災害拠点病院とは?ー阪神淡路大震災は、医療現場にどんな変化をもたらしたのか

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災害拠点病院とは、国の指定要件を満たした、災害医療の要となる医療機関です。

整備されるきっかけとなったのは、1995年(平成7年)の阪神淡路大震災です。

当時のどんな状況が災害拠点病院を生み、どのような指定要件へとつながったのか解説します。

医療分野は専門的で難しい面も多いですが、災害という視点から捉えてみると、新たな気づきが得られるかもしれませんよ。 

目次

災害拠点病院の「災害」は自然災害に限らない

はじめに、そもそも「災害」とは何か簡単にお伝えします。デジタル大辞泉には、次のように記しています。

地震・台風などの自然現象や事故・火事・伝染病などによって受ける思わぬわざわい。また、それによる被害。「不慮の災害」「災害に見舞われる」

 デジタル大辞泉「災害」より引用

つまり「災害」とは、台風、地震といった自然災害に限らないということです。

したがって、災害拠点病院には、大きな事件や事故、伝染病という「災害」が発生すると、「一度に多くの患者が発生する」状況になります。

もちろん、災害はいつ、どこで起きるかわかりません。そのため災害拠点病院には、『24時間緊急対応でき、傷病者等の受入れ、搬送ができること』が求められています。

災害拠点病院には2種類ある

 各都道府県の医療範囲は、1次医療圏から3次医療圏に分かれており、災害拠点病院は、2次および3次医療圏に置かれています。

1次医療圏とは、日常的な医療を提供する市区町村単位の範囲になります。

2次医療圏は、複数の市区町村で構成される範囲であり、災害拠点病院を1か所以上、整備することになっています。

この、2次医療圏にある災害拠点病院のことを「地域災害医療センター」と言いい、各都道府県には数カ所から数十カ所あります。

3次医療圏は都道府県単位であり、ここにある災害拠点病院のことを「基幹災害医療センター」と言います。

基幹災害医療センターには、地域災害医療センターに対する教育・研修をおこなうという機能も求められています。1カ所以上の整備が求められており、ほとんどが1カ所あるいは2カ所おかれています。

※全国各地の災害拠点病院については、こちらから確認することができます。                              厚労省「災害拠点病院一覧」令和4年4月1日現在 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000773371.pdf

【参考文献】日本経済新聞「2次医療圏とは 地域医療計画の基本単位」https://www.nikkei.com/article/DGXKZO64121450T20C20A9NN1000/

災害拠点病院は、大災害による医療現場の大混乱を教訓に生まれた

災害拠点病院の整備は、1995年(平成7年)に発生した阪神淡路大震災が契機になっています。

国は、このときの教訓をもとに、翌年1996年(平成8年)に「災害時における初期救急医療体制の充実強化について」として、各都道府県等に通達しています。

阪神淡路大震の際、医療現場ではどのようなことが起きていたのか、さらに、それが「どのような指定要件」へとつながったのかお伝えします。

軽症者・重傷者も、同じ病院に搬送された

現在、災害拠点病院には『重症患者の受入れ・搬送をおこなえること』も求められています。

しかし、当時は、災害拠点病院という指定はなかったため、軽症者も重症者も同じ病院に搬送されました。

また、災害時のような、大勢の患者が一度に発生している場合に実施される「トリアージ※1」が、当時は浸透していませんでした。

その結果「助かるはずの命も助からなかった」という事態になってしまったのです。

これを、踏まえ現在、災害拠点病院の指定要件には『トリアージ・タッグ※2を有していることが求められています。

※1「トリアージ」治療の優先順位を決める行為                                          ※2「トリアージ・タッグ」患者に取り付ける札のことで、トリアージの結果が一目でわかるもの

〇「トリアージ」については、こちらで詳しく解説しています。                                     防災新聞「トリアージとは?命を救うべくおこなう手順・現場・課題を解説!」https://bousai.nishinippon.co.jp/1090/

患者の搬送に最も有効な『ヘリコプター』の活用が不十分だった

震災発生直後には、非常に多くの負傷者等が発生します。そうなると当然、地域内の病院だけでは、対応しきれない数の患者が、病院に押し寄せます。

そこで有効なのが、ヘリコプターの活用です。ヘリコプターで他の医療機関へ搬送することで、患者の状態に応じた医療を提供することが可能になります。

しかし、阪神淡路大震災では、ヘリコプターが十分に活用されませんでした。震災初日、ヘリコプターで搬送されたのは、たった1件だったと言います。ヘリコプターによる搬送が、本格的に運用されたのは4日目以降でした。

そこで現在、災害拠点病院の指定要件には、『ヘリコプターによる傷病者、 医療物資等のピストン輸送を行える機能を有していること』が求められています。

そうなると当然、『病院敷地内にヘリコプターの離着陸場を有すること』も求められているのですが、病院敷地内への確保が難しい場合は、別途条件を満たしたうえで、敷地外でも可能となっています。

