災害によって住む家を失った人に、国や自治体が提供するのが仮設住宅です。
仮設住宅には「みなし仮設住宅」とよばれるタイプがあります。
かつては、プレハブの仮設住宅に代表される「建設型」が主流でしたが、近年では「みなし住宅」の割合が多くなっている現状にあります。
しかし「“みなし”ってなに?」「家賃や入居期間はどうなっているの?」など、さまざまな疑問がわくのではないでしょうか。
そこで今回は「みなし仮設住宅」に関する5つの疑問を解決し、さらに東日本大震災で仮設住宅にすんでいた筆者が「みなし仮設住宅」について見聞きしたこともふまえながら、その課題についても考えます
災害で住む家を失ったとき、あらたな生活の場となるかもしれない「みなし仮設住宅」について、今のうちにしっかり学んでおきましょう。
みなし仮設住宅とは“民間の賃貸住宅”を借り上げたもの
応急仮設住宅には「建設型応急住宅」と「賃貸型応急住宅」の2種類があります。
プレハブや木造といったあらたに建設される仮設住宅を「建設型応急住宅」、そして今回おつたえする、みなし仮設住宅は「賃貸型応急住宅」です。
本記事でつかう用語は「プレハブ仮設住宅」および「みなし仮設住宅」、そしてこれらをあわせて「応急仮設住宅」として解説します。
疑問1:“みなし”ってなに?
「みなし仮設住宅」とは、国・自治体がアパートや貸家など “民間の賃貸住宅”を借り上げて、仮設住宅として被災者へ提供するものです。
そのため「借り上げ仮設住宅」や「賃貸型応急住宅」とよばれることもあります。
もともと仮設住宅としての用途ではないため、“仮設住宅としてみなす”ということから、みなし仮設住宅となったのでしょう。
疑問2:すべての賃貸住宅が対象?
賃貸住宅ならどれでも、みなし仮設住宅になるわけではありません。
みなし仮設住宅として提供することを貸主や不動産業者が了承し、国・自治体にたいして所定の手続きをおこなった住宅が対象です。
近年自治体によっては、賃貸住宅をあつかう団体との間で事前に協定をむすぶことで、災害時のすみやかな住宅の提供にそなえているところもあります。
疑問3:家賃はかかるの?
応急仮設住宅に家賃は発生しません。
みなし仮設住宅の場合には、入居の際に必要な敷金や礼金も国・自治体が負担することになります。
ただし、次のように自己負担となるものもあります。
◇みなし仮設住宅で入居者負担になるもの(一例)
・光熱費
・駐車場代
・ペット飼育追加料 など
みなし仮設住宅の家賃には上限がもうけられるため、被災者みずから住宅を探すときは、事前に自治体へ確認するなど注意が必要です。
筆者が入居していたプレハブ仮設住宅では、敷地内に駐車場があり無料でした。すべてのプレハブ仮設住宅に駐車場があるとは限りませんが、生活に車が欠かせない方はこの点も念頭にいれておくとよいでしょう。
疑問4:入居期間はいつまで?
応急仮設住宅の入居期間は、災害救助法にて最長2年間と定められています。
しかし、延長が可能であり、これまでの災害でも必要に応じた延長措置が講じられています。
たとえば、東日本大震災から12年が経った現在でも、福島第一原子力発電所事故によって避難生活を余儀なくされている方がいます。
そのため、福島県では大熊町と双葉町からの避難者にたいして、応急仮設住宅の提供をさらに1年延長し、令和6年3月までとしています。
疑問5:みなし仮設住宅のメリットは?
