災害救助犬は文字通り「災害時に人を救助する犬」のことです。
人間にはない能力を生かして捜索・救命活動をおこなうことができるため、災害が多い日本において不可欠な存在といえるでしょう。
しかし現状では、災害が頻繁に発生するものではないこともあり、その活躍を知る機会はあまりないのではないでしょうか。
そこで今回、災害救助犬について調べてみたところ、その環境には実にさまざまな課題があることがわかりました。
災害救助犬がその能力を生かし災害時に救助を待っている人を助けるためには、これらの課題をひとつずつクリアーしていかなければなりません。
災害救助犬をとりまく環境について、ぜひ一緒に学んでみましょう。
災害救助犬は被災地だけでなく山・海でも活躍する
災害救助犬とは、レスキュードッグと呼ばれることもあり、その名のとおり、災害時に人の捜索・救助活動をおこなう犬のことです。倒壊した家屋が建ち並ぶ被災地での活動をイメージする方も多いかもしれませんが、それだけではありません。災害救助犬は被災地だけでなく、山で遭難した人の捜索や海でおぼれた人の救助活動もおこないます。
山岳遭難者の捜索
警察庁のデータによると、令和3年に発生した山岳遭難者の数は3,075人(前年比+378人)となっています。その内訳は、登山者がもっとも多く(77.9%)、次いで山菜・茸採り(11.3%)となっています。
災害救助犬は、このような遭難者の捜索・救助活動もおこなっています。
人間の3,000倍から10,000倍ともいわれる嗅覚(きゅうかく)で、人の呼気や体臭などをもとに遭難者を捜索するのです。
海などでの救助活動
ふたたび、警察庁のデータによると、令和3年に海や川などで発生した水の事故は1,395件であり、死者・行方不明者は744人にもなっています。発生場所を見てみると、海(49.2%)がもっとも多く、次いで河川(34%)となっています。
災害救助犬は行方不明者を捜索するだけでなく、おぼれている人の服を噛んで岸まで運んだりもします。
警察犬とは異なる能力が求められる
災害救助犬になるためには、もちろん訓練が必要です。犬によっては足場の悪い土砂崩れ現場を歩くのが苦手だったり、泳ぐことが得意ではないこともあります。
警察犬が特定の人物や物を嗅ぎつけるのに対して、災害救助犬はほかの人間(捜索者など)がいるなかで、要救助者だけを見つけ出す必要があります。
このように災害救助犬には、警察犬とはちがった能力が求められ、そのための訓練が必要なのです。
災害救助犬の課題~必要性は20年以上まえに知っているが・・
日本は災害が多いといわれるものの、災害救助犬の普及では海外に遅れをとっているとされています。
日本で災害救助犬の活動が注目されたのは、1991年(平成7年)に発生した阪神・淡路大震災(マグニチュード7.3)だと言われています。現場には、災害救助犬の先進国であるスイスなど、海外から災害救助犬が活動していたのです。これを機に、日本でも災害救助犬の普及が目指されたのです。
しかし、それから20年以上がたった今でも、災害救助犬は思うように普及されず、さまざまな課題があるといいます。
それでは、具体的な課題について解説していきましょう。
災害救助犬を育成・訓練する場が十分ではない
警察犬が各都道府県に訓練場所をもつのに対して、災害救助犬はそのようにはなっていません。それは、災害救助犬を育成・訓練する団体の多くがNPO法人などの民間団体であることに関連しています。自前で訓練場所を探してつくる困難さだけでなく、団体の活動資金さえも十分とはいえないところもあるのです。
災害救助犬がその能力を生かして捜索・救助するためには、適切な訓練場所が今後ますます求められるでしょう。
災害救助犬になるための条件が団体ごとに異なる
そして、訓練を積んではきたものの、災害救助犬として活動できるかどうか見極める必要があります。
この「災害救助犬になれるかどうか」の条件は、日本では統一されていません。つまり、災害救助犬を育成・訓練する団体それぞれの基準において試験を実施しているのです。
そのため、現場にいくつかの団体から災害救助犬が派遣された場合、その能力にはバラツキが見られ効果的な捜索活動を難しくさせる、といった課題も指摘されているのです。
災害救助犬が出動できる体制が整っていない
警察犬は各都道府県警察に所属して、いつでも活動できる体制が整えられています。それに対して、災害救助犬はそのような体制にはなっていません。
先述のとおり、災害救助犬を育成・訓練する団体の多くが民間組織であり、自治体などからの要請がなければ現場で活動することができないのです。
そのため団体によっては事前に自治体などと協定をむすび、災害時の出動にそなえているところもあります。しかし、それでも十分にその機能がはたせなかった現実もありました。
東日本大震災の事例~災害救助犬に出動要請はでなかった
東日本大震災(2011年3月11日、マグニチュード9.0)が発生する4ヶ月前、岩手県では災害時の出動に関して、災害救助犬が活動する2つの団体と協定をむすんでいました。
災害救助犬の出動は、市町村や消防などからの求めに応じて、県が団体に要請することになっていたのです。しかし、東日本大震災という大きな混乱のなか、県には現場からの要請はなかったといいます。
災害救助犬の普及にむけて、ますます前進中!
