「スロッシング現象」で災害時に貯水槽が破損・石油タンク火災が発生

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2023年4月14日で熊本地震から7年になります。

熊本地震では、今回お伝えするスロッシング現象によって、病院などの貯水槽が破損し水が漏水する事態が発生しています。

わたしたちの命を支える貴重な水が、スロッシング現象によってムダになってしまう可能性があるのです。

さらに、2003年に発生した十勝沖地震ではスロッシング現象が原因で石油タンク火災もおきています

そこで今回は、スロッシング現象とはなにか?地震でどのような影響があるのか?について解説します。

ぜひ一緒に学びましょう。

目次

スロッシング現象は容器内の液体が揺れうごくこと

はじめに、スロッシング現象の定義を確認しましょう。

コトバンクでは次のように記しています。

液体を入れた容器が振動した場合に液体の表面が大きくうねる現象

引用:コトバンク デジタル大辞泉「スロッシング現象」

言い換えると「容器がゆれるとともに中の液体も波打つように動く現象」となるでしょうか。

今回は、この“容器”が貯水槽や石油タンクであった場合の影響を解説していきます。 

スロッシング現象が貯水槽にあたえる影響

はじめに、貯水槽でスロッシング現象がおきるとどうなるかみてみましょう。

貯水槽は水を貯めておく設備ですが、その水は飲み水だけでなく生活用水や透析など医療行為にもつかわれます。

受水槽と呼ばれるものもありますが、これは水道水を貯めておくもので貯水槽の一部です。

貯水槽側面や天井の破損~熊本地震

熊本地震では、2016年4月14日に前震とよばれるマグニチュード6.5の揺れ、そして16日にマグニチュード7.3の本震が発生しました。

いずれも最大震度7であり、28時間以内に2回もの大きな地震がおきたはじめての事例です。

この大きな揺れは貯水槽にも影響をおよぼし、配管の損傷やスロッシング現象によって貯水槽が壊れる被害が確認されています。

下の写真は、熊本市内の病院に設置されていた貯水槽です。

出典:特定非営利活動法人貯水タンク防災ネットワーク(NPO Chonet)「巨大自然災害に備えての貯水タンクのあり方」https://www.chonet.org/lecture00.html

左の写真では側面が、右では天井の光がさしている部分がこわれているのがわかります。

病院では医療行為だけでなく入院患者の飲用やトイレなどたくさんの水が必要です。貯水槽を地震からまもることは、わたしたちの命をささえるために不可欠なのです。

小学校の貯水槽のうち約3割が破損~東日本大震災

貯水槽は多くの住民が避難してくる学校にも設置されています。

中央大学平野廣和教授によると、2023年3月11発生の東日本大震災(マグニチュード9.0、最大震度7)では、仙台市内の公立小学校196校のうち『32%にあたる62校で貯水槽の破損事例が発生し、そのうち11校は完全に破壊されていた』と言います。

出典:中央大学 平野研究室|貯水タンクの地震被害調査と対策「東日本大震災での調査」https://hirano.r.chuo-u.ac.jp/sloshing/category1/entry12.html

水は「手をあらう」など衛生面の確保にも不可欠です。災害から生きのびた先の避難所にあって、感染症や健康被害といった二次災害はふせがなければなりません。

貯水槽の地震対策・定期点検は欠かせない

貯水槽には避難生活をささえるための貴重な水が確保されています。

そのため自治体によっては、防災計画に貯水槽の活用を明記し、貯水槽の耐震化をおこなっているところもあります。

ここでは貯水槽への地震対策や定期的な点検が欠かせないことをしめす、2つの事例をご紹介します。

貯水槽が破壊・土砂崩れで住民が犠牲に

熊本県南阿蘇村では、村内にあった水力発電所の貯水槽が熊本地震によって決壊しました。

ふもとには土砂が流れ込み、9世帯が被災・2名が亡くなったのです。

「土砂災害は人災」と訴える住民に対し、九州電力は「災害は不可抗力」と主張し、住民が納得できる結果はえられないまま住民は移転をよぎなくされています。

貯水槽は定期点検で災害時もつかえる状態に 

2022年9月に発生した台風15号によって、静岡市清水区岡地区では約6万3000世帯が断水しました。

住民は市が設置した耐震性貯水槽をつかい給水をおこなおうとしたのですが、ポンプが故障しておりバケツリレーで対応したのです。

また、貯水槽があることを住民が知らず、活用できなかったものが1基あったといいます。

「いざというとき使える」ためにも、わたしたちは貯水槽の存在やその管理についてあらかじめ確認しておくことも大切でしょう。

石油タンクでスロッシング現象がおきると火災の危険

スロッシング現象がおきるのは貯水槽にかぎりません。

ここでは、石油タンクでスロッシング現象が発生し火災につながった事例をご紹介します。

十勝沖地震では石油タンク2基から出火

出典:気象庁「長周期地震動による被害」https://www.data.jma.go.jp/eqev/data/choshuki/choshuki_eq3.html