ヘリコプターで患者の搬送をおこなう際には、『同乗する医師を派遣できることが望ましい』ことも要件に含まれています。

道路の損壊や病院の被災により、医療物資の輸送・確保が困難になった

阪神淡路大震災という、大震災を引き起こした地震(兵庫県南部地震)は、震度7という大きな揺れでした。

この地震は、プレートが動くことによるものではなく、地下の活断層がずれることにより引き起こされた、内陸型地震でした。

そのため、家屋の倒壊や道路の寸断がいたるところで発生し、医療器材や薬などの医療物資が届くまでに、多くの時間を要したのです。

また、2011年(平成23年)に発生した東日本大震災では、災害拠点病院自体が津波の被害を受け、医療器材が機能しなくなる、といったことも起きています。

こうしたことから災害拠点病院には、『耐震構造』と『水、電気等のライフラインの維持機能』が求められています。

水は、透析治療をはじめ、多くの医療行為、医療器具に利用されるため、特に重要とされています。

災害拠点病院の指定要件まとめ

これまで見てきた、災害拠点病院の指定要件をまとめてみます。

📌災害拠点病院は2種類                                                       基幹災害医療センター・・・都道府県に1カ所以上                                      地域災害医療センター・・・2次医療圏(複数の市区町村圏内)に1カ所以上

📌診療時間                                                         ☑ 24時間緊急対応でき、傷病者等の受入れ、搬送ができること

📌患者の受入れ・搬送機能                                                      ☑ ヘリコプターによる傷病者、 医療物資等のピストン輸送を行える機能を有している                                                       ☑ 病院敷地内にヘリコプターの離着陸場を有すること                                        ☑ ヘリコプターに同乗する医師を派遣できることが望ましい

📌施設の機能・設備                                                         トリアージ・タッグを有している                                                  ☑ 耐震構造である→令和2年8月に厚労省の発表によると、令和元年の災害拠点病院等の耐震化率は「92.4%」。                                                             ☑ 水、電気等のライフラインの維持機能→令和元年7月の指定要件の一部改正で「3日分」など、より詳細に指定されました。

まとめ

災害拠点病院とは、国の指定要件を満たした、災害医療の要となる医療機関です。

阪神淡路大震災という、多くの犠牲を生み出した大災害が契機となり、整備されました。

その後、東日本大震災による災害拠点病院の現状から、指定要件の改正がおこなわれ、現在でも、災害医療に関する検討、改正等はおこなわれています。

今後も災害は起き続け、悲しみ苦しみが生まれるかもしれません。

しかし、災害拠点病院に関わる人たちは、それらの悲しみを無駄にすることなく、より充実した災害医療の提供に向け、きっと前に進んでくれることでしょう。

【参考文献】                                                         内閣府:防災情報のページ「5.阪神・淡路大震災の教訓とそれを踏まえた災害対策について1」http://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/senmon/kongo/1/2-5-01.html#container

コトバンク「兵庫南部地震」https://kotobank.jp/word/%E5%85%B5%E5%BA%AB%E7%9C%8C%E5%8D%97%E9%83%A8%E5%9C%B0%E9%9C%87-172380

独立行政法人 国立病院機構 災害医療センター「災害拠点病院とは」https://saigai.hosp.go.jp/disaster/saigaikyoten.html

厚労省「災害時における初期救急医療体制の充実強化について」平成8年5月10日https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001j51m-att/2r9852000001j5gi.pdf

日本経済新聞「2次医療圏とは 地域医療計画の基本単位」https://www.nikkei.com/article/DGXKZO64121450T20C20A9NN1000/

災害医療大学 「災害とは何か:災害医療における定義【災害医療概論1限目】http://bigfjbook.com/gai-1/

災害医療大学「災害医療の3大特徴とは?救急医療との違いも解説!【災害医療概論3限目】https://bigfjbook.com/gai-3/

厚労省「災害医療」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000089060.html

厚労省「第1回 災害医療等のあり方に関する検討会」https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001j51m.html

コストタウンナビ「災害拠点病院の“新要件”を開設!水の確保が必須になります」https://atss.co.jp/media/disaster-base-hospital2/

厚生労働省「災害拠点病院指定要件の一部改正について」令和元年7月17日https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/000529357.pdf

第8回救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会 平成30年9月27日「広域災害・救急医療情報システム(EMIS)を活用した情報収集体制の強化について」https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/000360980.pdf

GemMed「災害拠点病院・救命救急センターの耐震化率、日本全国では92.4%に達したが、福島や大阪、奈良などでは8割に届かず―厚労省」 https://gemmed.ghc-j.com/?p=35525

厚労省「病院の耐震改修状況調査の結果」https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000659934.pdf

(以上)

備えておこう!おすすめの防災グッズ

これから用意しようと思っている方におすすめなのが「Defend Future」の防災士が監修した防災グッズ。自分でリュックに詰められるようになっていたり、簡単に手に入りやすい紙皿などは除いているなど、個人が防災にきちんと向き合えるようになっています。

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この記事を書いた人

東北出身&在住フリーライター。
広告代理店・NPO・行政で勤務後、在宅ワーカーに転身。
妊娠中に東日本大震災に遭い、津波から避難・仮設住宅で子育てをする。
本サイトでは「命を守るために知っておきたいこと」「日常に潜むリスクへの備え」などについて発信します。
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