火山ガスの成分と影響~注意が必要な地形・活火山を学ぶ

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2023年4月4日、福岡県や佐賀県内で「硫黄(いおう)の臭いがする」という声がSNSにあげられました。

調査の結果においをもたらした大気は、阿蘇山(熊本県)や九重山(大分県)付近を通過していたため、火山ガスの影響が指摘されたのです。

健康被害の心配はなかったものの、火山ガスと聞くとちょっと心配になるのではないでしょうか。

そこで今回は、火山ガスの成分と人体への影響について調べてみました。

さらに、「火山ガスがでている観光地での取り組み」、そして「火山ガス災害」や「注意が必要な活火山」「火山ガスがたまりやすい地形」についても解説します。

日本にはたくさんの活火山があり、登山や観光でいく場所が火山ガスに注意が必要ということも十分にありえます。

ぜひ本記事を参考に、火山ガスについての知識を得て備えてくださいね。

目次

火山ガスの成分は多くが水蒸気だが有毒物質もふくまれる

はじめに「火山ガスとは何か?」そして、「火山ガスの成分の特徴と人体への影響」について解説します。

火山ごとに火山ガス成分の割合は異なる

気象庁では、火山ガスについて次のように記しています。

火山ガスとは、火山活動により地表に噴出する高温のガスのことです。水、二酸化硫黄、硫化水素、二酸化炭素などを主成分としています。

引用:気象庁「火山ガス(二酸化硫黄)の放出量」 ※太字は筆者加筆

火山ガスの成分はほとんどが水(水蒸気)ですが、その比率は火山によって異なるのです。

例をあげてみてみましょう。

火山別「火山ガス成分の割合(有珠山・キラウエア火山)

「有珠山」の場合
水(99.2%)、二酸化炭素(0.43%)、二酸化硫黄(0.067%)、硫化水素(0.017%)など
「キラウエア山」の場合
水(70.75%)、二酸化炭素(14.07%)、二酸化硫黄(6.405)、窒素(5.45%)など

コトバンク ブリタニカ国際大百科事典「火山ガス」より一部引用

火山によっては水の割合が9割にもなるのですね。この点は、火山で放出している火山ガスが白い煙のようにモクモクしていることを想像すると、わかりやすいでしょう。

では、水以外の成分にはどのような特徴と危険性があるのでしょうか。

「二酸化硫黄(にさんかいおう)」「硫化水素(りゅうかすいそ)」「二酸化炭素(にさんかたんそ)」について解説します。

二酸化硫黄|ぜんそく患者は低濃度でも影響をうけやすい

二酸化硫黄に対する影響のうけやすさは個人差が大きいものの、呼吸器や皮膚・目や鼻、喉などの粘膜を刺激します。

とくに、ぜんそくがある人は影響をうけやすく、そうでない人にとっては問題とならないほどの低濃度であっても、発作を誘発し症状を悪化させる可能性があるとされているのです。

短時間に高濃度をすいこんだ場合には、ぜんそく疾患等がない人でも2.0ppmで咳がでたり目がチカチカするといった影響がではじめ5.0ppmをこえると避難が必要とされています。

日本の環境基準(=人の健康を守るために必要な基準)では、『1時間値の1日平均値が0.04ppm以下であり、かつ、1時間値が0.1ppm以下であること。』となっています。※引用:環境省「大気汚染に係る環境基準」より

【参考文献】
IVHHN『火山地域・地熱地帯における 火山ガスの健康影響 地域住民のためのしおり』
東京都三宅村「よくあるご質問」

硫化水素|くさった卵のにおい・高濃度で嗅覚が麻痺する

温泉地などで卵がくさったような独特のにおいを嗅いだことがある方もいるでしょう。それが硫化水素の特徴でもあります。

しかし、このにおいは高濃度、もしくは低濃度でも長時間におよぶと嗅覚が麻痺して感じなくなるとされています。したがって、においだけで危険を感知することはよくありません。

