判定の「目的・判定をする人・判定結果の周知方法」について解説します。
二次災害をふせぐために実施
応急危険度判定とは、大きな地震で被災した建物の危険度を判定することです。
揺れによってどのくらい建物に被害がおよんでいるのか、それは素人にはわからないものです。
もし建物に大きな被害が生じていた場合、住人や付近の通行人がケガをしたり、最悪の場合には命を落とす可能性もあります。
したがって、地震発生から早い段階で建物に倒壊や屋根の落下といった危険がないかどうかを調査し、その結果を周知することで二次災害をふせぐのです。
講習をうけた専門家が調査
調査をおこなうのは建築士などの資格をもつ「応急危険度判定士」とよばれる専門家です。
建築士など専門的知識や技術を有する人が、各都道府県がおこなう講習をうけ「応急危険度判定士」として登録されます。
そして、災害時には被災地からの要請をうけて派遣され、2人1組となりボランティアとして現地で活動をおこなうのです。
判定は全国統一の判定基準にもとづく外観目視が原則ですが、実施本部からの指示によって内観調査をすることもあります。
受講条件は都道府県で異なる
応急危険度判定士の受講条件は、主に建築士や行政職員であるものの、詳細は都道府県ごとに異なります。
たとえば、宮城県では下記の条件があります。
■宮城県の場合
① 一級、二級及び木造建築士
宮城県公式ウエブサイト「被災建築物応急危険度判定について」より引用
② 建築基準適合判定資格者
③ 特定建築物調査員
④ 一級、二級及び木造建築士試験に合格している者
⑤ 建築行政実務経験者(官公庁で建築行政に関する実務の経験年数が3年以上の者)
⑥ 更新登録者または既登録者で再受講を希望する者(受講申込書に判定士登録番号を明記のこと)
都道府県によっては➀と⑤に限定していたり、⑤の経験年数は問わないところなどもあります。
そのため、応急危険度判定士を志す方は、講座をうける都道府県の受講条件を確認することが大切です。
判定ステッカー3色の意味
判定は原則、建物の外観を調べますが、状況によって室内を調査したり住人へ聞き取りをすることもあります。
そして、その結果を「判定ステッカー」で玄関などの目立つところに掲示するのです。
判定ステッカーは危険度に応じて3色にわかれており、「赤」は建物への立ち入りは禁止、「黄色」であっても“立ち入りには十分な注意が必要”とされています。「緑」の建物は使用可能です。
応急危険度判定に関する3つの注意点
揺れによって自宅がどのくらい危険な状態にあるのか、それを把握することは安全な避難生活をすごすうえで不可欠です。
そのため、被災者は一刻も早く応急危険度判定をしてほしいと思うことでしょう。
しかし、応急危険度判定に関して気をつけなければいけないことがあります。
“偽物”にだまされないで!