プレハブ仮設住宅に住んだ筆者が、それとくらべて感じる、みなし仮設住宅のメリットは次のとおりです。
◇被災者にとっての「みなし仮設住宅」のメリット
・住環境(暑さ寒さ対策・防音など)が良い
・プライバシーが確保できる
・プレハブ仮設住宅より早く住宅を確保できる
・住宅タイプ(間取りや階数など)を選ぶことができる など
もちろん、災害の規模や地域の事情等によっては、みなし仮設住宅に入りたくてもすぐには見つからないこともあります。
また、みなし仮設住宅にもデメリットとされる点も指摘されているのです。
みなし仮設住宅にも困ることはある
一定の敷地内に被災者がすむプレハブ仮設住宅とくらべて、みなし仮設住宅は各地に点在します。
そのため、次のような課題が指摘されているのです。
筆者が住んだプレハブ仮設住宅の状況とあわせておつたえします。
支援(物資・情報・健康チェック)がとどきにくい
プレハブ仮設住宅では、毎日スタッフの方が健康チェックをかねて見回りにきてくれました。
そのとき「こちらは○○県△△からの支援物資です」と言って、支援品をいただくことがあったのです。
このことをご近所さんや知人と話をしたとき、「“みなし(仮設住宅)”の人はもらってないみたい・・・」と聞いたのです。
被災者が一箇所に集まるプレハブ仮設住宅にたいして、みなし仮設住宅ではどこに被災者が住んでいるのかすらわからないことがあり、支援の差につながっている現状があります。
被災者同士が交流する機会がすくない
ある賃貸住宅を一軒まるごと「みなし仮設住宅」にした場合でなければ、そこにすむ人が被災者かどうかはわかりません。
とくに地元で周囲の人たちとともに生活してきた人にとっては、慣れない土地での生活はストレスを感じ、体調不良へとつながりかねない問題です。
筆者が住んだプレハブ仮設住宅では、ボランティアさんによるイベントがおこなわれることもあり、住民同士が自然と交流できる場になっていました。
また、プレハブ仮設住宅には集会所内に子ども用スペースももうけられていたため、通っているうちに顔見知りの友人ができたのです。
このほかにも、被災した地元をはなれて「みなし仮設住宅」に住むことによる人口減少・過疎化なども指摘されています。
孤立を防ぐとりくみを実施~よか隊ネット熊本
熊本地震(2016年4月14日・16日)において、このような「みなし仮設住宅」の課題解消にとりくんだ団体があります。
それは「一般社団法人 よか隊ネット熊本」で、こちらの団体では益城町(ましきまち)からの依頼をうけ、みなし仮設住宅への訪問やイベントを開催したのです。
イベントでは200人以上のスタッフおよび30団体と協力のもと、なんと600人もの参加があったといいます。
その後も、イベントより身近なカフェの開催や、熊本県を中心に被害をもたらした令和2年7月豪雨による被災者支援をおこなっています。
まとめ「みなし仮設住宅じゃなかったら・・・」にならないために
応急仮設住宅のうち、みなし仮設住宅がしめる割合は東日本大震災で60%、熊本地震では78%、2019年の台風19号では実に90%だったとされています(参考:讀賣新聞オンライン【独自】いまや「プレハブ」ではない仮設住宅の主流…震災以降、賃貸活用の「みなし仮設」7割以上)。
みなし仮設住宅には自治体・被災者の双方にとってメリットがある反面、“支援”という枠組みでみると課題も指摘されています。
その解決には「支援を必要とする人(被災者)の把握」や「孤立しないための支援」が求められるでしょう。
しかし、これは災害時にかぎったことではなく、ふだんから賃貸住宅には子育てをしている人や高齢者の一人暮らしなど、支援が必要な人たちがいます。
『災害時にはふだんやってきたことしか役立たない』とも言われます。
災害時「みなし仮設住宅にいたから、こうなってしまった」ということは、防がなければなりません。
【参考文献】
*内閣府 防災情報のページ:被災者の住まいの確保「5.賃貸型応急住宅の供与」
*NHK「双葉・大熊町から避難の人の仮設住宅 県が無償提供1年延長へ」
*福島県「応急仮設住宅の供与期間の延長について(令和4年8月8日公表)」
*笑顔の架け橋Rainbowプロジェクト「熊本の「みなし仮設」避難者を孤立から救う、”つながるCafé”を作りたい!」
(以上)