10ppmまでは許容濃度とされていますが、20ppmで気管支炎や肺炎、350ppmで生命の危険とされています。

【参考文献】厚生労働省「なくそう!酸素欠乏症・硫化水素中毒」

二酸化炭素|無臭・大気中にもあるが高濃度は危険

二酸化炭素は大気中にも400ppmほど含まれていますが、1,000ppmになると室内環境は換気不足とされ眠気や不快感を感じる人もでるといいます。

2,000ppmではめまいや吐き気・頭痛をもたらし、10,000ppm以上で命をおとす可能性がでるとされています。

過去には山のくぼ地に溜まっていた二酸化炭素を吸ったことが原因で亡くなった事例もあります。

【参考文献】ミッシェルジャパン「二酸化炭素(CO2)濃度と室内空気品質の関係, ROT21-01」

火山ガス濃度を計測して安全を確保~2つの事例紹介~

火山ガスの成分には有毒なものがふくまれることはわかりました。

しかし、日本には各地に活火山があり、噴火時でなくとも火山ガスが放出されている地域もあります

そのため、それらの地域では火山ガス濃度を計測し状況の把握に努め、また火山ガスによって命の危険がある人を明らかにして利用を制限しているケースもみられます。

ここでは2つのケースをご紹介します。

箱根ロープウエイ~乗車できない人をホームページに明記

神奈川県の観光地として有名な箱根では、ロープウエイで眼下に広がる迫力ある風景を空中から楽しむことができます。

ロープウエイでも通過する大涌谷(おおわくだに)は、火山ガスの噴煙や温泉地でゆでた“黒たまご”でも知られる箱根の人気スポットです。

ホームページには火山ガスの観測結果が「平常・注意・要注意・警戒」の4段階で示され、かつ駅一部の数値も公表されています。

一方で、火山ガスの影響をうけやすい「アレルギー性ぜん息」や「心臓疾患の方」などについては、一部区間においてロープウエイへの乗車はできないことになっています

詳しくはこちら(箱根ナビ「注意暗記・安全対策」)から確認できるので、おでかけの際はチェックしましょう。

東京都三宅村~かつて全島民に避難指示・二酸化硫黄の観測開始

火山ガスに注意が必要な活火山のひとつに「三宅島」があります。

三宅島は東京都三宅村にある活火山で、直径8kmの島には数多くの野鳥が生息していることでも知られています。

過去500年間で13回の噴火がある島ですが、2000年6月からはじまった噴火活動では全島民が島外への避難をよぎなくされ、避難指示解除まで4年5か月を要するほど高濃度の火山ガスが放出されたのです。

気象庁は2000年8月から火山ガス成分「二酸化硫黄」放出量の観測をつづけていますが、近年その数値は低い状態を維持しています。

「三宅島 火山ガス(二酸化硫黄)放出量」の推移

出典:気象庁「三宅島 火山ガス(二酸化硫黄)放出量」https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/320_Miyakejima/320_So2emission.htm

気象庁が2023年4月10日に発表した資料によると、執筆現在(2023年4月11日)は「噴火警戒レベル1」であり、「山頂火口からの火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は極めて少ない状態」となっています。

火山ガスから身を守るため知っておきたい3つのこと

ここでは「火山ガス災害がおきた火山」「注意が必要な活火山」、そして「火山ガスはどんな地形・天候に影響をうけるのか」の3点についてお伝えします。

火山ガス災害を知る~11活火山で死亡事故

日本では、次の11の活火山で火山ガスによる死亡事故が発生しています。

➀大雪山(たいせつざん 北海道)
➁八甲田山(はっこうださん 青森県)
③秋田焼山(あきたやけやま 秋田県)
④鳴子(なるこ 宮城県)
⑤安達太良山(あだたらやま 福島件)
⑥那須岳(なすだけ 栃木県)
⑦草津白根山(くさつしらねさん 群馬県)
⑧立山(たてやま 富山県)
⑨箱根山(はこねやま 神奈川県、静岡県)
⑩阿蘇山(あそざん 熊本県)
⑪霧島山(きしりまやま 宮崎県、鹿児島県)