被災地では『応急危険度判定士をよそおった人』に気をつけなければなりません。
「自宅の修理が必要」などと言って勧誘・高額な費用を請求されるケースがあるのです。
正式な応急危険度判定士は登録証や腕章を身につけています。
応急危険度判定の実施主体は被災市町村です。少しでも怪しかったり不安を感じた場合には、契約したりお金を払わず、まずは市町村に確認しましょう。
「応急」の意味を知っておこう
応急危険度判定における“応急”には、2つの意味がふくまれています。
それは「緊急性」と「暫定性(ざんていせい)」です。具体的には下記のとおりですが、簡単に言うと「短期間で調べた一時的なもの」です。
もちろん、判定活動は専門スキルをもつ応急危険度判定士によって実施されます。
しかし、不必要なトラブルを避けるためにも、あらかじめこれらの意味があることを知っておくことは大切でしょう。
■応急危険度判定における「応急」の意味
1.緊急性
応急危険度判定は二次被害の防止が目的のため、地震発生直後から短期間で判定をおこないます。
2.暫定性
多くの建物を限られた調査項目で判定します。そのため、後に十分時間をかけてされる調査とは、判定結果が異なる場合もあります。
被害認定(全壊/半壊等)とは異なる
住宅の被害と聞くと「全壊」や「半壊」といった言葉を思い浮かべる方もいるでしょう。
しかし、応急危険度判定はこれらの認定に必要な調査とは異なります。
「全壊」などの判定に必要な調査は「住家被害認定調査」とよばれるものです。
「応急危険度判定」と「住家被害認定調査」は異なることについて、わかりやすいQ&Aがあるのでご紹介します。
Q9. 応急危険度判定で「危険」と判断された住宅は、被害認定でも「全壊」になるのですか。
内閣府防災情報のページ「被害認定に関するQ&A」より引用 ※太字は筆者加筆
A9. 応急危険度判定で、「危険」と判断されても、被害認定で必ず「全壊」と認定されるわけではありません。
例えば、住宅そのものに被害はないが、隣の家や擁壁が倒れてきそうで危険な住宅は、応急危険度判定では「危険」と判断されることがありますが、被害認定では、「半壊に至らない」となります。
どちらの調査も実施主体は被災市町村です。
応急危険度判定の活動がわかる3つのツール
ここからは、応急危険度判定の実務がよくわかる3つのツール(報告書・情報誌・動画)をご紹介します。
応急危険度判定に興味がある方はぜひ一度ご覧になると、より活動がイメージできるでしょう。
熊本地震の活動報告書
熊本地震(2016年4月14日/16日発生)では28時間以内に震度7を2回も観測しました。
熊本災害デジタルアーカイブには、この地震の教訓や復旧・復興のなかで得たノウハウ等がのこされています。
このなかに、三重県亀山市から派遣されて応急危険度判定をおこなった方の記録『被災地での活動報告書』※があります。※熊本災害デジタルアーカイブ|被災地での活動報告書/提供者 三重県亀山市
倒壊した建物が道をふさいでいるといった状況のほか、熊本県職員とのやりとりなども記載されており、被災地における応急危険度判定の活動について知ることができるでしょう。
判定士むけ情報誌
次にご紹介するのは、応急危険度判定士にむけた情報誌、神奈川県建築物震後対策推進協議会が発行する『判定士だより』です。
『令和4年度発行 判定士だより 30号』では、登録証やヘルメット用シールといった準備物から、活動の実例として建物の傾斜測定に使う「下げ振り」の使い方まで、くわしく解説されています。
活動中の写真や図解も多く掲載されているので、具体的な活動がイメージでき、読みごたえがあるでしょう。
動画(判定マニュアル)
じっくりと実際の活動について知りたい方には、応急危険度判定についての動画がおすすめです。
建築に関する防災意識向上などにとりくむ一般財団法人日本建築防災協会(以下、日本建築防災協会)が、動画で『応急危険度判定マニュアル』を公開しています。
この動画(約39分)には、活動に必要な資機材の受けとり段階から、実際の活動で使用する調査票の記入の仕方まで細かく解説されています。
応急危険度判定士をめざす方はQ&Aでより詳しく学ぼう!
応急危険度判定の目的は、大地震発生後の建物の危険度を調査し二次災害をふせぐことです。
大災害から生き残った命を二次災害で失わせないため、応急危険度判定士はボランティア活動にとりくみます。
しかし、その応急危険度判定士の数は足りていないとも言われています。
南海トラフ巨大地震などの大地震が予想される現状において、それは重大な課題と言えるでしょう。
日本建築防災協会では、応急危険度判定について63個のQ&Aを掲載しています。
ちょっとでも関心のある方は、ぜひご覧になってみてください。
【参考サイト】
*(一財)日本建築防災協会|応急危険度判定
*宮城県公式ウエブサイト|被災建築物応急危険度判定について
*藤沢市公式ホームページ|応急危険度判定について
(以上)