その後、岩手県では災害救助犬をとりまく環境に、さまざまな変化がおきています。
たとえば、2016年(平成28年)4月には大槌町が災害救助犬の飼い主さんと直接協定をむすびました。その後、2021年1月、その災害救助犬は国内ではじめて、赤十字のボランティア犬として認定されました。(参考:日本赤十字社「災害救助犬2頭が赤十字マーク入りのワッペンを付けて活動します」)
また、災害救助犬の育成・普及を目指し、岩手日報が「育てよう災害救助犬プロジェクト(いわてワンプロ)」を立ち上げ、県内外の災害救助犬に関する情報を発信しています。
災害救助犬が活躍できる環境にむけ私たちにできることとは?
ここまで、災害救助犬の活動と課題についてお伝えしました。
最後に、災害救助犬がその能力を生かして活動することができるよう、私たちにできることの一例をご紹介します。
ここでは、NPO法人 災害救助犬ネットワークとNPO法人 日本捜索救助犬協会、そして、NPO法人 日本レスキュー協会を取りあげます。
災害救助犬についてQ&Aで学ぶ
NPO法人 災害救助犬ネットワークのホームページには、災害救助犬に向いている犬種や訓練内容など、災害救助犬に関するQ&Aが30問あります。
すべてのQ&Aを読み終えたときには、災害救助犬についての基礎知識がしっかり習得できそうですよ。
災害救助犬の訓練場所を提供する
NPO法人日本捜索救助犬協会では、災害救助犬を訓練するための場所の提供を求めています
空き地や山林など、月2回程・短期間でも可能となっています。提供できそうな方は、こちら(団体ホームページ)からお問合せください。
ふるさと納税で活動を支援する
同じく、NPO法人日本捜索救助犬協会では、ふるさと納税(埼玉県久喜市)での活動支援を求めています。
10,000円以上または30,000円以上の寄付で、会報誌や感謝状などを受けとることができます。
クラウドファンディングに参加する
NPO法人日本レスキュー協会では、クラウドファンディング(こちら:Syncable)によって、訓練環境を整備することを目標に掲げています(2022年10月26日現在)。
犬が隠れる場所の増築や修理部品の購入費などに充てられます。
引退した災害救助犬の里親になる
同じく、NPO法人日本レスキュー協会では、引退した災害救助犬の里親(リタイアウオーカー)を募集しています。おおむね8歳を目処に災害救助犬として引退させ、残りの時間を謳歌してもらおうと考えています。
申込には条件があるので、こちら(団体ホームページ)からご確認ください。
災害救助犬の現状を知ることからはじめよう
今回は、災害救助犬とその課題について学んでみました。
現在日本には、災害救助犬の普及に取り組む団体が約40あるとされています。それぞれの団体が、災害救助犬の能力を生かした活動とその可能性を信じて育成・普及などにとりくんでいます。
災害救助犬を育成する人材や訓練場所の不足、災害時にいち早く出動するための体制づくりなど、災害救助犬をとりまく環境にはさまざまな課題があります。
ここでは、その一例と数団体しかご紹介できませんでしたが、まずは「災害救助犬」の現状を知るきっかけとなれば幸いです。
【参考文献】
(以上)