たとえば、1997年7月八甲田山では訓練中の自衛隊員が、くぼ地に溜まっていた二酸化炭素を吸いこみ亡くなっています。

さらに同年9月安達太良山では、悪天候で登山道をはずれた結果、火山ガスによる立入禁止区域に入ってしまい登山者4名が命をおとしました。

自分が火山ガスを吸い込まないよう注意することはもちろんですが、万が一事故にあった人を救助するときは自分も影響をうけないよう気をつけなければいけません。

NGP日本物理炭鑛株式会社のホームページには、「最近日本で発生した火山ガス災害」として1970年4月から1997年11月までに発生した火山ガス災害が一覧表でまとめられています。

そこには登山中にかぎらず、スキー中や浴室で発生した死亡事故も記されています。火山ガスの危険性をいま一度確認するため、ぜひご覧になってはいかがでしょう。

注意が必要な活火山(39火山)を知る

環境庁(※現在は「環境省」)『火山ガス事故防止のために 有毒な火山ガスから身を守るための手引き』には、「火山ガスに注意を要する活火山」として39の火山が示されています。

登山や観光などでこれらの活火山に行くときは、火山ガスの状況や安全なルートについて細心情報をチェックすることが大切です。

気象庁「火山登山者向けの情報提供ページ(全国)」では、火山名を選択することで火山ごとの情報を確認することができるので、ぜひご活用ください。

火山ガスがたまりやすい地形・天候を知る

火山ガスの成分は空気より重いため下にたまります

そのため、山の谷間やくぼ地では高濃度になっていることがあるため、登山などでは気をつけなければいけません。

日本で発生した事故の多くが、このよう地形でおきているといいます。

また、風がなく曇っている時には火山ガスが拡散されにくいため注意が必要です。

まとめ~気象庁「火山ガス予報の発表状況」をチェックしよう

火山ガスの成分は水蒸気が多くなっていますが、二酸化硫黄・硫化水素・二酸化炭素のような人体に有毒なものもふくまれています。

においに特徴がある成分もありますが、高濃度になると嗅覚が麻痺するため、においだけで危険を判断することは適切ではありません。

空気よりも重いため山の谷間やくぼ地にたまりやすく、そのような場所では死亡事故もおきています。

日本には火山の恵みを観光資源として生かしている地域がいくつもありますが、同時に「火山ガスに注意が必要な活火山」も39ヶ所あります

自然の恵みを存分に味わうためにも、私たちは事前に現地の状況を確認する必要があるでしょう。

気象庁では「火山ガス予報の発表状況」をホームページに示して、火山ガス濃度が高まるリスクのある地域を伝えています。

このようなツールも活用しながら、安全にそしてたのしく自然の恵みを満喫してくださいね。

【参考文献】
環境庁自然保護局「火山ガス事故防止のために 有毒な火山ガスから身を守るための手引き」
箱根ナビ「箱根ロープウエイ」
weblio辞書「安達太良山火山ガス遭難事故」
YAHOO!JAPAN  災害カレンダー「青森県八甲田山で火山ガス噴出」
毎日新聞:福岡や佐賀で「硫黄の臭い」火山ガスか、健康への心配なし 
気象庁「三宅島(みやけじま)」
東京都三宅村:平成12年(2000年)三宅島噴火災害の記録/概要版『三宅島噴火2000 火山との共生』平成20年2月

(以上)

備えておこう!おすすめの防災グッズ

これから用意しようと思っている方におすすめなのが「Defend Future」の防災士が監修した防災グッズ。自分でリュックに詰められるようになっていたり、簡単に手に入りやすい紙皿などは除いているなど、個人が防災にきちんと向き合えるようになっています。

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この記事を書いた人

東北出身&在住フリーライター。
広告代理店・NPO・行政で勤務後、在宅ワーカーに転身。
妊娠中に東日本大震災に遭い、津波から避難・仮設住宅で子育てをする。
本サイトでは「命を守るために知っておきたいこと」「日常に潜むリスクへの備え」などについて発信します。
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