2003年9月26日に発生した十勝沖地震(マグニチュード8.0・最大震度6弱)では、苫小牧市にある石油タンク2基でスロッシング現象による火災が発生しました。

タンク内の石油の上に浮かんで蓋の役目をする「浮き屋根」が、地震のゆれで最大3メートルも上昇したのです。

浮き屋根は大きく揺れうごいてタンクにぶつかり、地震から2日後に静電気により火災が発生したとされています。

長周期地震動によるスロッシング現象の発生

苫小牧市は震源から約250キロメートル離れているにもかかわらず、大きなゆれ(苫小牧市しらかばで震度5弱)におそわれました。

これは、一往復する揺れの時間が長く、震源からはなれた遠くの場所まで大きな揺れが伝わる「長周期地震動」によるものです。

熊本地震では、大分県でスロッシング現象による貯水槽の破損が確認されています。

今後巨大地震の発生が予想されるなか、貯水槽や石油タンクにおけるスロッシング現象への対策は、日本中で必要ではないでしょうか。

※長周期地震動についてくわしくは、こちら(気象庁ホームページ)をご覧ください。

まとめ

今回は「スロッシング現象とはなにか?」そして、「どのような被害がおきるのか」についてお伝えしました。

スロッシング現象とは、容器のゆれとともに中の液体もゆれうごく現象です。

この現象によって、熊本地震では貯水槽が破損し、十勝沖地震では石油タンク火災が発生しました。

しかも、貯水槽の耐震設計は当時『最新の基準で設計・製作されていた』ものでした。

これをうけ、中央大学平野廣和教授をはじめとする専門家は、現地調査のうえ耐震設計の見直しなどを指摘し、その後に産学連携による制震装置の開発へとつなげています。

今回ご紹介したスロッシング現象の被害は一例にすぎませんが、今後大きな地震の発生が高い確率で予想されているなか、おなじ被害をもたらしてはいけません。

「地域内にある貯水槽の耐震化をすすめる」「貯水槽の場所を確認する」など、それぞれの立場で今からできる取り組みを考えてみませんか?

【参考文献】
*公益社団法人 空気調和衛生工学会:2019年学会誌 第93巻 特集「設備の耐震とリスク予測・ 機能継続対策」
*特定非営利活動法人貯水タンク防災ネットワーク(NPO Chonet)「巨大自然災害に備えての貯水タンクのあり方」
中央大学 平野研究室|貯水タンクの地震被害調査と対策 「貯水タンクを地震から守れ」
*消防庁 消防大学校消防研究センター「長周期地震動とは」
*公益社団法人 日本水道協会「(10-24)熊本地震における貯水槽水道の活用調査」
*産経新聞「黒川第一発電所タンクから水1万立方㍍流出、直下集落で土砂崩れ、九電が因果関係の調査へ」
*西日本新聞me「納得はしていない」古里手放す区長の決断 熊本地震で犠牲、亡き夫婦に報告
*あなたの静岡新聞「自助・共助を見直す契機に 孤立解消、道復旧へ住民団結/耐震性貯水槽、活用して給水 台風15号
*熊本県「第1章 熊本地震の概要」
*静岡県「台風第15号による被害状況について」第37報
*NHK 明日を守るナビ「“備えない防災”「フェーズフリー」 日常のものが災害時にも使える!?」
*気象庁「強震波形(ホームページ価値沖地震(震))」
*気象庁「長周期地震動による被害」

(以上)

備えておこう!おすすめの防災グッズ

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この記事を書いた人

東北出身&在住フリーライター。
広告代理店・NPO・行政で勤務後、在宅ワーカーに転身。
妊娠中に東日本大震災に遭い、津波から避難・仮設住宅で子育てをする。
本サイトでは「命を守るために知っておきたいこと」「日常に潜むリスクへの備え」などについて発信します。
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